第97話・死してなお【詐欺の天魔】は嘲笑う~そして魔王は立ち上がる~
「人間を滅ぼす」
何故そのような結論に至ったかというのは凄くシンプルでした。
10年間詐欺をしながら、人の醜さを見続けたからです。
平気で人を裏切り、平気で人を陥れる。
例え身内だろうといとも容易く裏切り金の為に殺す。
そんな人間を嫌というほど見続けたのです。
そうなってくると人間なんてのは滅んだ方がいいという結論に至るのは、納得というものです。
といっても青年は本来であればそこまで極端な結論に至るような人間ではありません。
しかし幼少期に受けた数々の拷問と暴力と侮蔑、地獄のようなというより地獄よりも地獄だと言い切れるような地獄の日々。
それによって青年の心はとっくに壊れて狂ってました。
そんな狂って壊れた精神状態で人間の愚かさと醜さを10年間ずっと見続けたら、それはまあ人間を滅ぼしたほうがいいと思う訳です。
ついでにいえば青年には決意がありました。
10年以上も昔、自分から全てを奪った盗賊を殺すという決意。自分に地獄を見せて変態貴族を奴隷商人を憲兵を兵士を殺すという決意を。
もしかしたらそいつらは死んでいるかもしれない。
それでも生きているのならば殺そうと決意をしました。
だからその決意を果たすためにも、人間を滅ぼすというのはとても理にかなっていました。
一応記しておきますが青年は元々は心優しい人間でした。
だからこそ、その歪みから青年はとある結論を描きました。
「人間を滅ぼせば世界から苦しみは消えるのではないか?」
という結論に。
そう青年にとって人類を滅亡させるということは、これ以上人間同士によって生まれる苦しみを解放するということでした。
異世界に哲学という概念を持ち込んだ一人の異世界人は言いました。
「【総幸福理論】に基づけばこれから苦しみが確実に待ち受けているような人間はその苦しみから解放させる行動を取るのは善である」
と。
常識的に考えてめちゃくちゃな暴論です。しかし青年はそんな異世界人が書いた本を愛読書とし、とても感銘を受けていました。
そして人間を滅ぼすという目的の為に青年は考えます。
どうすれば出来るか?
考えて考えて考えて、そして考えても思いつかなかったある日、件の異世界人が書いた別の本を古本屋で見つけました。
その本のタイトルは【経済的破滅論】と記してありました。
その本を貪るように読み、青年はこの世界を私のような力なき者が滅ぼす為に必要なのはお金であると理解をしました。
お金を使って経済を操り、騙して、世界を食糧難という最悪の恐怖に陥れ、騙して、それに伴って起きるであろう戦争を自分が裏から操って騙して、最悪の結末へと持っていかせようと。
そうして人間を滅ぼして見せようと。
そう決意を決めました。
そうと決めたら青年の行動は早かったです。
最初に青年は【商人の天魔】に接触をしました。
【商人の天魔】それは世界最強の経済力を持った天魔であり、たった一人で大国を買い上げれる程の資産を持った世界で一番の資産家であり世界で一番の商人。
そんな【商人の天魔】に持ち前の話術を活かして近づき、最初は下っ端から初めて10年以上という長い年月ををかけて信用を手に入れ、地位を高め、より多くのお金を蓄え、【商人の天魔】という化け物相手の右腕という地位を手に入れれました。
そして青年は暗躍を始めます。
人間を滅ぼすという目的の為に。
様々な裏組織と伝手を作り。自分が自由に使える組織を作り出し、忠実な部下を育てていきました。
もちろんそれだけでは人間を滅ぼすことは出来ません。
経済的破滅論に基づき戦争を起こして、まずは経済を破壊してそれに伴って起きるであろう混乱を更に拡大させて、その大混乱の最中、裏組織との伝手で見つけた魔物暴走を人為的に起こす方法を取り人類を滅亡させようと考えました。
しかしその計画の前に大きな壁が立ちはだかりました。
それは天魔でした。
少なくとも天魔相手に常識は通じません。
ありとあらゆる全ての物事を上から力で無理やりねじ伏せることの出来る化け物。それが天魔です。
そして少なくとも人類を滅亡させるとなったらば天魔連盟に帝国に所属している天魔、聖教国に所属している天魔含む、国に所属している天魔は全員が敵に回ることは容易に想像出来ました。
自分には無理なのではと思い、一瞬諦めの2文字が頭に過った青年でしたが、諦めませんでした。
諦めずにひたすらに努力に次ぐ努力を重ねました。
気が付いたら10年以上の月日が立ってました。
青年、否、男は努力をしました。
20年以上もの長い間ずっと世界を滅ぼすという目的のためだけに。
何度も諦めかて、何度も躓いて、いまだにどう足掻いても人類を滅亡させる方法が思いつかなかった。
それでも諦めずに考えて考えて努力して策を練って暗躍してひたすらに人類滅亡の為に行動しました。
そんなある日、何の因果か、いや神の悪戯か。
男は天魔に覚醒しました。
そう【詐欺の天魔】に。
【詐欺の天魔】に覚醒した瞬間に男は理解をしました。
天魔の持つ圧倒的な力と、そしてたった一つだけ存在する極低確率、それこそ砂漠から一粒の砂を見つけるレベルの超絶低確率ではあるが人類を滅亡させることの出来る未来を。
男は歓喜に震えました。
今まで絶対に不可能と思えた、否、不可能であった人類滅亡の可能性に手をかけることが出来たのです。
そして男は暗躍をします。
まずは仲間に出来そうな天魔を何人か騙し、仲間に引き入れました。
【人形の天魔】【回避の天魔】含む4名の天魔を言葉巧みに騙して仲間に引き入れることが出来ました。
これが出来たら【人形の天魔】を使って情報を集めさせ、仲間になった天魔の力を使って【商人の天魔】をこちらの都合の良い動きを行う操り人形にさせ、更に仲間になった天魔を通じて魔王にコンタクトを取り、各国の様々な貴族にコンタクトを取りました。
人類滅亡の第一歩として【詐欺の天魔】は全ての国が等しく殺し合う世界大戦を望みました。
そしてその世界大戦が行われた際に、より過酷で激しく苛烈な戦争となるように様々な工作を行いました。
その結果、今までの努力も実り、後2歩、3歩というところで【商人の天魔】が何故か正常になって戻ってきました。
理由を探ったらあの世界最強の天魔であるグレンが関わってると知り。計画の大幅な修正が必要になりました。
少なくとも今ここで世界最強の天魔であるグレンがこちらの企みに気が付けば。確実に殺される、否、消滅させられると理解していたからです。
【詐欺の天魔】は何とか計画を修正させる為に代替案を実行し、念のために保険も3つほどかけました。
これでどうにかなると思った矢先、グレンの眷属である天魔達が唐突に現れて一切の抵抗らしい抵抗もできずにあっさりと簡単にあっけなく殺されました。
めでたしめでたし。
されどこの時は誰も気が付いていなかった、【詐欺の天魔】の仕掛けた3つの保険の存在を。
この3つはどれも大きな大きな爆弾。
それこそ一つでも爆発すれば国が滅ぶレベルの大きな爆弾。
爆発するのにはかなりの時間を必要とするがその分、爆発さえすれば後は勝手に他の所にも火がついて、燃え広がるような恐ろしい爆弾。
そんな恐るべき爆弾という名前の保険。
この保険に世界が主人公が気が付くのは大分先のこと。
――――――――――――――――――
【詐欺の天魔】が死んでから1月以上の月日が経過したとある日の朝のこと。
豪華絢爛なる魔王城の王の寝室にて、いつもの様に複数の女魔族と夜を共にし、乱れた性活を行っていた魔王に一枚の手紙が届けられた。
その手紙を読んだ魔王は怒りをはらませて叫んだ。
「ああ。そうか。そうか。そういうこと。グレンが俺の俺の俺の可愛いナナを奪ったんだな。しかもこいつも転生者か。ああ、そうか、それなら殺して奪い返すしかないな、俺のナナを」
と。
そして魔王は動き出す。
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