第13話・雷鳴の天魔

「というわけでイト、これからどうする?俺は正直言って悩んでるからイトが決めていいよ」


「え?いいんですか?」


「ああ。もちろんさ。それにこういった物を悩み考えて決断するというのは非常に面倒だからね。正直イトに決めてもらった方が凄く楽だ」


「楽ですか。相変わらずグレン様ですね」


「そうだね。相変わらずグレン様だよ。さて、というわけでどうしたらいいと思う?イトが考えて決断しそれが最善手だと思うのならば。何だったいいよ。俺はイトを信用しているからね」


「それは非常に責任重大ですね」


「まあ。そうだね。俺はその責任が面倒だから。背負うのが億劫だからイトに頼んでるわけだが」


「そうですか。・・・・・・じゃあ、暫く一人で考えてもいいですか?」


「いいよ。じゃあその間俺は一人で本でも読んでるよ。決めたら呼んでくれ」


「分かりました」


 そして、俺は部屋から出た後、イトの考える時間を考えて怠惰の能力を使い追加で2時間程兵士達を眠りにつかせてから自分の最初いた部屋に行き、持ってきた本を読み始めた。


 1時間後。


 「グレン様。決断しました」

 そう言ってイトが俺の部屋に入って来る。


 「おお。決めたか。じゃあどういう決断を下したか、どういう方向でいくのか教えてくれ」


 「はい。私が故郷を滅ぼした幻覚の天魔と出会い、その時の怒りと復讐心から天魔として覚醒をして幻覚の天魔を倒したという設定にします。

 そして天魔としてこの国に要求をします。天魔になる前の私をメイドだと侮り我が主であるグレン様を愚弄した兵士や将校、王子がいた。だからそいつらの首を全員私に切らせろと。もしくは一部指定した領土を寄越せと」


 「あ~。なるほどね。考えたね。確かにそれならば我が国の求めてる鉱山も解決できるうえに正当性もある。

 まあ、もちろん普通はグウタラ王子とその専属メイドを罵った程度じゃあ無理だが天魔ってなると話は違うからな。この国は天魔を確保できていないし。多分イトが本気で暴れたら簡単に消える小さな国だしね。でも。帝国軍はどうする?」


「それはもちろん私自信が幻覚の天魔と戦い疲れたというのはありますが。戦った場合はグレン様に面倒をかけてしまいそうなので戦わないで行こうと思います。

 でも帝国兵はどうにかしなければならないので天魔となった私がいるから死にたいものはかかってこいと全力で脅します。多分これで逃げると思われます。帝国軍としても天魔であると私と戦って余計な犠牲は出したくないでしょうしね」


「まあ。確かにそうだな。それじゃあその作戦で行くか」


「はい。そうですね。それで行きますか」


「というわけで全員起こすわ。まあ、後のことはまかせるわ。俺はここで寝てるわ」


「分かりました。グレン様。では後のことは私にお任せを」


「ああ。よろしく頼むよ。というわけでお休み」


 そして俺はそのままゆっくりと眠りについた。


 ――――――――――――――――――

 4時間後

 ――――――――――――――――――


「あ、お目覚めですかグレン様」


 不意に意識が覚醒して目を開けると、いつもの様にイトが俺にそう言って微笑んでくれた。

 微妙に身体は揺れていた。


「ああ。今もしかして馬車に乗って帰ってる?」


「はい。そうでございます。グレン様」


「ということはイトの考えた作戦は上手く行ったということか?」


「いいえ。すみませんグレン様。一つ予想外な展開が起きてしまい。少し当初の作戦とは違う進み方をしました」


「ほう?そうか。一応教えてもらえるか」


「はい。もちろんでございます。まず。グレン様が就寝した後、私は私とグレン様を侮辱した地位の高いクズ共を全員一か所に集めてから威圧を浴びせて強制的に叩き起こしました。そして私が天魔に覚醒したことを告げて、命か領土かの二択を突きつけました。答えはもちろん領土で私に平謝りです。後は帝国軍に行き威圧をして追い返すだけ、そう思ってました」


「あ、まさか天魔でも出てきたか」


「流石グレン様です。よく分かりましたね。その通りなのです。天魔が現れたのです。帝国軍の後方部隊にて一人で優雅にお酒を飲んでいた天魔が。名前は雷鳴の天魔。帝国軍に所属している戦闘型天魔の一人でした」


「わお。なるほどね。雷鳴の天魔がねえ。理由は分からないが。それはビックリだな。でもイトが無事ってことは戦わなかったてことか?」


「はい。戦いませんでした。雷鳴の天魔は「今日は暇つぶしに国でも落そうかなと来たけどそれ以上に面白い新たな天魔の誕生と。俺の何倍もの力を持つ化け物の存在を知れたから満足したわ。じゃあ帰るわ」そうふざけたような口調かつ早口で言うと。身体が雷になり。何処かに飛んでいきました」


「なるほどね。それはまあ。凄い愉快犯だな。まあ。でも雷鳴の天魔が愉快犯という噂は遇に聞くからな。なるほど確かに噂通りというわけか。で?その後どうなった?」


「はい。それは兵士全員が死んでました。それも目立った外傷は特になく。あ、でも強いていうなら首に不自然な焼き痕があったことでしょうか」


「なるほど。ということは。あの愉快犯の雷鳴の天魔が自国の兵士全員の脳の神経を雷で焼いたってことかな?もしくは雷の力で心臓を麻痺させて殺したか、まあどちらにせよ。首の焼き痕あるならば十中八九雷鳴の天魔の仕業だろうな」


「確かにそうですね。私もそう思います」


「まあ。そうだな。そんでイトはそっからどうしたわけ?」


「はい。帝国の兵士が全員死んだので。作戦を変更しなければならない事態となり。どうしようか悩んでいた所。とあることに気が付きました。砦にいる我が軍の兵士も全員死んでないかと?」


「あ。まさか雷の天魔が殺しちゃった?」


「はい。その通りでございます。死んだ兵士を確認した所全員首に焼き痕がありましたから」


「そうか。いやはや。両軍全員皆殺しとはやってることが大胆だね。というかこれ幻覚の天魔と鉢合わせる可能性なくね?というか帝国が幻覚の天魔が来ることを知ってるよな?雇った国の一つなわけだし。そして雷鳴の天魔がいくら愉快犯の自由人とはいえ帝国に所属している。それが、兵士として入り込む?そんなこと帝国上層部の助けがなしに出来るか?あ、いや、待てよ。まさかまさか、あ~なるほどね。理解したわ。やってるね帝国さんも」


「どうしたのですか。何を理解したのですか?」


「ああ。そうだな。ようは簡単に説明すると、帝国は雷鳴の天魔を使って幻覚の天魔を殺そうとしてたんだ」


「え?そうなんですか?」


「ああ。そうだな。幻覚の天魔は多分帝国にとって非常に都合の悪い存在だったんだと思う。まず幻覚の天魔は非常にイカレタ性格をしており面白半分で人を殺すクズだ。そして活動元は帝国付近の村々と聞く、というか幻覚の天魔によって村を滅ぼされた老人の殺意に溢れた本で読んだ」


「そんな本があるんですね?やっぱりあのクズは私の村以外にも・・・本当に殺せてよかったです」


「まあ、そうだな幻覚の天魔は害しかないクソ野郎だったな。これ以上犠牲が増えないと考えると殺せて良かったかもね。でまあ、話戻すがその老人の本曰く、幻覚の天魔は面白半分で帝国の人間を幻覚漬けにして殺していると書かれていた。帝国から怨まれる理由は十分だ」


「確かにそうですね、でも腐っても天魔、それも幻覚を操るとなると始末するのは難しそうですね」


「ああ、そういうことだイト。よく分かってるな。しかも質の悪いことに幻覚の天魔は幻覚を見せるという力を使い帝国の貴族同士の裏の戦いによく利用されているらしい。まあ、報酬は多額だったらしいしけどね。でもまあ天魔という最強の存在を多額の報酬で自由に使えるというのは。それは破格という物だ。そんでそれを幻覚の天魔は喜んで受けていた」


「そんなことをしてたのですか。あ、だから今回も依頼を受けてこの戦争に来たのですか」


「ああ、そういうことだ。普段から依頼を受けてたからこの戦争にもさして疑いもせずに来たんだろうな。それが自分の死を招くとは気が付かず。アホだね。あ。それと多分だけどこの件を仕組んだのは帝国の皇帝だ」


「帝国の皇帝ですか?」


「ああ。そうだ。だって幻覚の天魔が余りにもやり過ぎてるからな。一応流れて来る本を読む限りでは今の帝国の皇帝は戦闘狂で合理的な性格をしているが卑怯な事や麻薬やら暗殺を許さない感じだからな、まあ奴隷とかは合理的だからとオッケーらしいけど。でまあ、そんな皇帝さんにとっては幻覚の天魔は目の上のたん瘤だ。天魔であり帝国のヤバい情報を知りまくってる上に民を虐殺しまくる化け物だかんな」


「それは意地でも殺したくなりますね」


「まあそういうことだ。でも天魔だからそうはいかないし、表立って始末しようとして気が付かれたら逃げられてしまう。だから今回の件を仕組んだ」


「なるほど」


「そして雷の天魔の愉快犯的性格を利用して、表面上はとある国を侵略しようと見せかけて、その実裏ではその侵略国の同盟国と繋がっていて、一石二鳥、いや。多分連れてきた兵士も皆殺しにしてるから我が国と同じように反乱分子だろうからな一石三鳥か。ハハハやるね~。あ、更にまた謎が解けたよ」


「謎が解けたですか?」


「ああ。どうして父上がイトも連れてけなんて発言をしたかだ。いや、何?今回の戦争にイトを連れてくメリットでないんだよな。だってイトは我が国においては非常に素晴らしい剣の技術を持った貴重な戦力なのだから。それなのに仕組まれている勝ち戦とはいえ。死ぬ危険性のある戦争に怠惰王子の護衛で連れてくか?いや。考えにくい。つまり。ようは囮だな」


「囮ですか?」


「ああ。そうだイトの故郷が幻覚の天魔によって滅ぼされているという情報はまあ調べればわかる事だ。そして性格の腐った幻覚の天魔はそういう復讐に燃える存在を蹂躙するのが大好きだ。それも時間をかけて甚振るようにな。だから幻覚の天魔が仕事を終えて帰る前にイトという囮を使って長時間ここに留まらせようとしたわけだ。そんで雷の天魔に殺してもらうと。ハハハ、よく仕組まれてるわ本当に」


「あれ?でも帝国は何で雷鳴の天魔が幻覚の天魔に勝てると思ったのですか?同じ天魔同士ですよね?負ける可能性あるのではないですか?」


「ああ。それはないね。だって雷鳴の天魔みたいな戦闘経験豊富かつ非常に強い精神を持った天魔には幻覚効かないんだもん。天魔は天魔にしか倒せないというけれども、幻覚の天魔のような精神系統の力を持った天魔は余程力の差が大きくない、もしくは効果の低い技だったり相手が未熟だったりしない限り同じ天魔に能力は効かないよ。だって同格なんだから。精神系統は当たれば一撃必殺、相手を意のままに操ったり殺せる力を持つ。そんなものが同格に通じるわけがないだろって話だな」


「なるほど。納得しました」


「それは良かった。それでそっからどうして俺は今馬車に乗ってるんだ。話を聞く限り兵士全員死んでるけど」


「ああ。それがですね。私が領地略奪交渉の為に部屋にぶち込んでいた王子やら将校やらは見つからずに殺されていなかったようで、そいつらに命令して動かしています」


「なるほどね。なるほどね。もしかして、いやもしかしなくてもイト、同盟国の資源を根こそぎ奪う乗っ取り計画を立てたのか。流石だな」


「え?あのうどういうことですか?」


「え?違うの?」


「はい。ただそっちの方が楽かなって」


「あ。マジ。ゴメン。早とちりしてた」


「でも。その同盟国を乗っ取る計画気になります。教えてください」


「ああ。何簡単だよ。今現在同盟国は帝国との国境線上にある砦の兵士が皆殺しにされた状態だ。もしも次、帝国が攻めてきたら一発でデットエンドだ」


「確かにそうですね」


「だから我が国が不平等な条約を結ばせた上で兵士を派遣して帝国から表面上は守ってやるという話だ。

 ようは王子と将校を王城に連れてく、そんで。偉そうに同盟国として雷鳴の天魔から守ったと同盟国の国王に言った上で、イトとの契約を履行させて鉱山資源含む領地を奪った上で。更に今回被害を被ったからと更に鉱山資源・金・人材、まあとにかく更に巻き上げる。巻き上げまくる。

 そんで。色々と巻き上げ終わった後に砦に兵を出してやるから感謝しろ、でもその代わりに金寄越せとかなり不平等な条約を結ばせる。

 でも砦の兵を殺された上に諸々の資源を巻き上げられた状態の同盟国は決して断れない。だって断ったら帝国に国を明け渡すのと同じなのだから。そんで。ある程度。まあ、そうだな3年くらい防衛した上で。裏では帝国と交渉を進める。

 そして時が来たら何かの理由を付けて一時的に兵士の数を減らさせて帝国が侵略。そして、そのまま同盟国を潰す。で、まあ帝国とはずぶずぶに繋がってるから。お隣同士になったら仲良く握手して同盟を結ぶって感じかな?」


「な。なるほど。流石グレン様ですね。でも一つ疑問があります?」


「何だ?」


「いえ。そのう…我が国は鉱山資源と金・人材以外の帝国が求めてやまない領地は要らないのでしょうか?」


「ああ。それね。要らない要らない。だってそんなもの無くても我が国は大きいのだから。それに領地が欲しければ未開拓であり魔物の溢れる魔物の森を開いた方が良いって話だ。というか別に今現在領地少し余ってるくらいやからね。我が国は建国をした山田王の言葉によって一夫多妻とかは導入してないせいで出生率は他の国と比べて低いんだから、まあ、貴族はガンガン一夫多妻だけどね。ハハハ」


「あ~。なるほど。納得しました」


「それは。良かった。じゃあ、まだ城に着くまで時間はありそうだし。俺はもうひと眠りするわ。お休み」


「分かりました。お休みなさい。グレン様」


「ああ。そうだな」


 スピースピー


 そして俺は浅い眠りについた。

 こういう自堕落な浅い眠りが凄く好きです。

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