12話

「ロレッタお姉ちゃん、あのさ……リュー、怒ってる?」


「りゅー、おこる?」


「え? ………ええと、『リュー』というのは、リューズナードさんのこと、でしょうか?」


 他に近しい名前の心当たりがなく、困惑しつつも聞き返すと、ネイキスが泣きそうな顔で頷いた。


「俺が、言い付けを破って、一人で村の外に出たから、大変なことになっちゃって……。リューも、ずっと怖い顔してたし……もう、俺のこと嫌いかな? 一緒に遊んでくれなくなっちゃうのかなぁ……?」


「にーたん、なかない」


「泣いてないぃ……!」


 喋るうちにどんどん声が震え出し、しゃくり上げながら目元を覆うネイキス。下からユリィが心配そうに兄の様子を窺っている。


 水の国アクアマリンから村へと向かう馬車の中で、リューズナードは確かに終始険しい表情で窓の外を眺めていた。自分と村のこれからについて、考えなければならないことが山ほどあったのだろう。


 けれどあの時、彼の左腕は自分にしがみ付いて震えるネイキスの体をしっかりと包み込んでいたし、右手はネイキスの頭を優しく撫で続けていた。とても怒りをぶつける対象へ取る行動とは思えない。


 ロレッタは、ネイキスの両手をそっと包んだ。指先が冷たい。


「……リューズナードさんが怒っているのだとしたら、その相手は私と姉です。ネイキス君ではありませんよ。それに、嫌いになっていたら、わざわざ他所の国まで迎えになんて来ないと思います。大好きで、大切だから、来てくれたんですよ」


「うぅ……本当に……?」


「はい。心配でしたら、後でごめんなさいをして、きちんとお話ししてみましょう。大丈夫、ちゃんと聞いてくれるはずです」


「……うん、する……」


「りゅーと、おはなし!」


 少年の手が、わずかに熱を取り戻した気がした。少しは安心できたのだろうか。


 険しい顔をしたリューズナードは、ロレッタだって怖い。そして、出会ってからというもの、険しい顔しか見ていないロレッタの中では、もはや彼自身が「怖い人」という認識になりつつある。けれど、これだけ子供から慕われているところを見ると、決して「悪い人」ではないのだろうとも思う。


 村人たちの生活と同様、彼のことももっと知りたい。いつか自分とも話をしてくれるだろうか。やりたいことが増えていく。

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