第96話・【詐欺の天魔】は嘲笑う
【商人の天魔】【忠光の天魔】【察知の天魔】【剣舞の天魔】という4人の天魔が力を合わせて完璧にこの世から消し去られた【詐欺の天魔】という一人の天魔がいた。
これはそんな【詐欺の天魔】のお話。
全てに絶望して地獄を経験して人を憎み世界を憎み全てを憎み、世界を滅ぼすことを決意し、世界を嘲笑ってやろうと決意をし、無慈悲に冷酷に冷徹に自分を騙し人を騙し恩人を騙し世界を騙し、全てを騙してペテンにかけて、自分にとって最良の未来と幸せを掴もうとした一人の狂った男が生まれるまでのお話。
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昔々ある所にといっても今から30年程前の出来事です。
一人の商人がいました。
その男は妻と一人の息子と一緒に幸せに暮らしていました。
その日はいつもの様に村へ買い付けを行いその商品を街に売ろうと馬車を走らせていました。
利用していた道は危険も少なく、一応念の為に冒険者は雇っていた物の特に何事もなく街へ向かえると思っていました。
しかし唐突に盗賊が現れて襲われます。
さあ、ここで冒険者の出番となりましたが、なんとビックリ、冒険者は盗賊とグルだったのです。
そしてその商人の男は殺され、まだ若かった妻は盗賊と件の冒険者の慰め者となりました。
一人息子は年としては7歳くらいでしたのでショタ好きの変態に売れるだろうと奴隷にされました。
よくある話。
本当によくあるありふれたお話です。
ありふれ過ぎて笑えないお話です。
だけど一つ違った点があるとすれば奴隷にした少年の精神力は異常と呼べるほど強靭だったことです。
少年は盗賊と裏切った冒険者を必ず殺すと誓いを立てました。
けどなんの力もなかった少年はあっけなく奴隷商に売り渡されて変態貴族に買われました。
そこで自分と同じように買われてボロボロにされて最中に死んでいく、否、殺されていく奴隷を何人、何十人とみてしまいました。
少年は逃げようと思いました。
だけど奴隷として首輪をはめられて魔術もかけられている少年が逃げられるわけがありませんでした。
そして逃げようとしたことで目をつけられた少年は変態貴族によって地獄という言葉では表せられないようは地獄のような目に合いました。
普通の人だったらここで精神は壊れて生を諦めているでしょう。
だけど少年の精神は異常でした。
決して生を諦めずに生きようと必死に足掻きました。
足掻いて足掻いて足掻いて足搔きました。
されど少年はまだ子供でした。
最中に気絶して、それを死んだと間違えられて、首輪含む全ての衣類を剥がされてスラム街に捨てられました。
凍えるような寒さで目を覚ました少年は自分の状況を正しく把握しました。
それから少年の更なる地獄のようなスラム街での日々が始まります。
虫を喰らい、雑草を喰らい、時には死肉すらも喰らい。
人を人と思わぬ様々な所業を見て聞ききました。
ここで立場の弱い雑魚だと考えた少年は目をつけられないようにひっそりと生きていくことを決意し、誰にも気にされないように気が付かれないように隠れるように過ごしました。
隠れながら弱い自分を変えようと必死に体を鍛えて、捨てられたぼろぼろの本を探しても読み漁って知識を持ちました。
そうして数か月の月日が立ち大分スラム街の生活にも慣れた少年に危機が訪れます。
それは憲兵です。
憲兵はずかずかとスラム街に入ると気に入った女や子供を無理やり捕まえていきました。
理由はストレス発散とお遊び、そして小遣い稼ぎでした。
隠れように生きていた少年でしたがスラムの住人が自分の居場所を憲兵に売り、簡単に捕らえられてしまいました。
そこで憲兵や兵士らのストレス発散という名前の拷問を受けました。
彼らは少年がいつ死ぬかという時間で賭け事をしていました。
そこに彼らの上司がやってきました。
少年はまだ国は腐ってないと信じて助けをこいました。
されど助けられるはずがありません、むしろ儂にもやらせろと少年は更なる拷問を受けました。
少年は更に怒りを燃やしました。
復讐を誓いました。
必死に足掻いて生きて生きて、こいつら全員を皆殺しにしてやると誓いました。
だけどそんなことが出来る筈もなく、拷問に飽きた憲兵・兵士らの小遣いの為に奴隷として再度少年は売られました。
そこから買われて売られて買われて売られてを数年間繰り返しながら、少年はとある奴隷商の元に辿り着きました。
その奴隷商人は結婚をして子供が生まれてから自分の行動に疑問を抱いてました。
人を奴隷として売買するという行為に罪悪感を抱き、自分の行動が悪ではないかと考えはじめてました。
その奴隷商人は今奴隷として売られているうちの半分以上が盗賊によって捕まって売られたり、憲兵や兵士によって無実の罪で捕まえられて売られた人だと理解していました。
だけど自分の生活の為に奴隷商人として奴隷を売り続けました。
罪悪感にかられながら売り続けました。
そんな奴隷商人の罪悪感に気が付いた少年は奴隷商人に話しかけました。
最初は自分が同じ商人の家で冒険者に裏切られて奴隷になったこと、それから地獄のような人生を送ったこと。包み隠さずに奴隷商人に話しました。
そして少年は更に囁きます。
「もしかしたら貴方の子供も僕みたいになってたかもよ」
「もしも成長して自分の父がこのような悪事に手を染めてると分かったら子供はどう思うか?」
「自分が他人の屍の上で今まで生活出来たと知ったら、どう思うか?苦しむんじゃないか?」
と。
ひたすらに言葉を吹き込みました。
最初はその少年の言葉に耳は貸さずに素通りしてたのですが。
近くを通るたびにその言葉を奴隷商人に吹き込んでいきました。
気が付いたら奴隷商人はその少年の言葉に耳を貸していました。
理由は簡単奴隷商人は懺悔をしたかったのです。
自分の行いに罪悪感を持ち苦しめられていた奴隷商人はその奴隷が今まで地獄のような人生を歩んできたからこそ出る言葉を聞くことで自分の行いを悔い改めようとしたのです。
それは完璧なる自己満足のエゴでした。
奴隷の言葉に耳を傾けたからと言って自分が食べていくために解放しようなどとも待遇を良くしようとも思いません。
ただ、自分は奴隷の言葉を聞いている。他の残忍な奴隷商人ではないという勝手に思っていたかっただけなのです。
そして少年は奴隷商人が自分を使って自己満足をしていると気が付きました。
それに気が付いた時少年は驚くほど悪い顔をしていました。
それから少年は無駄な優しさを持った屑もとい奴隷商人を騙すことを決意しました。
騙し方はとても簡単。
貴方が買った奴隷の中に権力争いに負けた貴族のご令嬢が混ざっていて、何かしらの拍子に貴方も巻き込まれて殺されるかもしれないという内容を伝えるでした。
もちろん奴隷は主人に嘘はつけません。
しかしこれは自分が嘘だと思っていなかったら嘘にはならないという大きな欠点がありました。
少年は一人の少女に当たりをつけると、その少女に吹き込みます。
「私がとある貴族に売られて雑用をやらされていた時に貴方に凄く似た人を見たことがあると、もしかしたら貴方は、いえ、貴方様は貴族のご令嬢ではないか」
と
一応少年はとある貴族の下で召使いとして死ぬほどこき使われていたことがあり、またその際に他の貴族を見る機会は何度かありました。
そして、あくまで凄く似ているであり、本人とは断定しませんでした。
しかしそれを聞いた少女はそうじゃないかと思い込んでしまいました。
【虚記憶】というのがあります。
これは存在しない記憶を勝手に生み出すことです。
そしてこの虚記憶というのは精神的に追い詰められていて、自分に都合が良ければよい程生み出しやすいものです。
まるで強いトラウマを綺麗な記憶で覆い隠すように。
だからこそ、奴隷狩りにあい、全てを奪われて精神的にも肉体的にもボロボロだった少女にその言葉は凄く効きました。
自分が実は貴族のご令嬢で、本当は豪華な屋敷で何人ものメイドに世話をされながら悠々自適に生活出来る身分。
ああ。何とそれは甘美なのでしょうか。
そしてその少女は虚記憶を生み出します。
自分が貴族のご令嬢だと勝手に思い込みます。
ここまで行ったら後は少年のターンでした。
いつもの様に奴隷商人に話しかけながら、事の顛末を伝えて、今すぐにこの貴族令嬢を解放しないと、何かしらの拍子に貴方の首が飛ぶぞと脅したのです。
最初は疑っていた奴隷商人も奴隷の首輪を使って少女に問いただしたところ自分が貴族のご令嬢だと言ったのです。とある貴族に陥れられて奴隷になってしまったと言ったのです。
もちろんこれは全部少年の入れ知恵で少女の妄想です。
でも奴隷商人からしてみれば首輪の力は絶対であり、奴隷は主人に嘘を吐くことは出来ないのですからそれは真実だと判断をしました。
そして少年は囁きます。
「私が少女を処理しましょうか」
と。
「私を奴隷の身分から解放してくださるのなら、少女をスラム街に連れて行って処理させます」
と。
奴隷商人は悩みます。
そこに少年は更に追い打ちをかけるようにこう囁きます。
「私を奴隷の身分から解放するということは、貴方は良い奴隷商人であると。他の残酷で冷徹な奴隷商人とは違い奴隷達に解放のチャンスを与える心優しい奴隷商人だ」
と。
奴隷商人は確かにそうだと、自分を正当化させる為にその提案を呑み、二人を解放しました。
そして解放されたら少女を放り出して別の街に向かいました。
少年としてはここで自分のことを貴族と思い込んでいる少女を抱えてもメリットは何一つないので自分一人で行動をするという自分にとって最良の選択を取りました。
その後少年は詐欺師になりました。
今までの地獄の日々から得た経験と知識を活かして様々な人に詐欺を働き気が付いたら10年の月日が流れていました。
この頃には少年ではなく青年となっていました。
青年は強くなっていました。人から奪うために自分が奪われない為に超一流クラスの力を手に入れました。また更に経験と知識を積み詐欺によって巨万の富を築き上げました。
ボロボロでか弱かった少年は今では下手な貴族よりも影響力を持った存在となりました。
今まで自分を見下し、奴隷とした売った憲兵や兵士を殺し。変態貴族相手に詐欺をして破産させ、奴隷商人は逆にこちら側につかせた上で操って更なる不幸を生みました。
そうしていつしから【裏社会の詐欺王】と呼ばれるようになっていた青年はとある結論に辿り着きます。
そうだ「人間なんて滅ぼしてしまおう」
という結論に。
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長くなりそうなので分けることにしました。
何度も言いますが【詐欺の天魔】は完璧に死んでいます。
少しでも面白いと思って頂けるとハートやポイントを入れていただけると嬉しい限りです。
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