41話

 リューズナードは何も言わずにロレッタを眺めている。


(何か言ってくれないかしら……)


 機嫌を損ねてしまったわけではなさそうだが、真顔で静止しているだけ、というのもなかなか迫力があって萎縮してしまう。声をかけようか迷っていた時、彼がボソッと呟いた。


「……お前は、」


「?」


「姉とは全く似ていないな。容姿も中身も、何もかも」


(…………)


 何故、突然そんなことを言われたのかは分からない。ただ、自分が姉と似ていない、というのは、ロレッタの中に息づいている「当たり前」の一つだった。


 ミランダとは、肌や瞳、髪の色は同じだが、目立った共通点と言えば、そのくらいだ。彼女が備えているような、視線一つで男を惑わす美しい容貌も、女性らしい色香の漂う体付きも、ロレッタは持ち合わせていない。さらに、世間知らずの自分と違って、ミランダには高い見識とそれを活用できるだけの頭脳がある。強硬策に近い政治手腕を振るうケースもあるが、それらによって水の国アクアマリンで暴動や謀反が企てられたことなど一度もなかった。交渉や人心掌握もまた、彼女の得意とするところなのだ。


 全てにおいて、自分が姉と並べる点など無い。人から指摘されずとも、自分が一番分かっている。


「……はい、承知しております」


 形だけとは言え、どうせ婚姻関係を結ぶのならば、姉のほうが良かっただろうな、と。改めて申し訳ない気持ちになった。


 クウゥ……。


「! し、失礼致しました……」


 ロレッタの腹が、悲し気な音を立てて飢餓を主張する。慌てて抑えても、もう遅い。しっかりとリューズナードにも聴こえてしまっただろう。はしたないことをしてしまった。呆れられてはいないだろうか。


「最後に飯を食ったのは、いつだ」


「え……ええと、いつ、でしょう……? 昨日の昼食はご馳走になったのですが、もしかしますと、それが最後だったかもしれません……」


 そう言えば、昨夜は夕食を摂った記憶がない。夜間から明け方にかけて川の氾濫に立ち向かい、それからさらに夕刻まで寝ていた、という話なので、すでに丸一日食べていないことになる。空腹状態で暴風雨に晒され、体力と魔力まで使い果たしたのだから、発熱だってするわけだ。


「それなら、食えるな」


「え?」


 言うなり、すっと立ち上がったリューズナードが、台所のほうから半円型の皿を持って戻って来た。自身が座り直すのと同時に、皿をガチャリとロレッタの枕元に下ろす。


 皿の上には、小さくカットされた白い果物と、フォークが乗っていた。

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