第164話・【道化師の天魔】の高笑いをあげ、魔王は間違いを犯す


「大変です。魔王様。侵入者です。それもただの侵入者ではありません、あの【破壊の天魔】です」


「何?【破壊の天魔】だと。あの戦闘狂が何故?取り敢えず今すぐに排除に向かうぞ。この俺が出る。

 それと四天王達には常に一緒に行動をするように伝えろ。一人で立ち向かって撃破されるなんてことがないようにな」


「かしこまりました。魔王様」

 魔王の部下は急いで走っていた。


「しっかし、【破壊の天魔】か。・・・確か本来の世界線では、殺されてるルートが非常に多いキャラだったな。大体は修羅によって殺されるか。グレン師匠に手を出して殺されるか。帝国に逆らって皇帝によって殺されるかしてるのだが・・・それでもその戦闘の余波で地形が変わり果てて、余りの魔力濃度に突然変異した魔物が出現する程の化け物だ。クソ、厄介な。

 1対1で戦えば負けることはないだろうし、おそらく勝てるだろう、しかしその時に生じる被害はどれだけのものになる・・・下手をしなくとも魔王城は破壊されるだろう。

 クソ、面倒な」

 魔王が一人頭を抱えていた時だった。


 目の前にピエロがいた。


 まごうことなき、ピエロがいたのだ。


 否、違う。ピエロではない真希以上の愉快犯であり、支離滅裂で狂人的な快楽主義者【道化師の天魔】がそこにいたのだ。


「魔王である。魔王である。はいね。はいね。魔王よ。嗚呼、絶望の淵に立ちし魔王よ。そなたの運命は死神である。はいね。はいね。はいね」


「お前は・・・まさか、【道化師の天魔】か?何故こんなところにって、あの【道化師の天魔】にそんなことを言っても無駄か」

 魔王はゲームをプレイしたことがある為に【道化師の天魔】は常にピエロの姿をし、無駄に口角を吊り上げて喋り、はいねという言葉を口癖としていることを知っていた。

 それでいて頭のネジのぶっ飛んだ快楽主義者であり、狂人的な愉快犯であるとも知っていた。

 だからこそ、瞬時に【道化師の天魔】であると理解すると共に敢えて無駄な質問はしなかった。


「ハハハ、私の正体を知っているとは、素晴らしい。実に素晴らしい。はいね、はいね~~~。となるとやっぱり君も憑依者か?はいね。はいね」


「何故それを・・・まさかお前も」

 用心深き魔王は自分が憑依者であることを誰にも喋ってはいなかったので、【道化師の天魔】も自分と同じ憑依者であると結論をづける。

 しかし、それは違っていた。

 【道化師の天魔】は転移者である【読書の天魔】から情報を貰っていたから知っていただけであり、純度100%この世界の住人であり、しっかりと【道化師の天魔】として頭のネジはぶっ飛んでいた。


 という訳で魔王は大きなミスを犯してしまう。


「はいね。はいね」

 【道化師の天魔】はわざと、肯定する。正確に言えばわざと口癖のはいねと呟いただけである。その方が面白そうだから。

 魔王はそのはいねという言葉を肯定だと捉えてしまった。


「そうか・・・憑依者だったのか。じゃあ俺と協力をしないか。俺もお前と同じ憑依者なんだ。見て分かる通り俺は今は魔王だ。俺の魔王として力と【道化師の天魔】の能力を使えば怖い者なんて存在しない」


「はいね。はいね」


「ああ。そうだ、【道化師の天魔】の力は上手く嵌ればであるが、最強キャラである師匠に天魔連盟創設者、何ならゲームで最強まで鍛え上げた修羅にだって勝てるんだぞ。魔王である俺ならその上手く嵌ればの部分を無くしてやれる、確実に相手を嵌め殺しすことができる。なあ一緒に世界を獲ろうぜ」


「フフフ、ハハハ、ハハハ、ハハハ、ハハハ、はいねはいねはいね。面白いことを言うね魔王。私、言ったよね。そなたの運命は死神である。と」

 

「へ?」

 魔王の首がずり落ちた。


 ドゴン


 鈍い音を立てて魔王の首が地面に落ちた。


「あれ?今何が?」

 驚異的な生命力を持った魔王だけあり、首だけになって生きていた。

 今すぐに胴体と首を繋げればすぐに再生するであろう。正直魔王にとってはそこまで大きな致命傷ではない。

 ただ、それでもだ。

 いきなり自分の首が切断されるという異常事態に直面してしまったのだ、魔王は否魔王の魂として存在しているひ弱な元青年はパニックへと陥ってしまう。


「魔王よ。その体を私の友人が欲しがってるんだ。だから貰うね。はいね。はいね」

 

「【道化師の天魔】よ。一体どういうことだ。何がってあぁぁぁぁぁ」

 魂を無理やり引きずり出すような強烈な痛みが魔王に走った。


「はいね。はいねはいねはいねはいねはいねはいね」

 【道化師の天魔】は笑う。

 愉快に楽しそうに笑う。

 笑って笑って、笑った後に拍手をする。


 パチパチパチパチ

 

 特に意味のない拍手。

 ただ、【道化師の天魔】が拍手をしたくなっただけだから行った拍手であった。

 道化師の天魔は一つ、否2つとある大切なことを忘れていた。


 一つ、一度定着した魂はそう簡単にはがれないことを。

 二つ、魔王という最高の肉体に宿った魂がその痛みで気を失ったとして、魔王の肉体そのものが魂とは別に防衛本能的に反撃を行うという可能性を。


「破裂しろ」

 魔王は低く濁った声でそう呟いた。


 バシュン


 肉が破裂するような音と共に【道化師の天魔】胴体が消し飛んだ。


 かくして戦況は混沌へと向かう。

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