第87話・過大魔力症と少々アレな従妹の話

「それで?俺がお前の従妹ってのは分かった。で?だからどうした?」


「いや。別にどうもしないわよ。ただ親戚と出会えて少し興奮しちゃっただけ」

 いや。興奮って女の子がそんなこと言うなよ。


 いやにしてもどうしようか?面倒そうだし、互いに見なかった、出会わなかったことにしたいな。

 という訳でよし決めた記憶を消滅させるか。

 そうしたら俺の事なんて知らないし。面倒事もなくなるだろう。


「じゃあ部分記憶消滅」


 パリン


 俺が遠隔で放った部分記憶消滅は簡単にはじかれてしまう、という発動する前に砕かれた。


「今?私の記憶を消滅させようとした?」

 明らかに怒ってらっしゃる俺の従妹。

 うん。これは少し不味いかも。どうしようか?いやまさかはじかれるとは。そういえば血魔法が英雄クラスに使えるし。他にも何かしらの力を持ってると予想するべきだったな。

 これは俺のミスだな。


「ちょっと。何だんまり決め込んでるの。答えなさいよ」

 ここは誤魔化しても無駄かな。クソ。面倒だな。でも流石に身内だし殺すのは嫌だな。これが他人だったら跡形もなく消滅させて終わらしてるけど。


「いや。まあ。何だ?俺は面倒事が嫌いなんだよな。だから俺と出会った記憶を消滅させようとしたんだ」


「記憶を消滅って、やっぱり貴方も何か特別な力を持っているの?」

 特別な力もクソも、天魔であり世界最強だけどな。

 まあ、その情報をわざわざ伝える必要はないか。


「まあな。でも別にお前には関係ないだろ」


「む~、関係ならあるわよ。だって貴方は私の従兄なんだから。さあ、貴方の力を教えなさい」

 凄い生意気だな。

 やっぱり消滅させてやろうかな?いやまあ従妹やからしないけど。


「ハア。別に俺の力を知ったところで意味はないだろ。それとも何か?俺の力を借りたい何かがあるのか?」


「そうよ。よく分かったわね」


 俺は軽い冗談のつもりで言った言葉は是と返される。

 軽く驚きつつ噓感知をするが本当と出る。


 ・・・・・・・・・


 うん。面倒事に巻き込まれたよ。

 え?何で血魔法を英雄クラスで使えて。その他にも強そうな力を持ってる彼女が困る問題って絶対にヤバいだろ。


 ハア。無視して戻りたいけど。

 乗り掛かった舟、しかも身内だからな。ここで見捨てたら絶対に目覚めが悪いな。


「ハア。で?その問題はなんだ?」

 俺のその言葉にパ~っと笑顔になる。


「おい。まだ協力するとは言ってないぞ。取り敢えずその問題事の内容を聞いてからだ」

 これ絶対手伝うやつのツンデレキャラのセリフやんって思いながらそう言い切る。かなり恥ずかしい。


「分かったわ。私の問題は借金よ」


 ・・・・・・・・・


「は?借金?」


「ええ。借金よ」

 堂々とさしてない胸を張ってそう言い切る俺の従妹。何か少し悲しくなるな。

 まあでも、その力を使って魔物でも殺せばいくらでも稼げるだろうに、借金ってどういうことだ?


「因みに額はいくらだ」


「金貨100枚よ」

 金貨100枚、金貨1枚で一人が一か月暮らせるぐらいの金額だから。まあ、かなりの額だ。

 でも俺が【商人の天魔】から貰った白金貨は1枚で金貨100枚分なのだから、今の俺にとってはさして大した額ではない。

 額ではないが、どうやったらそんな借金するんだ?馬鹿なのか?


「なあ。どうやったらそんな借金になるんだよ。お前程の実力者なら魔物退治でもしとけばいくらでも稼げるだろ」


「確かに稼げるわ。それでも月に金貨10枚行けばいい方、毎月最低でも金貨10枚お母さんの治療に消費するからとてもじゃないけどやっていけないわ」


「いやいや金貨10枚って少なすぎるやろ、王都にあるダンジョンに一回潜れば余裕で金貨100枚行けるだろ」

 俺の記憶が確かなら王都にはダンジョンがいくつかあったはずだ。そして半分ほどは冒険者に解放されていると思う。

 で、英雄クラスの血魔法ならばダンジョンの魔物程度なら血魔法・血液逆流使えば簡単に殺せると思う。そんで魔石を回収して宝箱でも回収してれば余裕で大儲け出来るだろ。


 こいつは馬鹿なのか?


「ダンジョンに潜れないのよ。ダンジョンは最低でも安全の為4人以上のパーティーじゃないと入れないから」

 あ、そういえば初代国王である山田国王が安全の為とドラゴンのいるクエストはで4人パーティーだからって謎の理由でそんな法律作ってたな。


「でも、サポーターを雇うなり初心者チームに入るなりって、あ」

 俺は気が付いてしまう。


 彼女がパッと見は弱く見える可愛らしい小柄な女の子であることに。


「そうよ。誰も私をパーティーに入れてくれないのよ。もちろん私は強いわ。でも上級者パーティーは皆連携が取れてて完成されてるから、私なんて相手にして貰えないし、初心者パーティーなら、周りが弱すぎて上層にしか行けないし、かといって私だけが下層に行くってわけにもいかないし、サポーターを雇おうにも私の容姿で舐められて雇うことを拒否されるし。大体そんなお金ないし・・・・・・だから普段は森の中で魔物討伐か薬草採取を・・・・・・」


 何処か悲しそうにうつむく彼女。しっかしなるほど。森の中で魔物討伐と薬草採取ならほとんど稼げないだろうな。まず討伐した魔物は解体せんといけんし、持ってってもダンジョンが近くにあるからそんなに高値で買い取って貰えないし。

 薬草だって極論回復魔法でいいからな。いやはやドンマイとしかいえない。


「なんか。悪いこと言ったな。オッケーその程度のお金なら貸してあげよう。でも少し疑問なのだがそのお母さんは何の病気なんだ?金貨10枚も月に必要な病気ってほとんどないだろ?」


「えっと。お母さんは過大魔力症なの。だからその為の魔石の代金で・・・」


 過大魔力症・・・それは魔力が自分の身で扱えない程強大である為、その魔力が体を蝕む病。基本的な治療方法は吸収の魔石で魔力を定期的に吸い取ってやるしかない厄介な病。

 ただ、俺ならば多分10秒でその病を治せる。

 治し方は超簡単、吸力の呪いで魔力そのものを吸収してやって体に負担がかからない範囲にまで強制的に治療してあげればいい。


「なるほど。じゃあ俺が治してあげるよ。俺ならば簡単に治せるから」


「ほ。本当に?」


「ああ。本当だよ。さあ家に案内してくれ」


「うん。分かった」

 そうして従妹の少女は満面の笑みで俺をお母さんの元に案内してくれた。


 ―――――――――――――――――――――


 補足説明

 過大魔力症は年を取ってから、もしくは幼い頃に発症する可能性が高い厄介な病気です。

 理由としては若いうちはその身に宿す魔力を扱えるだけの器・力があるのですが、ある程度年を取ってくると肉体的にも精神的にも衰えて魔力を扱えるだけの器・力が減ってしまうからです。


 因みに天魔になったり、一周回って強くなり過ぎれば衰えなくはなります。

 ただ、その為には魂容量の問題はもちろんのこと、強靭な精神力が必要でもあります。


 ようは天魔に至れる存在は皆、様々な形はあれど精神的に強靭であるというわけです。

 逆に言えば魂容量的にも大丈夫で天魔に覚醒出来るだけの魔力と身体能力に特殊技能を持ってたとしても、それを自由自在に扱えるだけの精神力がないと天魔には至れないということです。


 因みにこの設定は主人公含め、真希もうっすらそうじゃないかと疑ってる程度でまだ完璧には気が付いてません。


 ―――――――――――――――――――――

 更なる補足説明

 御覧の通り、主人公の従妹は少々馬鹿です。

 無駄に元気はつらつだけど、無計画にお金を借りたり。身内を見つけたからとなんとなく理由なしに話しかけたり、かと思ったら自分にも力があるし。もし彼に力があれば借金肩代わりしてもらえるんじゃねという短絡的な発想に至ったりと。

 少々行き当たりばったりな所のあるおバカちゃんです。


 ぶっちゃけ冒険者ギルドで無理やり力を見せつければ特例でダンジョンに潜れる、ないし、一緒にパーティーを組もうとしてくれる人もいるだろうに、その考えに至らないっていうね。

 あえてもう一度言いましょう。少々おバカちゃんです。


 まあ、ただ年齢自体は15歳とまだ子供であり、しょうがなくはあります。むしろ15歳で病気の母親を支えているかなりの苦労人でもあります。

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