16話
「………」
背を向けたままだったリューズナードが、顔だけくるりと振り向いた。
「……お前の用は済んだのか」
「え? ……あ、はい」
「村へ戻る。ついて来い」
それだけ言うと、リューズナードは再び一人で歩き出してしまう。少しの間ポカンとしていたが、やがて我に返ったロレッタは、慌てて彼の背中を追いかけた。ついて来るよう言われたのだから、説明などされなくとも自分はついて行かなければならない。姉から嫌と言うほど叩き込まれた教示だ。
リューズナードが先導する道は、ロレッタが往路として使用した道とは異なるものだった。見覚えのない風景に不安が募り、つい尋ねてしまう。
「あの……こちらの道を進むのですか?」
「こっちのほうが、近い」
「そう、なのですか……」
必要なことだけを短く返され、それ以上何も続けられなくなる。現地住民である彼が迷うはずなどないのだから、と自分を納得させ、ロレッタは黙って足を動かした。
それから少し進んだところで、久しぶりにパンプスのヒールが、コツッ! と軽快な音を立てた。不思議に感じて足元を見回すと、随分開けた道に出ていたようだ。ドレスが引っ掛かりそうな障害物も、ヒールが草や地面にめり込む感触もない。舗装されているわけではないけれど、硬くて平らな地面が踏みしめた足をしっかりと押し返してくれている。
足を取られる心配がなく、往路よりもずっと楽に歩けそうだ。そう気付いた時、思わず先を行く背中を見詰めてしまった。
(……もしかして、歩きやすい道を選んでくれたのかしら……?)
確認する勇気が出ないので真相は分からない。しかし、どうせ分からないのだから、と、ロレッタはそう思い込んでおくことに決めた。
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