第10章 戦闘訓練
105話
翌日から、早速ロレッタの戦闘訓練が始まった。
王宮より少々離れた位置にある、兵士たちの修練場。その一角で、水の魔力を象徴するコバルトブルーの装束を身に纏い、指南役を拝命したアドルフに指示を仰ぐ。
「他の兵士と同程度の実力を身に付けるだけでも遠い道のりかと存じますが、その上さらに、目指すところが『リューズナード・ハイジックを殺せるレベル』となると、相当過酷な修練が要求されます。かつて、あの男は、我が国の兵士たちを数えきれないほど手にかけました。それを超えるのであれば、少なくとも他の兵士たちを圧倒できるようになっていただかなければなりません」
「……はい」
「こちらも本気で参りますので、軽い怪我では済まない場合もあるでしょう。……本来であれば、命を懸けてお守りするべきウィレムス王家のご令嬢に、斯様な苦行を強いるのは心が痛みますが、ミランダ様より直々に仰せつかった任ですので、何卒ご容赦を」
「大丈夫です。元は、私が言い出したことですから」
「承知致しました」
王宮に仕える兵士や使用人たちは、ロレッタのことを王女殿下として敬う。ただ、それはあくまでも立場上、最低限の礼節を守っているに過ぎない。忠誠を誓っているのは国王である父に対してのみであり、また、その父が病床に臥せている今、代理の君主として忠義を向けているのはミランダに対してのみである。
例えロレッタが泣いて拒否しても、ミランダが命じれば、兵士たちは任を遂行するだろう。事前に確認してくれるだけ、目の前の彼はまだ親切な部類だ。
「まずは、とにかく体を動かして、体力をつけるところから始めましょう。それから徐々に、魔法を使用した戦い方も学んでいただきます」
「はい、よろしくお願い致します」
緊張を誤魔化すように、ロレッタは小さく息を吐いた。
その日の夜。修練を終えたロレッタは、自力でしっかりと王宮の床を踏みしめることができず、兵士たちに支えられながらなんとか自室まで戻って来た。体力が底をつき、四肢が鉛のように重くなり、頭が酸欠でクラクラしている。
アドルフはまるで軽い準備運動でもするかのように「体を動かせ」と言ったが、実際にはそんな生易しいものではなかった。兵士たちから繰り出される、武具や魔法による攻撃を、ひたすら躱し続ける。していたことは、それだけだったものの、「自分が攻撃される」という経験自体が皆無のロレッタには、凄まじい苦行だった。
確実に自分を目掛けて襲い掛かって来る攻撃の意思が、ただただ怖い。目視していることさえ恐ろしく、咄嗟に目を逸らしてしまい、何度もその身で衝撃を受け止める結果となった。
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