29話
そんな彼は、住人たちからとても慕われているようである。
「リューちゃん、いつもありがとうねえ。本当は水汲みくらい、自分でできたら良いのだけど、足腰が言うことを聞いてくれなくてねえ……」
「このくらい、なんでもないさ。また様子は見に来るが、何かあればいつでも呼んでくれ」
「リュー! この前破れたって言ってた服、繕っておいたから、後で取りにおいで!」
「助かるよ。いつも悪いな」
「一緒に遊んで!」
「遊ぼーぜ!」
「りゅー!」
「俺は構わないが、お前たちは家の手伝いの途中じゃないのか? 親に言い付けるぞ」
「リュー、今、手空いてるか? 川でデカい魚を見かけたんだ! 捕まえるの手伝ってくれよ!」
「ああ、すぐに行く。待ってろ」
行く先々で声をかけられ、リューズナードもとても穏やかに対応している。彼はこの村の人々が好きで、この村の人々も彼が好きなのだろうことが、一目で分かる光景だ。
しかし、あの穏やかな眼差しや声色が、ロレッタ個人へ向けられたことは一度もない。
初日のように、声をかければ反応はしてくれるのだろうけれど、用事もないのに気さくに話しかけられるような間柄でないことは重々承知している。とは言え、何かしらアクションを起こさなければ、その距離感が永遠に縮まらないことも想像に難くない。成り行きでも同居人となったのだから、せめて普通に世間話ができるくらいの関係性は築きたいと思う。
どうしたものかと考えた末、ロレッタはリューズナードの自宅の家事をやってみることにした。
しばらく同じ家で寝泊まりしてみて気付いたことだが、恐らく彼は家事が苦手だ。台所は流し台以外の部分に使用した痕跡がないし、部屋の隅には埃が溜まっている。できないのか、やらないだけなのかは不明だが、生活における家事の優先順位は決して高くはないのだろう。一番決定的なのは、台所の横に置いてある水瓶だった。
水瓶には蓋が乗せられている為、パッと見では中身が分からない。しかしある日、ロレッタが洗顔するべく流し台の前に立った際、水瓶の蓋が外れそうになっていたことがあった。それも、ただ横にずれているのではなく、中身に押し上げられるようにして上に盛り上がっていたのだ。中身が液体の水であれば、こんなことは起こり得ない。
隙間のある状態では中に虫や埃が入ってしまいかねないので、ひとまず蓋を軽く押してみる。しかし、力を加えれば下に沈んでくれるものの、手を離すとすぐに元に戻ってしまう。そんなことを何度か繰り返すうちに、とうとう蓋が床へ落下してしまった。
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