第132話・国王は死にかける(常にストレスで死にかけてるようなものだけど)


 ソルティー国の公爵令嬢にして【嫉妬の天魔】の力を半分持った異世界からの憑依者、サンは自分に惚れている都合の良い駒(第三王子)を王として自分の果てしない欲望を叶えるためにとある計画を立てた。


 その計画は恐ろしくシンプル。


 まだ国王は第三王子が王に相応しくない存在であるから王位継承権をはく奪するという宣言をしていないので、面倒なことを喋られる前に殺して、今現在の王位継承権を保有している状態のまま、周りの貴族と大臣を味方にしていって第三王子を王にすることだ。


 もちろん、この計画には幾つか穴はある。


 例えば他の貴族や大臣が反発をする可能性。

 例えばそもそも論として第三王子が王をやろうとしない可能性。

 例えば第一王子や第二王子、第四王子、第五王子等の他の王子達が対抗馬と出て対立が起きる可能性。

 例えば国王が殺される前に第三王子の王位継承権をはく奪する可能性。


 だけど、それを全て解決して第三王子を自分の駒を王に出来るという自信が彼女にはあった。


 その自信の源は単純明快、彼女が自分の事を主人公だと思っているから。


 主人公である自分が望めばその通りになると、確率が低かろうと主人公であるのだから、それは必ず確定した未来として訪れる。

 そう、彼女は信じて疑っていなかったのだ。


 だから、彼女は躊躇いなく自身の組み立てた計画を実行した。


 この計画には大まかに分けて3つの段階があった。


 1段階目は第三王子が王になる前に結婚して、スムーズに自分が王妃という立場になれるようにすること。

 これをしていないと、第三王子が王になってから他国の公爵令嬢である自分が王妃になるというのはかなり難しいためである。


 2段階目は国王が余計なことを言う前に【嫉妬の天魔】の力で全ての力を奪った後に毒を盛る。

 毒を盛るといっても、盛るのは弱毒。せいぜい小さな子供が数日お腹を下す程度の、健常者には一切の効果のないレベルの毒。

 元々準英雄レベルの力があり、毒耐性もそれ相応に持っているはずの国王は割と毒類の暗殺にたいしての計画が緩かったりする。

 だからそこを狙う。

 結婚式の日の前日でも当日でも何処かのタイミングで、何事もないように、クッキーを作りましたと言って振舞う。

 もちろん毒入りクッキーであるが、弱毒であるし、自分も第三王子も何事もないように食べて特に何も起こらない。

 毒耐性の強い国王に至っては更に平気だ。

 だけど、その肝心の毒耐性が全てなくなったら、小さな子供が数日お腹を下す程度しかない弱毒でも、毒耐性ゼロで体力も落ち切っている国王が食べてしまったらどうなる?


 答えは簡単。


 猛毒になるだ。

 文字通り死ぬレベルの毒になるのだ。


 この方法を使って国王を暗殺する。


 三段階目は国王が死に混乱している状態で第三王子を良い様に操って王位につかせる。

 後自分はそのまま王妃となるだけ。


 この計画の第一段階は何事もなく上手く良き、第二段階も上手くいくように見えた。

 国王に毒を盛った後、【嫉妬の天魔】の力で国王の力を奪う。

 いとも簡単にいき、国王は力を無くして毒によって死にかけた。


 これでそのまま国王が死に第三段階へと計画を移行できるかに見えた。

 そう見えただけであった。


 計画の成功を考えながら、一応の為に第三王子のご機嫌取りをしてる時であった。

 それは突然現れた。


 いきなり目の前に第五王子がいたのだ。


 そしていきなり現れた第五王子は酷くめんどくさそうにあくびをしながら言った。


「取り敢えず父上から奪った力は返して貰うね」


 と。


 そしてサンは理解をした。

 今、自分の目の前にいる第五王子は天魔に覚醒していると。

 それどころかゲームにおいても最強と呼ばれたあの【万能の天魔】にして【怠惰の天魔】にして【消滅の天魔】であると。

 理解をしてしまった。

 その瞬間に自分が勝てるという可能性はゼロになった。

 どうにかしてこの場を収めて逃げ出さなくては、そう思い行動に移す、否考えるよりも先に自分の力が急激に抜けるのを感じた。

 

 そしてそのまま力が抜けて上手く体に力が入らずに膝から崩れ落ちてしまう。

 

「だ、大丈夫、サン」

 隣にいた第三王子の声が聞こえる。

 助けを求めよう、そう思ったが声が出なかった。あの第五王子、否、化け物の仕業だそう思っていると、化け物が私の大切な駒に何か良からぬことを吹き込み始めた。

 

「ハア、兄上、騙されてますよ。そいつはクソのクソ、吐き気を催す邪悪ってやつです。兄上のことなんて一切愛していないゴミですよ」


「そ、そんな訳ないだろ。グレン何を言ってるんだ。サンは私を愛しているし。私もサンを愛している」


「恋は盲目、イトに惚れた第一王子といい、ゲームプレイ者のセッカに惚れた第二王子としい、悪女に惚れた第三王子といい、俺の兄はどいつもこいつも女性関係が死滅してんな。馬鹿だろマジで。愚かすぎる」


「いくらグレンといえど、サンを侮辱するな」


「ハア。分かった。じゃあ兄上はこの悪女の何処が好きなんですか?」


「それはもちろん。顔に体も好きであるし、私の思った通りのことを言ってくれて、愛してくれるところだ。とどのつまり全部好きだ」


「ハア、そうですか。じゃあ、この悪女の真の姿でも見れば目を覚ましますかね?魂分離からの肉体創造」


 あの化け物が何か魔法のようなものを唱えた瞬間に自分の魂が引っ張られていくのを感じた。

 そのまま、引っ張られて、そして激痛が走った。

 激痛という言葉で片付けてよいものかと思うレベルの激痛が、今までに感じたことのないような激痛が体中を走った。

 だけど決して気絶は出来ない。

 激痛だけがひたすらに襲い掛かってくる。


 痛みが止んだと思って目を開けたら目の前に私がいた。


 余りの意味の分からない状況に私は、


「は?」


と声が漏れる。


そして、気が付く喋れるようになっているということに。


「ダリア王子、私は貴方の事を心の底から愛しているわ。彼の言うことなんて信用しないで」

 慌てて弁明の言葉を紡ごうとして気が付く、自分の言葉に否、自分の声に違和感があるということに。

 その声はいつもの若く可愛らしい声ではなく、醜く濁ったような、それこそ物語に出てくるような醜く老い果てた魔女のような声だった。


「お前は誰だ」

 第三王子の言葉を聞き、自分の手を見る。

 そこにはしわしわで醜い手があった。


「これは、何だ、どういうことだ。私の私の美しい体は何処に行った」

 この時、サン否、憑依者の悪女は知らなかったが、第五王子ことグレンが使った魔法、魂分離はその名前の通り、魂を分離させる魔法。

 そして肉体創造は、分離した魂のデータをもとに肉体を創造する魔法であった。

 つまり、今こうしている醜くい悪い魔女といっていい容姿が憑依者の悪女の真の姿、それこそ魂に準ずるレベルのあるべき姿であったのだ。

 もちろん憑依者の悪女はそんなことは知らない、理解出来ない。

 ただただ自分の変わり果てた容姿に混乱し発狂をするだけであった。


「うわ、心が醜いととんでもねえ化け物になったな。さて、兄上よ。これが兄上の愛した女性の本当の姿だ。どうだこれでも愛せるか?」


「あ、愛せる訳がないだろ。こんな、こんな醜い魔女を、そもそもこんなのは絶対に私の愛するサンではない」


「何を言ってるのですか。ダリア王子、あれだけ愛し合って私を大切にしてくれたじゃないですか」

 憑依者の悪女は第三王子にすり寄る。

 しかし、第三王子はそれを振り払う。


「ええい、触るな。そもそも私のサンは目の前にいるではないか」

 第三王子が見据えた先にいたのは、ずっと魂ごと囚われていて文字通り精神が崩壊して一周回って狂ってしまった、ある種の異常者となり果ててしまったサンの魂に体の主導権が戻った状態のサンの肉体であった。

 とどのつまりどういうことかというとこういうことであった。


「きかかかかかかかかかかかかかかかか。あはははははははははははははは。ももももも、戻った。わわわわわわ、私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は解放されたんだ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 狂ったように笑い声をあげるサン。

 第三王子はそれを見て思わず後ずさりをしてしまう。

 それもそのはず、目の前にいるのは完璧に狂った異常者のそれであり、肉体は中身は自分の愛したサンにそっくりでも感じる雰囲気は全くの別物であったのだから。

 ただ、後ずさりをした第三王子は、何か決心をしたのか、逆にサンの元に歩き始める。

 

「サンよ。俺はお前を愛している。心の底から愛している。だというのにお前は変わってしまったのか。そうかそうかそうかそうか、それはいかないよなぁぁぁぁぁぁ」

 その瞬間起こるのは恐ろしいレベルの、それこそ天魔といっても良いレベルの魔力の激流。

 この瞬間、この刹那、第三王子はあろうことか天魔の覚醒段階一歩手前まで覚醒をしたのだ。(腐っても第三王子でありその血筋は天魔に至るには十分な力を持ち魂容量もしっかりとあります。つまりどういうことかというと第三王子は普通に天魔になれる器です)

 まだ天魔に至ってはいないものの、その身に宿る力は英雄レベルを優に超えていた。そして第三王子はその身に宿る莫大な魔力を利用して新しく獲得したとある特殊な力を行使した。

 その力の名前は【マリオネット】。効果は単純明快にして最強最悪、自分よりも魔力が低い相手を魔力消費なしで自分の意のままに操るという効果である。

 とどのつまり。英雄レベルの魔力を持っていない限り、一度彼の操り人形にされてしまったら最後、永遠に彼の操り人形として一生を過ごすという恐ろしい力であった。

 その力を使い、第三王子は一切躊躇いもせずに行使して自分の愛したサンを操ろうとした、だけど何の因果か神の悪戯か、いやある意味の必然か。

 サンには膨大な、それこそ英雄レベルの魔力が宿っていた。【嫉妬の天魔】の力によって意図せずに獲得した化け物レベルの力が宿っていた。

 かくして第三王子の【マリオネット】は失敗し、自分の体を取り戻したサンはいきなり敵対行動を取って来た第三王子に臨戦態勢を取り、さっきの第三王子の魔力波動で醜い憑依者の悪女は気絶をし、グレンは目の前の面倒事に大きくため息を吐くという、何とも地獄のような光景が広がっていたのだった。


 めでたしめでたし


――――――――――――――――


多分、次回か、その次で【嫉妬の天魔】、ソルティー国を添えては終わると思います。

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