84話

 どんな行動を起こすにも、とにかく水の国アクアマリンとこの村の位置関係を把握しないことには、始まらない。


「え、この村の位置? リューから説明されていないの? ……明かりや流し台の使い方といい、本当に言葉が足りないわね、あの子は……。少しだけ、待っていてくれる? 大陸の地図がどこかにしまってあったはずだから」


「ありがとうございます」


 昼食を摂った後、食休みの雑談の中で、ロレッタはサラに村の位置を尋ねた。駆け回る子供たちを器用に躱しながら、サラが目当ての物を探し当てて戻って来る。


 床に直接広げられたそれは、ロレッタが王宮で目にしていたものと変わりなかった。


「この付近の主要な魔法国家は五つ。こちら側から順に、水の国アクアマリン炎の国ルベライト雷の国シトリン風の国アクロアイト土の国アンバー。それで、私たちの村が、大体この辺りね」


 一つ一つ、指をさしながら説明してくれるサラ。当然と言えば当然だが、やはりこの村は、地図には記載されていない。ロレッタは以前教わった海までの距離や方角を頭の中で照らし合わせ、ようやく村の正確な座標位置を理解した。


「なるほど……最も近いのが炎の国ルベライトで、次が水の国アクアマリンなのですね」


「そうね。この村は元々、炎の国ルベライト出身の皆が作った、という話だもの。国を出た後、なるべく離れたい気持ちでいたのだと思うけれど、移動手段が徒歩しかないから、限界があったのでしょうね」


「移動手段……」


 話によれば、リューズナードたちが祖国を捨てたのは、綿密な計画を練った上で決行したことではなく、突発的な行動だったはずだ。事前の準備など碌にできていなかっただろう。国内には魔力を原動力にして走る乗り物も流通しているものの、魔法の使えない彼らには利用できない。せめて馬車があれば違ったかもしれないが、手配する余裕もなかった、ということなのだろうか。


「つかぬことをお伺い致しますが、この村で馬車などの移動手段を手配することは、可能でしょうか?」


「ううん……難しいのではないかしら。通信手段がないから人を呼び出すことができないし、外の国と接触するのも抵抗があるし、それに……例えば馬車を運転する人だって、魔法国家で仕事をしているということは、魔法が使えるわけでしょう? それだと、非人わたしたちはちょっと、怖いわね……」


「あ……そう、ですよね。配慮が足りませんでした。申し訳ありません」


「いいえ、大丈夫よ」


 自分の基準でしか考えられていなかったことを恥じて、頭を下げる。ここの住人たちは皆、魔法と、魔法の使える者たちによって傷を負わされた人々なのだ。外の国と接触する方法があったとして、気持ちの面でそれを実行できるか否かは、また別の問題だ。

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