第4章 番外編④
早く用事を済ませてしまおうと、適当な木の真下へ歩を進める。そうして、齢いくつかも分からない立派な幹を目の当たりにした時、以前ロレッタが「背が足りない」という理由から魔法を使って枝を落としていた様子を思い出した。
(…………)
一方、リューズナードは少し背伸びをしただけで、枝にも果実にもしっかり手が届いてしまった。赤い果実を手の平で包み、力を加えてポキリと
こんな所にさえ手が届かないような小さな体で、災害を食い止めて見せたのか。やはり、王族の魔力は規格外だと思い知らされる。ただ、彼女はその規格外の力を行使して、村を救った。魔法国家の人間が、一体なんの為に……いや、考えるのはひとまずやめよう。頭が痛い。
混線してきた思考を振り払いつつ、リューズナードは手中の果実を眺めた。生息していることは知っていたが、そう言えば口にしたことはなかった気がする、この果物。食べれば魔力が回復するらしい。
しばし逡巡した後、愛刀を抜いて果実を一刀両断した。赤いのは皮だけのようで、中の果肉は真っ白、中心付近には黒い種子も埋まっている。虫がいないのを確認し、断面にガブリと噛み付いた。
(……確かに、あまり美味くはないな……)
どれだけ咀嚼しても、舌で転がしても、大した味がしない。食感のお陰で果物だということは認識できるが、味を尋ねられても説明できる自信が持てなかった。食の好き嫌いがない自分でさえこう感じるのだから、恐らく誰が食べても好い顔はしないのだろうと思う。食後のデザートに、とこれを単体で出されたら、少し気落ちしてしまいそうだ。
強い毒性は感じなかった為、味の追及を諦めて喉の奥へ流し込む。……が、予想通り「魔力の回復」とやらは体感できなかった。固形物が食道を通過して、胃へ落ちていく感覚しかない。
非人という蔑称を容認するつもりは毛頭なかったが、根本的な体構造の一部が違うのは、否定しようのない事実だ。生まれつき魔法を使えない自分たちは、魔法を使える人間とは、やはり別の生き物なのだろうか。そうだとしても、黙って迫害を受け入れてやる理由になど絶対にならないが。
ともあれ、ここのルワガが問題なく食べられるものであることは確認できたので、もう一個だけ追加で捥ぎる。口を付けてしまった分は無心で食べ切り、残った皮だけ持ち帰ることにした。このタイプの果物の皮は、たぶん洗剤や芳香剤の代わりになる。リューズナードにそれを自分で使う機会が訪れるかどうか、保証は全くないけれど。
さて、この果物の果肉をロレッタに食べさせたいわけだが、今の彼女は病人である。さすがに、病人に果物を丸かじりさせるのは良くない。食べやすい状態で提供するべきだろう。つまりは、食器が要る。
(食器…………無いな)
自宅の設備や雑貨を思い浮かべるも、その中に食事用の器やカトラリーなどもちろん無い。肉も、魚も、野菜も、大抵の物は器に盛らずとも食べられるし、炊き出しに顔を出せば器に盛られた状態で料理を分けてもらえる。だから自宅に食器が無くても、生活するのに困らなかったのだ。ただ、今回は事情が違う。
悩んだ末に、リューズナードは仕方なく食器を借りに行くことにした。
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