第40話・外伝・王国騎士団団長
とある騎士団長から見た第五王子
あれは今から1年前のことだ。
前騎士団長が残したメモ帳を発見した。
前騎士団長は英雄クラスの実力者を持ち、当時のわが国では最も天魔に近い存在と言われていた男だった。
その功績は多岐にわたっており、単独での炎竜討伐による一騎竜殺し。
一人で千の敵兵に向かい走り無傷で全員皆殺しにした一騎当千。
万の魔物の軍勢との戦いにおいては味方の犠牲を一人も出すことなく魔物の殲滅を行った。無血魔破。
反乱を起こした平民相手や貴族相手、誰であろうと冷酷にそれでいて王の命令通りに眉一つ動かさずに処罰をしたという絶対忠誠。
いくつもの伝説を残した偉大なる人物。
指導者としても優れていて、何百という弟子を取り。そのうちのほとんど全員が一流クラスの実力を得た。
中には準英雄クラスの力を手に入れた者もいる。
私は前騎士団長の教え子ではなかったし。面識も少なかった。
だがしかしその功績を聞き。一人の武人として尊敬の意を表さずにはいられなかった。ある意味では敬愛していたといっても過言ではないかもしれない。願うならば側にいたいとも思っていた。
そんな偉大なる前騎士団長だがいきなり退職をした。
理由は不明である。ただ風のうわさで子供に敗北したからと聞いたことがあるが絶対に嘘だと思った。
私としては何かしらの病にかかって退職をしたと考えていた。
そう、あのメモ帳を見つけるまでは。
たまたま前騎士団長が使っていた執務室で事務作業をしていた時に少し苛立つことがあり誤って力を込めすぎて引き出しを壊してしまった。
そこから出てきたメモ帳。どうやら机の引き出しが二重構造になっていてそこに隠されていた物のようだった。
私はそれを何気ない気持ちで読み始めた。
だけどこの時の私は知らなかったこのメモ帳が私の人生を大きく変えることになるなんて。
最初は何の変哲もないメモ帳だった。
前騎士団長が予定を書き込んでいたり、当時ライバルであった魔道騎士団長の愚痴が書き込んであったり、嫁に買う花の種類のメモが書いてあったりしてあった普通のメモ帳何の変哲もなければ面白みもない内容だった。
読むのをやめようかなと思いつつも、せっかく見つけたからと最後まで読もうと惰性で私は読み進めていった。
そしてそのメモ帳の最後のページだけが異様で異質で異常でとにかく狂っていた。
そこにはおそらく前騎士団長本人の血でこう書かれていた。
【第五王子に手を出すな。アレは人にあらず。アレは化け物だ。アレはアレはアレは。思い出せない。多分何か大きな力で皆のそして吾輩の認知が操作されている、だから気を付けろ、もしこれを見たものがいたら胸に刻め絶対に第五王子を怒らせるな。刺激させるな。アレは化け物だ】
怖かった。
血で書かれている時点で怖いのに。
それが殴り書いたような。何かに怯えてるような戦ってるような。そんな感じで書かれていたのだ。
なぜ前騎士団長がここまで第五王子を恐れているのか。怠惰でグウタラな第五王子をなぜ化け物だと警告するのか。私にはよく分からなかった。
でも尊敬する前騎士団長の言葉であり、自分の血を使って狂ったように書かれたその文章から私はそれが事実だと判断した。
理由はわからないが、しかし絶対に第五王子に関わらないようにしよう。そう思うと同時に少し興味を沸いた。一体どれだけ第五王子は強いのだろうか?
もしかしたら私よりも強いんじゃないだろうか?それならばなんて魅力的なのだろうか。その力に触れてみたい。そう思った、心の底から思った感じた。
でも殺されるのは嫌だった。
あの前騎士団長にこんなメモ残させるんだ。
もしかしたら血に飢えた狂人で力を暴こうとした瞬間に殺されるかもしれない。
そんなことを考えるとやはり第五王子には関わらないでおくのが無難だと思った。触らぬ神に祟りなし。我が国の建国者山田様の偉大なる言葉でもそうあるのだから。
そんな誓いを立ててから1年後。
第五王子が化け物っで関わってはいけないなんてのをなんかすっかりと忘れていた。
すっかりと忘れた状態で第一王子様と第五王子の決闘の審判をしている。
決闘理由はイト殿をかけた愛の決闘みたいな感じだが。まあ正気の沙汰ではない。
まずイト殿は天魔だ。
多分私が100人いようと適わない最強の存在だ。
やろうと思えば今この瞬間にここにいる全ての人間を皆殺しにできるレベルの化け物だ。
大体第一王子様にはイト殿の圧倒的な力が分からないのか?一応私は騎士団長として準英雄クラスの力を持っているのだが。近くにいるだけで格の違いというのを感じで震えが止まらない。
そんな化け物相手によく恋心なんて持てるなと。私は心から思う。もちろん友人という形であれば話は別だし。私自身としてはイト殿と仲良くやれていると思うけれど。
でもイト殿もいい迷惑だろう自分よりも弱い男に告白されるというのは。自分よりも弱い男なんぞ武人であるイト殿からしてみれば絶対に嫌だろうからな。
私も一人の武人としてその気持ちはよく分かる。
まあ。そんなことを考えても私には徳はないな。取り敢えず今は試合の審判という役を全うしよう。
そうして試合が始まったのだが。それはあまりにも一方的な試合となった。
第五王子自体の能力は見た限りではは強くないはずだ。
動きも遅いし使ってる魔法も低級。能力だけ見れば三流程度だろう。
だけど一方的に第一王子様をぶちのめしていた。
そこにあったのは新兵と熟練兵のような圧倒的な技術力の差。
明らかに遊ばれているという感じがする。
もちろん第一王子様が感情的になっているというのはある。それでも第一王子様が弱いというわけではない。魔法も使えるしイト殿に剣の腕は鍛えられている。
にも関わらずここまここまでの力の差が出るとは。おかしい。
私は少し恐ろしく感じた。
だけどまだあの前騎士団長のメモ帳の内容はまだ忘れていた。
そしてあの屑で有名なというか屑の第二王子様が表れて、これまた私でも分かるような愚かなことを言い出す。
本当に救いようのない馬鹿だ。
絶対にこいつは国王にしたらダメだな。
一瞬第五王子にボコボコにされたのを見て第一王子様のことを見限ろうかと思ったが前言撤回だ。やはり第一王子様のほうを国王にしないと国が終わる。
いやでも。今の第一王子様が国王になってイト殿に不適切な発言や行動をしたらそれはそれで国が終わるな。イト殿の性格的に第一王子様を切り殺す可能性ありそうだし。
・・・・・・・・
どちらにしても国が終わりそうだな。
もういっそのこと全て投げ出して亡命をしようかな。幸い私は独り身だ。他国でも問題なく生きていける自信もある。
そんな馬鹿なことを考えていた時だった。
死を感じた。
今まで感じたことのない強烈な死を。
深く濃厚で圧倒的な力を感じる死を。
天魔であるイト殿よりも強いと思わせるような死を。
何もせずに無慈悲に一瞬で殺されるといういのが容易くイメージ出来てしまうような死を。
心臓が狂ったように鳴り私の直感が人生で最大の警告を鳴らした。
本当に一瞬ではあるがそのレベルの恐ろしい死。否、殺気を確実に絶対に感じた。感じ取れた。
私は騎士団長という職に就く前は【探知の天魔】様の副官として働いていた。
その関係で探知の天魔様から探知のスキルを教えられていた。
だから自慢ではないが探知という能力は英雄クラスに高いという自負がある。
だからこそ。その場で多分私と第二王子様だけが第五王子の化け物という言葉すら生ぬるく感じるような力を感じた。
死という名の殺気を感じた。
そして唐突に思い出す。
あの前騎士団長のメモ帳を。
ああ。何で私はそれを忘れていたのだろうか。
確かに化け物だ。アレは手を出してはいけない存在だ。
最低でも天魔以上の実力を第五王子、いや第五王子様は持っている。
そして理由はわからないが。それを隠している。それを隠して怠惰でグウタラな人間でいる。
そうなるとイト殿が天魔になったのも第五王子様が関わってきそうだ。
そして新しく入ってきたという少女も只者ではなさそうな予感がしてきた。もしかしたら天魔かも。
あ、そういえば同盟国との援軍。
あれに行った兵士全員が死んでいた。
そして死んだ兵士は全員第二王子派閥の貴族の兵士達だった。
戻ってきたのは第五王子様とイト殿だけ。
・・・・・・・・・
何かがありそうだ。
でも私はそれを考えたらダメだ。
だって第五王子様は不可侵略なのだから。
忘れよう。何もかもを忘れておこう。
見なかったことにしよう。それが一番だ。
でもでも。ああ、何故だろう凄く凄く体が疼く。疼いて仕方がない。やっぱり私は強い人が好きだ。前騎士団長といい【探知の天魔】様といい。私は私よりも強い人を愛したい。側にいさせて欲しい。愛して欲しい。
それがどんな性格でも容姿でも立場でも年齢でもいい。
ただ私よりも強い人。
圧倒的な力を持った人がいい。
ああ、我慢が出来ない。
どうにかして第五王子様の傍にいたい。でも正妻はイト殿がいるから無理でも、側室。そう側室になりたいい。
大丈夫。
あれだけの力を持ってるんだ。
幾らでも愛人を作ってくれてかまわない。ずっと私の傍にいてほしいとも思わない。ただそうただ子種が欲しい。私を抱いて欲しい。
ああ。なんて魅力的なのだろうか。
ああ。なんてそそるのだろうか。
ああ。なんて殺気を出すのだろうか。
ああ。何でこんなに体が疼くのだろう。
疼いて疼いて仕方がないのだろう。いや理由なんてわかっている。第五王子様の力を感じたのだから。あの恐ろしく冷たく力強い殺気を浴びてしまったのだから。
あの三人の中に入りたい。入って私も第五王子様の寵愛を受けたい。
ああ。ああ。ああ。ああ。
前騎士団長の言葉なんて知ったものか。
あの殺気を力をその場で肌で感じたんだ。もう私は第五王子様の虜。
この思いを抑えるなんて出来ない。
そうだ。今すぐに行動をしよう。
今すぐに第五王子様の所に向かう。
イト殿もきっと許してくれるはずだ。
思い立ったらすぐ行動だ。
面倒がらずに進んでいこう。
第五王子様の為ならば今の地位だって捨てれる。私の全財産を捧げてもいい。もちろんこの身は余すことなく捧げるつもり、いや捧げたい。
さあ。第五王子様は私を抱いてくれるかな?
いや違う抱いてくれるまで何度でも何度でもアピールをしよう。
やっと私は私よりも強い理想的な人に出会えたのだから。
――――――――――――
補足説明
前騎士団長・ルドルフ
5歳のグレンのフルボッコにされて心折られイケオジ。
グレンにフルボッコにされた時の年齢は43歳で剣においてはグレンを除き国一番の実力を持ち。数々の偉業を成し遂げた英雄。
結婚はしており。意外にも尻にしかれるタイプで妻を心から愛している。
因みに子供が三人いるが全員剣とは違う道に進んだ。
今は騎士団長をやめて愛する妻とともに二人で田舎の村にて仲良く暮らしている。
気が向いたら本編に出すかもしれない。
現在騎士団長・カレーヌ・34歳。
強い人が大好きな美女。年齢は34歳と高く感じるが一定以上(準英雄)の力を持った強者は普通の人よりも老化をしなくなる為、見た目年齢は20代前半。
ただ天魔にならない限りは寿命が異常に伸びたりとかはしない。あくまで人間という枠組みの存在は英雄クラスの力を持ったとしても130歳くらい生きるのが限界である。
容姿設定としては短く切り揃えられた黒髪に身長は160くらい、胸はやや小ぶりでお尻が魅力的なクール系の美女。肌の色は褐色である。(作者の趣味)
性格としては自分より弱い男を嫌っている感じで結構ツンツンしたクール系美女。女性に対しては基本的に優しく頼れるクールなお姉さんって感じ。
ただ自分よりも強い男には異様にデレてガツガツ行く。
能力設定としては剣術と盾術が準英雄クラスで探知能力は英雄クラス。指揮の能力は非常に高く5万の軍を自在に操り。自身の探知能力も相まって10万の敵軍相手に勝利を収めたこともある。
過去の設定としては。
とある騎士家に生まれて小さい頃から鍛えられていた。
なんの因果か天賦の才能があり。あっという間に周りの男どもよりも強くなり。自分よりも強い男を求めるようになった。
しかし自分よりも強い男は中々おらず泣く泣く諦めたという感じ。
因みに彼女よりも強い男として会ったことのあるのは【探知の天魔】と前騎士団長の二人だけであり。探知の天魔も前騎士団長も妻一筋の純愛主義者でどれだけ粘っても落ちなかったため諦めた。
その力が認められて10代後半で探知の天魔の副官となり活躍。それから前騎士団長の隠居に伴い、強さと家柄と探知の天魔からの推薦で王国騎士団団長となる。(基本は騎士団長って言い方にします)
当たり前だけど年齢=彼氏いない歴の処女。
え?イトはどうかって?傭兵時代に捨ててますよ。
因みに前騎士団長がやめてから一年くらいで入ったので、騎士団長勤務歴は10年を超えるかなりのベテラン。
貴族との繋がりは凄く厚く、特に女性が当主である貴族家には凄く信頼をされている。
今まで仕事柄何人もの貴族や大臣、果ては国王や王女に王子の命を救い。国の危機にも英雄的な活躍を遂げている。
前騎士団長がどうとか言っていたが。功績という点で見るならば彼女の方が圧倒的に上である。
具体的に言うならば。
陸天共和国との大規模侵略において5万の兵士で10万の陸天共和国兵を退ける。
何処かの国に雇われて国王殺害に動いた【暗殺の天魔】の存在にいち早く気が付き。兵士を集めて暗殺の天魔を退ける。
【探知の天魔】と共に魔の森で起きた大規模魔物暴走の鎮圧に尽力しその類まれなる指揮能力と探知能力。そして戦闘力を持ってして先頭に立ち魔物暴走を鎮圧。
バジリスク連合国のスパイが国に潜り込み王にまで近づいたいたところを一人で気が付き阻止。
騎士団長として竜討伐に15回出陣し。その全てをたった一人の犠牲も出すことなく成功。
彼女が騎士団長に就任してからの王国騎士団の1年間の犠牲者数は過去最少の10未満を10年連続で達成。
その他諸々功績を上げており。彼女に頭の上がらない貴族は山のようにいる。ある意味では公爵家に匹敵するほどの権力を持っているかなり凄い女性。
本編では自分よりも強い男が大好きな変態さんになりますが。実際は滅茶苦茶凄い人ですので覚えてくれたら嬉しいです。
補足説明
王国騎士団。
王国を守るための騎士団。
人数は千人と少し少なく感じるかもしれないが。全員が一流クラスの実力を持ったエリート集団。
王国の守護と戦争時や魔物暴走時。またドラゴン等の危険魔物の討伐等の任務を主に行っている。
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