第12話・国王の策略と敵の敵は味方って話

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 同盟国の執務室に置いてあった資料と敵国である帝国の使っていた砦の執務室にある資料と手紙に一通り目を通した後、俺は大爆笑をして状況を整理するために独り言を呟き始める。


「まあ。そうだよな。そうだよな。それはそうだよなって話だ。これで全てが理解できたよ。兵士たちの態度も何故俺が出てきたのかも、何故天魔が現れたのかも、何故出兵までの準備がそんなに早く出来たのかも」


「そして父上が国王としては優秀で人間としては失格だってことも。ハハハハハ。これが笑わずにいられるかよ。まあでも今の状況ならば父上の望んだ状況に持ってけることは可能だな。ハア。全く持ってやってくれるね。さてとじゃあ今からどうしようか?う~ん。取り敢えずもうそろそろイトが起きるころだしイトに相談してから決めるか」


 ――――――――――――――――――


「お。イト起きたね。調子はどうたい?」


「グレン様。はい。調子はとてもいいです。あのう私どれくらい寝てましたか?」


「まあ。1時間程度さ。因みに幻覚に囚われてた兵士たちには眠って貰っている、もちろん俺の能力でね。あと1時間は目覚まさないと思うよ」


「そうなんですか?え?どうしてそんなことをするのですか?今すぐに兵士達を起こして神器の力でまだ昏睡状態に陥っているであろう敵兵を殺さなければ」


「ああ。いいのいいの。むしろ自分達の国の兵士達を殺した方が我が国の為になる状況だから」


「え?何を言ってるのですかグレン様?」


「ようわね。出来レースって話だ。じゃあ一から、この戦争が起こった発端と。俺の立場。そして今の現状と父上、国王が考えた中々にどす黒い作戦について話してくわ。結構衝撃情報出るけど驚かずに最後まで聞いてくれ」


「はい。分かりました。グレン様」


「オッケー。じゃあ、まず最初に我が国は鉱山資源が豊富な国であり鍛冶の技術がドワーフに匹敵するとまでは言わないが人間の国の中ではずば抜けて高いというのは知っているよな」


「はい。それはもちろん知っています」


「そんで。我が国の鉱山資源が枯れかけているのは知っているか?」


「え?それは知りませんでした」


「まあ。そうだよな国家機密だし。そんで鉱山資源が超絶大切な我が国としては鉱山資源枯れましたってなったら、それはもう恐ろしいレベルの大問題なわけさ。で、まあ、その時にとある国との国境付近でかなり大きな鉱山が見つかった。でも国境付近なんで揉めることは間違いなしだ。仲良く半分こと言うのも考えられたが。我が国としては全部欲しかった」


「あ、それでその国境付近にある国ってのが今いるこの同盟国ってことですか?」


「そういうことだ。イト。だから父上というか国王は考えたんだ。どうすれば独り占めできるかを。でだ、平和的に交渉した。我が国に鉱山資源を譲ってくれその代わりに貴国に同盟国として上質な武器と防具を無償で渡すと」


「結構互いにwinwinな交渉だ。それを向こうさんは蹴った。蹴った上でお前らの鉱山資源が枯渇しかけていることは知っている。だから金を寄越せ、土地も寄越せ。そしたら譲ってやると。ようは弱みに付け込んで不平等な条約を持ち掛けてきた。まあ、もちろん我が国の鉱山資源が枯渇しかけてるっていう国家機密を簡単に探られてバレたこちらにも非があるが、それでも余りにも不平等過ぎるって話だ」


「なるほど、それは中々に酷い話ですね」


「だろ。でだ、またもや国王は二つの選択肢を突きつけられたわけだ。要求を呑むか。戦争か。ただここで大切なのが我が国は腐っても大国であるということだ、人口は1千万と大国の中では少なめだが兵の質や数は十分大国として相応しいレベルで存在する。ようは戦争をしたら余裕で勝てる状況なわけだ。探知の天魔もいるしね」


「でもそうしたら他の国に鉱山資源がないことがバレる可能性大な上に。同盟国と戦争ってのは中々に他の国からの受けが悪い。ついでに我が国は平和主義を歌ってるからな。だから再度交渉をして領地は無しにして貰い。その分多額の金を支払うという形で交渉成立したわけだ」


「なるほど。でもそれは我が国としては非常に面白くないですね。それに今後も何かあった時、問題が起こった時にこちらに無理やり手伝いとか要求できますしね。だって同盟国はやろうと思えば鉱山資源を使わせる為の要求を増やせるのですから」


「流石イトだ。もちろん問題が起こったのさ。同盟国内にて帝国のとある貴族令嬢がお忍び旅行をしていた所、護衛はもちろんいたのだが。とある馬鹿な強欲下半身脳貴族によって無理やり誘拐されて汚された上で殺された。その貴族令嬢の位は高くは無かったが。この事態に帝国は大激怒。これを口実に攻め込んできたという訳だ。要求は失態をした貴族の首。後は同盟国の領土3割だ」


「前者はともかく。後者の領土3割ですか。それは中々にふざけた内容ですね。というか帝国と同盟国は関係的には仲が悪かったはずでは?よく貴族令嬢がお忍びとはいえ来ましたね」


「おお。流石イトだ。そこなんだよな。多分だけどその貴族令嬢は戦争を起こす口実に利用された感じだな。多分だけどやらかした馬鹿貴族にも良い娘が外国から来てますよ的なことを言った帝国の諜報員がいただろうね。まあ帝国は戦争大好きな国だからな。普通に有り得る話だ。でもまあ真相は闇の中だろうけどね」


「なるほど。それは本当に酷いですね」


「まあ。酷いな。でも国ってのはそんなものさ。でまあ、話を戻すがそんで戦争が起こった。同盟国と帝国との戦争がな。で、その戦争がこの戦争なのだが。ここで実は戦争の裏側で帝国と我が国で面白いことが起きていた。ようは裏で繋がっていたのさ」 


「裏で繋がっていた?え?それはどういうことですか?」


「そんな驚くなよイト。ほら良く言うだろ敵の敵は味方ってな。我が国は同盟国と同盟を結ぶ関係ではあるが、鉱山資源を巡って敵となっていると。表面上は仲良くしてるが裏ではクソ嫌ってると。ようは敵であると。そんで我が国と帝国は特に領土も接してないし接点もせいぜい武器防具を販売してるお得意様ってだけだ。ようは良いお客さんって感じだ。さてここまで来たら後は簡単だ」


「自分の嫌ってくる国を良いお客さんもとい多少仲の良い国が攻めた。それはもちろん協力して潰そうってなりますね」 


「そういうことだイト。よく分かってるじゃないか。でも我が国はこの国と同盟を結んでるからそう簡単に裏切れない。そんでもって同盟を結んでいるのだからこの国が帝国によって危機に陥ってる場合は助けなければならない。まあ鉱山資源の件もあるしね」


「あ。だからグレン様と質の悪い兵士を送ったのですね」


「あ、イト、そこ少し間違いだ。質の悪い兵士を送ったんじゃない。我が国の王を嫌い反乱を企てている一派の兵士を向かわせたのだ」


「え?ちょっと待ってください。反乱ってどういうことですか?」


「ああ。何、イトは知らなかったの。第二王子が国に反旗を翻そうとしている事。といっても他の貴族やら大臣共にそそのかされた形だけど。本当に愚者だよね」


「そうだったのですか?え、でもそれって即刻処刑じゃあ」


「ああ。もちろんやろうと思えば処刑に出来るけど、暫く泳がせて反乱分子を全員炙り出した上で一斉に処刑するつもりだから。まあ俺でもそうするね。だってそっちの方が楽だから」


「なるほど。え?でもよくその反乱を企ててる一派の兵士が出兵に従いましたね?」


「それは従うさ。だって彼らからしてみれば自分達が嵌められているとは気が付いていないし、ぱっと見は同盟国に援軍を送るというだけで被害も少なくそれでいて立派な功績を立てられる状況だからな。まあ、蓋を開けたら幻覚の天魔がいて、俺とイトがいて全てぶち壊れたけどな」


「そうですね。あ、ちょっと待ってください。少し気になったのですが。もしかし国王様はグレン様を殺そうとしてませんか?」


「良く分かったね。そうさ。父上は俺を殺そうとしているのさ。理由はまあ、理由付けだろうね」


「理由づけですか?」


「そう理由付けだ。ようは悲劇の王になろうとしたわけさ」


「悲劇の王?あ、なるほど、理解しました。ようは同盟国に出兵したら同盟国の砦の中で自分の息子が死んだ。それも我が国の大切な神器を持った状態で。これは我が国の神器を奪おうとした同盟国の陰謀だ。そう声を上げて同盟国との同盟を破棄、そして攻め込み領土もとい鉱山を奪うと」


「そういうことだ。そんで俺をわざわざ貴重な神器を持たせて派遣したというわけさ」


「なるほど。それは許せませんね。今すぐに国王様、いえ、クズの首を落としてまいります」


「ああ。いいよイト。別に父上は王として最善手を行ったに過ぎないのだから。まあ、人としては褒められないけどね」


「そうですか。グレン様がそうおっしゃるのでしたら。私はこらえましょう」


「うん。こらえてくれ。それにもしこれで父上を殺したらその後が面倒だしね」


「確かにそうですね。すみません。私の配慮が足りませんでした」


「いや。いいよ。イトの気持ちは嬉しいよ」


「あ、でもなあ。今の話、もしも父上が俺の力を気が付いていたら話が変わって来るんだよな」


「え?それはどういうことですか?」


「いや。俺って昔は神童の中の神童って呼ばれてた時期があるくらいには強さを隠していなかった時期があったんだよ。まあ俺の友人の【認知の天魔】に頼んでその時に認知していた俺の強い姿は存在しないこととしたのだが」


「そんでもって俺は怠惰でグウタラですと認知的に感じるようにもして貰ったんだけど。記憶までは消せていない。もし、何かしらの拍子でその事に気が付いたならば俺の異常な強さに気が付く可能性は充分にある」


「その上でもし俺がその時以上の力を持っていたらを想定した場合は俺が天魔だという結論に至るのは簡単だと思う。そして本当に俺が天魔であるか見極めるためにこの戦争に送り込んだ」


「だってこの戦争には幻覚の天魔という性格クズの天魔がいるのだから、確実に俺を殺そうとするだろうから、そしてもし本当に天魔であれば俺は幻覚の天魔を絶対に殺すだろう。そうなれば俺が天魔であるという証明となる。もちろん幻覚の天魔を動かした何て事実を知るのは父上と極一部の人間、後は帝国軍上層部くらいだと思うけどね」


「なるほど。でも待ってください、もし仮に国王様がグレン様が天魔だと分かった場合、反旗を翻らせられるとは思わないんですか。国王様はグレン様に対して今まで無干渉、無関心を貫き通し、そしてグレン様の母上を捨てた人なのですから」


「あ~ね。まあ、ぶっちゃけた話。普通の人であれば反旗を翻す可能性はあるだろうな。ただあいにく俺は【怠惰の天魔】だ。無関心で無干渉で部屋と小遣いをくれるこの環境を非常に気に入っている」


「お母さんを捨てた件だって別に父上が悪いわけじゃない。悪いのはそれを実行したクソ貴族と暗殺者共だ。まあ全員死ぬほど辛い目に合わせた上で殺したから。気にしてもしょうがない。面倒だしね。いやまあ殺意の感情を怠惰の権能で限りなくゼロにさせてはいるけどね。まあこれを父上が知ってるかは分からないけどね、まあそこら辺は面倒だし追及はせんよ」


「そうだったのですか。え?ということはグレン様は国王様の味方というわけですか?」


「いや。味方ってわかじゃないよ。あくまで利害が一致しているだけ。父上が俺を裏切って俺の怠惰でグウタラな生活を邪魔し始めたら。俺は速攻で反旗を翻す。逆にそれをしない限りは味方でいるよ。腐っても俺の父親だしね」


「なるほど」


「といっても。今のはあくまで父上が俺の力に気が付いていたらばの話。可能性の話だ。もしかしたら真実は最初に述べた生贄コースかもしれない。まあ、どっちにしたって俺が怠惰でグウタラな生活を送ることには変わりないけどな」


「フフフ。相変わらずグレン様ですね」


「まあ。そうだな相変わらずグレン様だよ。だからまあ、ある意味ではイトを天魔にするという選択肢は100点満点だったかもな」


「あ~。確かに私が天魔に覚醒して幻覚の天魔を殺したというのは紛れもない真実ですし。国王様としてもグレン様が天魔かどうかは分からない上にグレン様陣営に天魔という超特大戦力が付くこととなりますからね。余計な手出しは出来なくなるでしょうね」


「まあ。そういうことだ。いやはやイトが天魔になってくれて本当に良かったよ」


「ありがとうございます。といってもグレン様のおかげで天魔になれたような物ですけどね」


「まあ。そうだね。でも元々イトが強かったから天魔になれたんだよ。そこは誇ってくれ」


「そう言ってくれると嬉しいです」


「というわけで、まあ、何だずっと一緒にいような」

 俺は何か少し恥ずかしがりながらもそう言った。


「フフフ。それはもちろんですよグレン様。ずっとずっとグレン様と一緒にいますよ。だって私がいなくなったら誰がグレン様のお世話をするんですか」

 そう言って嬉しそうに笑ったイトの笑顔は今日一番輝いていた。

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