第16話・外伝 国王は必死に考える

 グレンの専属メイドであるイトが、いやイト殿が天魔になって戻って来た。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「は?」


 それを知った時の儂の第一声がこれであった。

 マジで意味が分からなかったのじゃ。何がどうあったら天魔になって戻って来るのじゃ?


 天魔ってこの世界の100人もいない最強の存在であり国に1人でもいれば相当でかい顔出来るレベルの化け物じゃぞ。


 ・・・・・・・・・・・・


 しかも良く分からないことにグリーラ国の将軍に王子を連れて来たのじゃ。


 一体全体何がどうなってそうなったのか皆目見当もつかなかった。

 マジで理解に苦しむのじゃ。


 確か儂は幻覚の天魔を帝国とお金を折半して戦争に送り込んじゃはずじゃ。


 少なくとも我が国の兵含めグレンの専属メイドとやらは絶対に殺されると思っていたのじゃが。まさか天魔に覚醒するとは。


 もちろん普通に有り得ない話であるし、有り得ないのだが。現実起きてしまったものはしょうがない。ただ、これでグレンが天魔か分からなくなってしまった。


 いや。しかし、今の様子を見る限り天魔である筈のイト殿がグレンに付き従ってるように見える。


 おかしくないか?


 天魔となったイト殿ならば確実に儂よりも権力的な意味で言えば上じゃ。天魔はそれだけの力を持っている。


 それもイト殿は剣の達人であったことを考えれば剣を使う戦闘型の天魔に至ったと思われる。戦闘型の天魔はたった一人で100万の兵士を皆殺しに出来る程の力を持った存在じゃ。

 我が国と一人で戦争してもほぼ確実に勝てる化け物じゃ。


 ・・・・・・


 は?


 何故グレンに付き従っておる?

 確かにイト殿が処刑されそうになった時にグレンが救ったのは覚えておる。


 でも、そこまでの恩義を感じるか?そんなにもイト殿は忠誠心溢れるお方なのか?


 それとも、もしくはグレンが天魔でありイト殿よりも上の力を持っているか?そしてイト殿が天魔に覚醒したのはグレンが何かしらの形で手を覚醒を促させたから?


 ・・・・・・・


 いや。流石にそれはおかしい。

 もしもそうならば。グレンは天魔を量産出来るということだ、イト殿程度の実力を持った存在は結構いる。

 そしてそれを全員天魔に覚醒出来るのならば、グレンは何十という天魔を従える最強の存在、この世界の支配者になれる。


 何故その力があるのにしない?


 面倒くさがりだから、いや。それにしてもおかし過ぎる。

 もしこの世界の支配者になればいくらでもグウタラ出来るだろうし。何かに縛られることもない。


 ・・・・・・・・


 となるとやはりイト殿が自力覚醒したと考えるのが自然か。


 それに落ち着いて考えれば。戦闘型の天魔を超える力と準英雄クラスの人間を天魔に覚醒させる力など天魔だとしてもそのレベルはもはや神の領域でありこの世界の最強の存在たる力だ。


 流石にそれはおかしい。

 少なくとも儂の予想では、グレンは万能の天魔であると予想しているからのう。


 じゃから、イト殿が幻覚の天魔に対しての復讐心から覚醒をしたと考えよう。

 そしてイト殿はグレンに忠誠を誓っておる。この前提で話を進めていこう。


 さて、じゃあ。交渉の時間じゃ。我が国の存命と繁栄を賭けた交渉のな。

 ハア。胃が痛い。


 ――――――――――――――――――

 そして儂はグレンとイト殿と交渉を始めた。


 まずイト殿は天魔である証明と圧倒的な力を見せつけて儂の先鋭部隊を覇気のみ倒して見せた。

 儂はそんなことされなくともイト殿が天魔であると分かっておったのじゃが。頭でっかちの大臣共にはそれが分からぬようでそんな事態になってしまった。


 まあ、でもそれを見て全員がイト殿が天魔だと理解したし。結果的には良かったじゃろう。これで失言をする馬鹿はいなくなったじゃろうし。


 そんなことを考えた儂を殴ってやりたくなった。


 イト殿との交渉が始まってすぐに。失言をした馬鹿がいた。

 イト殿を我が国に100%の忠誠を誓ってる前提での物言い。

 イト殿を戦力という道具として見ている点。イト殿の意思を軽んじてる点。そして恐らくではあるがグレンに忠誠を誓っているであろうイト殿からグレンの専属メイドの職を奪おうとした点。全てがアウトじゃ。


 儂は今すぐにそいつを首にした。


 少なくともここで儂が何もしなかったらその大臣の首が飛ぶ。そう思ったからじゃ。

 そして何とか許して貰えたのじゃが、イト殿から望むものを当てて見ろと言われる。


 しかし天魔となったイト殿はやろうと思えば何でも出来る存在であり、望むものが何か分からなかった。

 一瞬、グレンの専属メイド継続かと思いもしたが、もし違っていた場合の好感度低下を考えると恐ろしくてそんな事口に出来ない。

 そうして悩んでいると。


「もしかして怠惰王子の首とかでしょうか?」


 などというふざけた発言をした大臣がいた。確か環境大臣じゃったかのう。そこそこ優秀だから首にしたくはないが。なんて考えようとした時だった、環境大臣の首に剣が添えられていた。


 物理的に首になりそうな状態であった。


 余りにも一瞬の出来事、一応英雄クラスの力を持っていると思っていた儂でさえも見逃してしまう程の速度。

 これが天魔の力なのか。恐ろしい。そして敵に回したら最後この場にいる全員の首が一瞬で飛ぶじゃろう。


「イト。流石に殺すのは良くないよ」


「申し訳ございません。グレン様」


 え?今何が起こった?

 グレンがイト殿に注意をしてイト殿が謝り剣を収めた。

 まさか、本当にグレンに忠誠を誓っているのか?やはりというべきか。いや。しかし天魔じゃぞ。イト殿は。最強の存在である天魔じゃぞ。それがグレンに謝罪をしてグレンの言葉を聞いた。


 ・・・・・・


 今この瞬間にグレンはイト殿という天魔を完璧に従えた一大勢力となったのう。

 それこそ第一王子も第二王子も両方を超える勢力じゃ。


 グレンには王位継承権がないとはいえ、もしもイト殿を従えるグレンが王になると言い出したら誰も逆らえず、王になるだろう。


 それはそれである意味良いかもしれぬなって。何を馬鹿なことを考えておるのじゃ。

 今はこの局面をどうにかしなければ。


「何故イト殿が怠惰王子などに頭を下げてるのですか。イト殿は天魔であらせられるのだからそんなことはしなくても大丈夫ですよ」

 儂の最も信頼する大臣であり。儂の腹心、財務大臣が失言をかました。


 おい~~~~~~っす。


 はい。詰んだ。

 はい。やらかした。


 いや、まあ。気持ちは分からなくもないよ。でも儂の仮説が正しければイト殿はグレンに忠誠を誓っているから。それはもう悪手じゃよ。


 初代国王の山田様のお言葉を借りるのならば、やらかし過ぎて草も生えんって奴じゃよ。


「何を言うのですか。メイドである私が主であるグレン様に頭を下げるのは至極当然の行為ですよ。あ、それと。私が望むものを伝えますね。それは現状維持です。我が主であるグレン様の専属メイドで居続けるこれが私のただ一つの望みです」


 あれ?何か財務大臣特に何もされんかった。


 あ~許された感じ?というかイト殿はグレンに忠誠を誓ってて専属メイド継続で良かったのかよ、ミスったって今はそんなことを考えてる場合ではない。どうする。考えるのじゃ。


 ・・・・・・・・・・


 取り敢えずこれは好機じゃ。非常に良い好機じゃ。

 今この場における最善手を打とう。


「分かりました。では今までイト殿に上げていた給与を100倍まで上げさせてください。また何か必要な物がございましたら何なりとお申し付けください。そして専属メイドをもし何かの拍子に辞めて別の仕事を希望するのであればいつでもおっしゃって下さい」


 思いっ切り腰を低くしてそう言う。


 これで完璧じゃ。

 イト殿の希望を叶えつつイト殿が不快にならない範囲で勧誘をする。これしかないのじゃ。


「分かりました。ではそれでいいですよ。あ、それと、国王様。今この場にいる大臣に騎士たちを全員外に出してくれますか。私とグレン様と国王様の三人で話したいことがあります」

 どうやら。オッケーは貰えたらしい。しかし三人で話したいことがあるじゃと?


 ・・・・・・・・ 


 確実に儂がグレンをそしてイト殿を囮に使おうとした件じゃな。


 ハア。今考えればグレンが天魔という可能性が少しでもあるのならば、試すとか言って駒として戦地送り込むというのは正気の沙汰じゃないな。あの時は徹夜で疲れておったからのう。

 今からでも過去の儂を殴ってやりたいわ。


 もし本当にグレンが天魔で不況を買えば、この国は一瞬で滅ぶのじゃから。


 でも。そうなっていないということは、そこまで不況を買っていないということじゃな。今現在はイト殿という天魔がいるのじゃから、ある意味ではグレンが天魔だった時と似た状況なのじゃがな。せめて、この国には被害が及ばないようにするかのう。


「分かりました。皆の者出るがいい。そして儂が部屋を出て良いというまで絶対にここに近づくな盗聴しようなどとも絶対に考えるなよ。分かったか」


 さて、これが最善手じゃ。

 さあ、イト殿とグレンは儂の事をどう思っておるかのう。


 ――――――――――――――――――

 10分後

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 諸々の交渉及び話し合いは終わり。儂としてはかなり満足の行く結果となった。

 一瞬イト殿に殺されるかと思ったが結果だけ見れば儂は五体満足であり。グレンから素晴らしい提案も教えて貰え。

 一応であるが戦闘型の天魔であるイト殿が味方となってくれた。少なくとも敵に回るとことはなさそうである。


 じゃがしかし。グレンが思った以上に賢かった。


 やはりというべきかグレンは力を隠しておる。それがどのレベルかは分からぬがもしかしたら、天魔である可能性は十分にある。やはりもう一度どこかで試すって、それは流石に悪手か。下手につついてグレンが敵に回ったら詰みじゃからのう。


 ・・・・・・・


 取り敢えず儂としてはグレンを優遇していこう。少なくともこの国にいたら楽でいい。この国が良い。そう思ってくれるくらいには優遇してこの国から離さないようにしよう。


 そしてそれは巡り巡ってイト殿が我が国の味方としてとどまるという意味でもあるからのう。

 手始めに部屋を豪華にするかのう。


 後グレンのお小遣いとイト殿の給料100倍について財務大臣に伝えないとな。

 そこそこな負担になるからな。

 ハア。胃が痛いのじゃ。


 本当に胃が痛いのじゃ。

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