116話
「!?」
想定外の行動に驚いたアドルフは、しかしすぐに視線を刀からリューズナードへ戻し、鋭い突きを繰り出してくる。一気に迫りつつ、体を横に捻ってそれを躱すと、リューズナードはそのまま一回転して、アドルフの胸部へ勢いよく回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐ、う……っ」
ギリギリ、腕で防がれたらしい。
アドルフの手から槍が離れた。しかし、魔力でいくらでも創造できる以上、武器を弾くだけでは意味がない。相手の体勢が崩れたところへ、重い一撃を浴びせる必要がある。
長い足を振り抜いて着地させ、続けざまに拳を握って殴りかかった。が、素手で器用に受け流される。武器の扱いだけでなく、体術にも秀でているらしい。本当に面倒だ。
それでも構わず、リューズナードは矢継ぎ早に攻撃を繰り出した。刀を手放したことで一撃ごとの殺傷能力は下がったものの、その分、攻撃のペースは上がる。魔法を使う暇など与えない。拳で、足で、肘で、膝で、頭で。全身を十二分に使ってひたすら殴打を撃ち込んでいく。
型も規則も何もないリューズナードの動作は、アドルフの動作と比べて酷く粗雑だった。体術なんて呼んで良い代物ではない。純然たる、ただの暴力だ。
しかし、人間一人を軽々支える腕力と、特殊素材の扉や金属の施錠を破壊する脚力で以って繰り出されるそれらは、常軌を逸した威力を宿している。更に、先ほどまでと攻撃のテンポが急激に変わった為、アドルフもなかなか攻勢に転じられずにいるようだった。
とは言え、この状態が長く続けば、やはりいずれは対応されてしまうだろう。少しずつだが、すでにこちらの動きに慣れてきている節がある。早めに決着をつけねばならない。機を見計らい、リューズナードは両手を頭上へ振り上げた。
そのまま拳が振り下ろされるものだと判断し、アドルフが受け流す構えを取る。しかし、次の瞬間、その判断が謝りだったことに彼は気付く。
上空から落下してきた白刃の柄を、リューズナードが両手でガシリと受け止めていた。
上段の構えから、刀の背を力強く標的へと振り下ろす。アドルフは咄嗟に両腕で頭部を庇っていた為、致命傷には至らなかったものの、勢いを殺しきれずに大きく体勢を崩してよろけた。
すかさず足を踏み込んでしっかり体重を乗せると、リューズナードは全身全霊で再び刀を振り下ろした。踏ん張りの利かない体勢で正面から打撃を受けたアドルフの体が、真下へ強く叩き付けられる。
「ガハッ!!」
硬い床に頭と背中を強打したアドルフは、その場で何度か体をバウンドさせた後、白目を剥いて意識を飛ばした。
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