第86話・血魔法と俺の従妹

「さあて。邪魔者も消えた所だし服屋さんに行ってナナの服を選ぶか」


「ナナの服を選ぶなの?」


「そうですよ。ナナちゃんの服を選ぶんですよ。さあ。一緒に行きましょうか」


「はいなの」


 そうして俺はさっきと同じようにナナとイトと手を繋ぎながら服屋さんに向かった。


 てくてくてくてくてく


 暫く3人で楽しく喋りながら歩いていたらあっという間に服屋に到着する。


 因みに入った服屋は女児向けの服を専門的に扱うことで有名な服屋であり、店長がかなりの巨漢のごつごつとしたオッサンでオカマ口調というかなり癖の強い人だがとても優しく強いと評判の人物だ。


 当たり前だが初めての来店だ。


「あら。いしゃっしゃい。今日はその子の服を買いにきたのかしら?」


 三人で入るやいなや、そう言って体をくねくねさせながら俺達に近づいてくる。

 なるほど。確かに評判通りの人物だな。


「はい。そうです。予算はいくらでも出せるんで。この子に合う服一式を10着ほど揃えてあげてください」

 まあ。俺は金持ちだからな。正直このお店程度ならば店丸ごと買い取っても金銭的には余裕だ。


「いくらでもですか。それは非常に素晴らしいですわ。この私、全身全霊を持ってこの子に合う服を選んで見せましょう」


「ああ。よろしく頼む」


「それじゃあ。イト俺は何処かの店で適当に座って本読んでるから後は頼んだ」


「分かりました。では終わったら念話で伝えます」


「分かった」

 そう言って俺は外に出る。

 正味店の中におっても良かったが。俺がいた所で何か出来るわけでもないし。服選びとかはやっぱりプロに選んでもらうのが一番だ。

 後は純粋にあの女児向けの服が所狭しと並ぶ店内にいるのは精神がゴリゴリ削られる気がして非常に辛い。凄く面倒だ。


「さて。何処で時間を潰そうかな?」

 俺はそう呟きながらぶらぶらと道を歩く。


 てくてくてくてくてく


 歩きながら良い感じのカフェがないか探す。


 てくてくてくてくてく


「うん。見つからないな。まあそんな都合よくあるわけないか。そもそもカフェってのは主に裕福層向けの店、ここは一般市民が利用する商店街。それはないはな。いやでも。もう少し奥に進めばあるいわ・・・」


 そう一人悩むがやめた。

 というか急に馬鹿らしくなった。何故わざわざ俺がこうして歩いてるのだろう?


 普通に空間魔法で自分の部屋でグウタラしてればいいやん。それが一番楽やん。

 さて、そうと決めたら転移するか。


「ちょっと待ってください」

 俺が転移魔法を唱えようとしたらいきなり少女に引き止められた。


 その少女は黒髪・黒目というこの国では非常珍しい容姿をした少女だった。

 顔立ちはそこそこ整ってはいるが。何というか全体的に少し薄く感じるような顔をしているな。


 にしても、何故俺を引き止めた?

 俺の記憶が確かなら初対面な筈だが?


「あんた誰だ?何故俺を引き止める」


「いえ。そのうもしかして貴方は私と血がつながってはいませんか?」


 ・・・・・・・・・・


 俺は余りにも想像の斜め上を行き過ぎる言葉が少女から出たものだから「は?」という言葉が出てくる。


「一体何を言ってるんだ?」

 そう疑問に思いつつ。念のために血魔法を使い、本当に血縁関係があるか調べて見る。


 結果。


 しっかりと血縁関係があった。


 一体全体どういうことだ?

 何故血縁関係がある?何故この少女はそのことが分かった。

 一体この少女は何者で。どういう形で血縁関係があるのだ?


 ・・・・・・・・・


 分からない。


「フフフ。やっぱり血が繋がってた。私の血魔法は優秀だね」

 血魔法だと?

 俺は【万能の天魔】であるから使えるが、血魔法はかなり特殊な魔法であり。普通の人にとっては相当難易度の高い魔法だぞ。

 それを使ってるだと?


 本当に何者だ?


「幻覚魔法・発動・木魔法・蔦拘束」

 俺は先手必勝で周りからは俺たちのことを見えないように幻覚魔法をかけた上で体を一応女の子であるわけなんで体を傷つけないように注意しつつ蔦で体を拘束する。


「口の部分の蔦よ消滅しろ」

 口だけは聞けるようにしてやる。


「さて。俺の質問に素直に答えろ。お前は一体何者だ?」


「ちょっと。いきなり拘束って酷いじゃないの。可愛い従妹相手にさあ」

 凄く元気はつらつな声でそう言われる。

 一応今現在体は拘束されててて動けないにも関わらず。一体何故こんなに余裕なんだ?

 それに今従妹といったか?


 従妹?え?どういうことだ。


 噓感知を使う。本当だ。


 ・・・・・・・・


 え?マジでどういうことだ?


「なあ。従妹っていうが。俺はお前みたいなのに知らないぞ。少なくとも父上の兄弟・姉妹は全員殺されるから。他国に人質として送られているからこの国にいるわけもないし」


「いや。あんたのお父さんなんて知らないわよ。私の感じた血はあんたのお母さんからよ。だからつまり。あんたは○○さんの息子ってことじゃない?」


 ○○。お母さん。


 あれ。


 クソ。頭が痛い。


 何故、お母さんの名前を思い出せない。


 お母さんがいたのは覚えている。お母さんが殺されたのも覚えてる。

 でも名前が出てこない。


 ・・・・・・・


 何故だ。クソ本当に頭が痛い。これは何か俺の奥底の何かが触れるなと言っている。

 やめよう。これは多分真希の力を借りて俺が封印した情報なのだろう。


「あんた。どうしたの急に頭を抱えて」

 少女は俺を心配しながら、駆け寄ってくる。


 うん?駆け寄る?あれ拘束は?


「おい。俺はお前に蔦で思いっきり拘束をかけたはずだが」


「ああ。その程度なら私が解いたよ。というかあの程度の蔦、血魔法を使いこなす私にとっては破壊もちょちょいのちょいだよ」

 腰に手を当てて指で軽くハートマークを描く。

 何だろう。凄い自慢をしてる感じで少しうざい。


 いや、違う。俺の魔法を簡単に解いただと。それって少なくとも英雄クラスの力が必要だぞ。本当にどういうことだ?


 俺の従妹で英雄クラスの血魔法の使用者。


 ・・・・・・・・・


 なんかこう凄く厄介事の匂いしかしないのだが。

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