40話
「意識は、はっきりしているか?」
「はい……。あの、私はどのくらい眠っていたのでしょう? 村は、大丈夫でしたか?」
「明け方に嵐が収まって、今は夕刻だ。村では、畑が冠水していたのと、家も何件か浸水していた。手分けして復興作業にあたっている」
「左様ですか……」
川の氾濫は防げたようだが、大雨による洪水被害は避けられなかったのだろう。改めて、凄まじい嵐だったのだなと痛感する。
「だが、住人は全員無事だった。……この程度で済んだのは、お前のおかげだ」
ロレッタを真っすぐ見詰めてから、リューズナードが深々と頭を下げた。
「村を救ってくれたこと、心から感謝している。本来なら、被害はこんなものでは済まなかったはずだ。人も、村も、どうなっていたか分からない。……魔法国家の人間に、こんなことを言う日が来るとは思わなかったが……本当に、ありがとう」
村に来て最初の日に彼は、魔力の光は敵襲の合図だ、と言っていた。しかし、今はその光に助けられたことを認めて礼を述べている。彼の中で、多少なりとも心境の変化があったのだろうか。
サラが雷を恐れるように、住人たちの中には、水や水魔法を恐れる者もいるのだろうと考えると、胸が痛い。許されたいとも、無理に克服させたいとも思わないけれど、せめて、傷付ける意思のない魔法も存在するのだと信じられるようになる日が来ることを、願うばかりだ。
「……頭をお上げください」
ロレッタは自分の手のひらを見詰めた。
「王族の血を引く者が、膨大な魔力を持って生まれる理由。医学的な解明はされていないそうですが、今回のことで、私はきっと、より多くの人々を守る為に与えられた力なのだと思いました」
王宮に閉じ籠っていたロレッタが、徒に持て余していた力。ずっと使い道が分からずにいたこの力の役割を、ようやく理解できた気がする。
人間と魔法の共存とは、魔法の力で人間の居場所を奪うのではなく、人間には解決できない事象を魔法の力で解決することで成り立つ関係であるべきだ。そうして、全ての人々が分け隔てなく豊かな幸福を享受できる世界を創ることこそ、王族の天命なのだと自覚した。
「私のことも、魔法のことも、まだ信用してはいただけないかもしれません。ですが、いつかまたお役に立てる機会が訪れるようであれば、その時はどうか、遠慮なくお使いくださいね」
頭を上げ、黙って話を聞いてくれていたリューズナードへ向けて、ロレッタはニコリと微笑んだ。敵意がないことを伝えたくて。少しでも安心してほしくて。
思えば、彼の前で笑うのは初めてだった気もするが、自分の下手くそな笑顔はきちんと届いてくれるのだろうか。少し不安になってくる。
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