69話
『お前が戦う見返りは、住処の提供のみでしょう。勝手に病気になっておいて、その責任までこちらへ押し付けるな、厚かましい』
『ところで、ハイジック。お前、何故、今ここにいるのです? 騎士団の主力部隊と共に遠征へ行くよう指示してあったはずですが』
『……なるほど。戦うことしか能がない癖に、それさえ拒否する、と。それなら、お前ももう不要ですね。どうせ妹も助からないのですから、いっそのこと、一緒に死んでやれば、少しは喜ばれるのではありませんか?』
振り返ると、王宮に残っていた騎士団の面々に取り囲まれていた。全員とはいかないが、見覚えのある顔もある。この身に傷を与えて嘲笑っていた連中だ。本当に、嫌になる。奴らはこちらを非人と呼ぶが、人じゃないのはどちらだ、という話だ。
しかしもう、反撃できない理由はなくなった。こんな所に長居している暇などない。一刻も早く、妹たちの元へ戻らなければ。戦場で敵を前にした時と寸分違わぬ眼差しで、リューズナードは刀を鞘から引き抜いた。
刀と装束を赤黒く染め上げたリューズナードを見て、出迎えてくれたウェルナーがギョッとした顔をした。
「お前、それ……ああいや、それよりも、エルフリーデちゃんが……!」
狭く薄暗い小屋の奥。定位置となっている寝台で、いつも通りエルフリーデが横になっていた。顔面は青白く、唇と手足が紫に変色している。もう動かないのだろうな、と、教養のない自分でも一目で理解できる様相だった。
手から力が抜けて、刀が床に落下する。次に足から力が抜けて、体が地へ沈み込むようにずり落ちていった。目は開いているはずなのに、視界がぼやけて色が認識できなくなっていく。
「…………ろ、して、くれ……」
「え……?」
「……もう、殺してくれ……」
「っ! おい、何言って……」
「俺は! ……なんの、為に……!」
なんの為に、生まれて。
なんの為に、戦って。
なんの為に、迫害に耐えて。
なんの為に、こんな世界でこれからも生きていかなければならないのか。
分からない。
もう、何も。
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