第4章 番外編③
二人を家まで送り届けたその足で、真っ直ぐ村の外へと向かう。いつの間にか、すっかり明るい時間帯になっていた。徹夜明けの目に晴れ間から漏れる光が突き刺さる。目的を果たしたら、少し仮眠を取るべきか。
無意識に目が細まり、一段と人相が悪くなっていることに気付かないまま歩いていたところ、住人たちから代わる代わる声をかけられた。
「リュー! 良かった、無事に戻って来てくれて……! ロレッタちゃんは?」
「まだ寝ている」
「あっ、ちょっとリュー! ロレッタちゃんが倒れた、って聞いたんだけど、大丈夫なの!?」
「まだ寝ている」
「これからロレッタちゃんのお見舞い行こうと思ってたんだけど、良い?」
「……まだ寝ている」
「ロレッタちゃ――」
「まだ寝ている!」
誰も彼も口を開けば、ロレッタ、ロレッタ。彼女が住人たちとコミュニケーションを図ろうとしている姿は遠巻きに見かけていたものの、いくらなんでも溶け込みすぎではないだろうか。
ロレッタは、魔法を使える人間だ。自分たちを非人と蔑み、一生癒えない傷を与えてきた側の人間。そんな彼女に、住人たちが心を許している。子供が誘拐される事件まで起きたというのに、当事者であるネイキスも、その親であるサラも、今回の件とは直接関係ない面々も、全員が、だ。もはや、リューズナードが連れて来たから、という一言だけでは説明がつかない。
彼女が姉のように狡猾なのであれば、完全に村へと溶け込んだ後に内側から何らかの謀略を仕掛けるつもりでいる、といった可能性も考えられる。しかし、そんなことを企てるような人間が、わざわざ自身を危険に晒すような手段を選ぶだろうか? 命を脅かす嵐の中、体力も魔力も使い果たして、その場で倒れて。リューズナードに放置されていたら、一体どうする気だったのか。
分からない。契約を破棄させる方法も、住人たちの心模様も、ロレッタの思惑も。分からないことばかりで、あまり性能の良くない自分の頭が悲鳴を上げているのが聞こえる。
軽い頭痛と戦いながらも歩き続け、村の外にあるルワガの群生地までなんとかたどり着いた。足元がぐちゃぐちゃにぬかるんでいるし、暴風雨によって吹き飛ばされた枝葉や果実が無残な姿で水溜まりに浮いている。激しい嵐の余韻が、これでもかと言うほど鮮明に刻まれていた。見ていてあまり気分の良いものではない。
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