74話

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 水田の水面に夕日が反射し、きらきらと輝きを増す時刻。ウェルナーは一人、避難所を目指して歩を進めていた。


 今日は村で炊き出しが行われる日だ。住人全員で火と簡易テーブルを囲い、持ち寄った食材を混ぜて一緒に夕食を摂る恒例行事である。すでに催しは始まっているが、その中にロレッタとリューズナードの姿がなかった。


 もう十年の付き合いになる年下の友人は元々、気まぐれで参加したり、しなかったりしていたので、あまり気にしてはいない。ただ、ロレッタに関しては心配だった。昼間に自分が喋り過ぎたせいで、優しい彼女が変に気落ちしてしまっているのではないか、と。


 だいぶ言葉は選んだつもりだったが、何せ話の元となる自分たちの人生が碌でもないものなので、あれ以上柔らかくは語れなかった。やはり刺激が強かったのだろうか。だとしたら、きちんとケアしてやる必要がある。


 避難所の階段をすたすた上り、出入り口の扉に手を掛けた。


「ロレッタちゃん? 炊き出しやってるけど来ない、の……」


 中へ入ろうとした足が、思わず静止する。


 扉の先では、リューズナードが壁に背を預けて眠っていて、そのリューズナードに寄り添うようにロレッタも隣で眠っていた。互いの手を重ね合わせた状態で、二人とも穏やかに寝息を立てている。


 しばし唖然とその光景を眺めていたウェルナーだったが、やがて我に返ってゆっくり扉を閉めた。


「……来ないですね、はい。お邪魔しました……」


 小声で呟き、さっさとその場から退散することを選ぶ。何があったかは知らないが、仲直りできたのなら、ひとまず良かった。明日になったら目一杯、友人をからかってやろうと決意する。


 自然と上がる口角を隠すこともなく、ウェルナーは今来た道を引き返した。

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