100話
「お久しぶりです。ただいま戻りました」
「挨拶なんて要らないわよ。お前を相手にそんなもの、時間の無駄でしかないのだから。余計な口は挟まないで」
「……申し訳ありません」
ロレッタが頭を下げると、ミランダは、ふんっ、と鼻を鳴らした。
「おおよその話は聞いているわね?」
「はい。
「ええ。正確には、
ロレッタは大陸の勢力図を頭に思い浮かべた。
また、戦乱に乗じて他国の兵が
「その役を私に、ということでしょうか? 恐れながら、とても勤まるとは思えませんが……」
ロレッタが戦闘に向いていないことは、ミランダも承知のはず。それなのに、どうして自ら国外へ送り出したロレッタを、わざわざ呼び寄せようと考えたのか。その真意が分からない。
「そうね。私も、そう思っていたわ。少し前までは、ね」
「え……?」
「私がこれまで、お前を政治や戦争に関わらせなかったのは、単純に、役に立たないと思っていたからよ。頭の回転も、魔法を操る能力も、人並み以下だと思っていたの」
「…………」
「でも、後者に関しては、少し違ったみたいね。……数週間前、大陸北東の海域上に水魔法の使用を示す光が現れた、と報告を受けたわ。話を聞くに、水を転移させていたのかしらね?」
「!」
「それも、かなりの量の水を、日暮れから明け方まで、一晩中。そんなの、平民の魔力でできるわけがないもの。お前がやったのでしょう?」
数週間前、海の上、水の転移。間違いなく、村が嵐に見舞われた日の出来事だ。水害を防ぐ為、ロレッタが増水した河川の水をひたすら海へと送り込み続けた、あの夜。転移先の状況までは把握できていなかったが、突然現れた魔力の光を警戒して見張っていた人間がいたとしても、なんら不思議ではない。
「……はい。私が実行したものです」
「そうよね。魔法の使い方なんて、とうに忘れたものだと思っていたのだけれど、お前もちゃんとウィレムス家の人間だったのね。その膨大な魔力があれば、前線で敵の攻撃を防ぐくらいはできるでしょう?」
「…………」
「もちろん、お前自身が狙われて簡単に落とされたのでは、話にならないわ。だから、最低限の戦闘訓練はしてもらう。その上で、後はひたすら魔力の障壁を張って、うちの兵士たちの盾になりなさい。細かい軍事行動なんて、どうせ指示してもできないでしょうからね。倒れるまで魔力を放出し続ける、ただそれだけで良いわよ。倒れても、すぐに叩き起こすけれど」
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