42話
「こちらは……ルワガですか?」
「ネイキスたちから聞いた。それを食べると、魔力が回復して元気になるんだろう? ……俺には分からなかったが」
「召し上がったのですか?」
「……一応、毒見はした」
「毒見、ですか……ふふふ、わざわざありがとうございます」
ルワガは、魔法国家では一般流通されている果物だが、この村では食べる習慣がないのだろうな、と思い当たる。味付けなしではそれほど美味しくもないし、魔力の回復も実感できないのだから、当然なのかもしれない。
生前の母が、幼い自分に食べさせてくれた、ルワガの実。子供の口でも食べやすいようにと小さく切り分けられ、栄養のある甘い蜜が垂らされたそれを頬張ると、病んだ体が不思議と安らぐような心地がしていた。ロレッタへ惜しみない愛情を注いでくれる母の手と眼差しが、優しくて、温かくて、大好きだった。
「……いつまで見ている」
懐かしい気持ちで眺めていたが、横からかかった声に意識を引き戻される。振り向けば、リューズナードがなんだかバツの悪そうな顔をしていた。
「不揃いで悪かったな。俺は細かい作業があまり得意じゃない。腹に入れば同じだろう。さっさと食え」
「え……あ、もしかしますと、こちらは、リューズナードさんが切り分けてくださったのですか……?」
ふいっ、と顔を背けられる。
「……だったら、なんだ」
村の外にしか生息していないのだから、採ってきたのは彼だろうとは思ったが、切り分けたのは他の誰かだとばかり思っていた。勇猛に刀を振るう彼が、台所で小さなナイフを握る姿は、いまいち想像できない。
改めて見てみると、確かに皿の上の果実たちの中には、大きく口を開かないと入らないサイズのものもあれば、見失いそうなほど小さなサイズのものもあるし、不自然に角が突き出ているものもあれば、形が崩れてフォークが刺せなさそうな状態のものもある。母が用意してくれたものと比べて、明らかに見栄えが悪い。甘い蜜もかかっていない。けれど。
「ありがとうございます。いただきますね」
大きな欠片を半分に割り、フォークで刺して口へ運んだ。なんとも言えない味のする実をしっかり咀嚼して、喉の奥へと流し込む。
「とても美味しいです。なんだか少し、温かくなった気がします」
「……そうか」
枯渇していた魔力が戻る感覚もあるが、それ以上に、頑張って用意してくれたのだろう彼の気持ちが嬉しくて、ふわふわと温かい心地になった。
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