第11話・天魔殺し

「おやおや、私の幻覚を見てない人がいるとは驚きですね」


 という訳で戦うことを決めた俺達は天魔を殺すために暫く砦を歩いていたら目の前に初老くらいの男が現れる。


 恰好は白いシルクハットにタキシード、右手には無駄に豪華な杖を持っているという、まるで自分が紳士だと表現しているような感じだった。

 まあ戦場もとい砦内でこんな格好をする兵士がいるわけがない。とどのつまりこの惨劇を引き起こした天魔だ。

 大体幻覚を見ずに動いてるしな。その時点で天魔確定だよ。


「お前がこの惨劇を引き起こした天魔か?」

 一応念の為に俺はそう問いかけてみる。


「はい。そうですよ。私は幻覚の天魔にして帝国に雇われました者でございます」

 そう言って丁寧に帽子を取って一礼をしてくる。

 うん。本当に紳士気取ってて気持ちが悪い奴だな。


 でも。どうやらこいつは天魔としては未熟のようだな。だって俺の力に気が付いていないのだから。といっても、俺の持つ別の能力で力を隠してるから気付けっていう方が無理な話やけどね。


「幻覚の天魔だと。お前がお前がお前が私の家族を殺したクズか~~~~~~~~」


 いきなりイトが血相を変えて剣を振りかざしながら幻覚の天魔に襲いかかった。


 あ~。そういえば昔イトから自分が小さい頃に住んでいた村をとある天魔に滅ぼされたって話を聞かされたな。そいつがコイツだったのか。

 それはまた何ともまあ、運命の悪戯って奴ですな。世間は意外と狭いね。それとも神の悪戯か?

 ハハハ。本当に神はいるから意外と神の悪戯ってのは当たってるかもね。


「ふむ。そんな感情むき出して幻覚の天魔たる。私に襲いかかるとは愚かですな。憤怒の幻覚・怒り狂って絶望し自ら死を望め」


 あ、ヤベエな。多分この幻覚今のイトには引っかかりそうやな。

 いくら天魔とはいえ怒り狂った精神の不安定な状態で同じ天魔から精神系統攻撃喰らったらかかるからな。

 そんで喰らって自殺エンド。流石にそれは避けたい。イトは俺の大切な専属メイドであり俺の怠惰でグウタラな生活にはなくてはならない存在だからな。


 本当はイトに任せたかったけど、しょうがない手を貸しますか。


「幻覚よ消滅しろ」

 俺がそう言葉を発しただけでイトに放たれた幻覚の力が簡単にあっけなく消滅する。


「え?私の幻覚が消滅した、だと。グハ」

 俺が幻覚を消滅させたことに驚いてる間にイトの剣が天魔の腹を突き刺す。


 そっから斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。

 イトが怒りに狂った様子で幻覚の天魔の身体を切り裂き続ける。いやはや普通の人間なら確実に即死だな。まあ天魔はそう簡単に死なないけどね。


「恩師の幻覚・私は貴方の恩師である」


「幻覚よ消滅しろ」

 幻覚の天魔が幻覚をしようとしたから速攻で消滅させる。


 いや~ね。本当はそこまで手を貸すつもりはなかったけど。幻覚系統は今のイトだと簡単に引っかかるし。一度引っかかったら解除が少し面倒だしね。

 変にここで俺が手を貸さなくてイトが死んだりしたら。原因となった帝国を一人で滅ぼす自信があるからな。


「イト。幻覚効果は俺が全部消滅させてやる。ドンドン攻撃してけ」

 聞こえてるかは分からないがそうイトに伝えておく。


「ありがとうございます。グレン様」

 返事が返って来た。

 どうやら聞こえてたようだな。うん復讐心で心一杯だと思ってたけどわりかしそうでもないみたいだな。少し安心安心っと。


「お前ら。ふざけるな。私は幻覚の天魔だ。お前らみたいな。ただのただのただの人間に負けるわけがない。死ね・死の幻覚・逃れられない死」


「幻覚よ消滅しろ」

 当たり前だけど幻覚は簡単に消滅する。


「おいおい。幻覚の天魔さんよう。俺とイトがただの人間なわけがないじゃん。天魔だよ。俺もイトも天魔であり、俺に至ってはお前の100倍強い存在だよ」

 100倍は少し盛ったが、まあでも圧倒的格上というのは事実だ。


「天魔だと。何を言ってるんだ。天魔はこの世界の100もいない最強の存在であり。選ばれた存在だ。それがこんな小さな戦争如きに二人も現れる筈がない」


 まあ、ごもっともだ。だって天魔は一人で国一つ落とせる存在であり。万の兵。いや十万、下手したら百万という兵よりも強い存在なのだから。

 つかイトに身体中斬られまくってるのによく喋れるな。知らんけど。


「あ。イトお前魔力使ってるか?俺もすっかり忘れてたけど天魔は基本的にはかなり高い再生能力持ってるから魔力とか使って再生出来ないように。もしくは再生を遅らせないと倒せないよ」


「あ。そうだったんですね。ではそうします」


 イトがそう言うと共に剣に魔力が集まり黄金に輝き始める。


 おお、可視化する程の魔力って天魔になってかなり魔力が増えているとはいえ、相当な量だぞ。これはイト自分の持つほぼ全ての魔力を突っ込んでるな。


「おい待て待て待て待て。何という膨大な魔力なんだ。やめろ。それは不味い。死ぬ死ぬ本当に死んでしまう」

 幻覚の天魔が慌てふためき見っともなく逃げ出そうとする。


「逃げるという気力よ。怠惰となれ」

 俺の怠惰の力で逃げようとしていたのが一変、急に地面に座り込む。


「さて。じゃあイトやっちゃって」


「ありがとうございます。グレン様。では幻覚の天魔よ。これは私の村に現れて幻覚を振りまき皆を混乱させて殺しあわせた罰だ。死ね」

 そう言ってイトが莫大な魔力を纏わせた剣を振りかざす。


「やめろやめろやめろ。俺はまだ死にたくない。生きたい。謝ってやる。俺が間違っていた。だから助けろ、いや助けてください。貴方様の部下にでもなんでもなりますから。だから私をt」


「一閃」


 イトの攻撃は音を捨て去り、幻覚の天魔の身体を脳天から真っ二つに切り裂いた。


 メリメリメリメリ


 幻覚の天魔の身体はそのまま二つに裂けて床に落ち床を血で濡らす。


 そして幻覚の天魔は死んだ。


「グレン様すみません。急に力が」

 イトがそう言って立ち眩みを起こして倒れかける。俺は神器を放置して両手でキャッチする。


「まあ。あれだけの魔力を使ったんだ無理もない。後は俺がどうにかするかゆっくり寝てくれ」


「ありがとうございます。グレン様」

 そうしてイトは眠りについた。といってもただの魔力切れだし1時間程で目を覚ますだろうけどね。


「さてと。じゃあ俺は少し調べたいことがあるし。幻覚の天魔死んだことで幻覚から兵士たちが目を覚ます前に俺の能力で眠らせますか。怠惰の権能発動・ここにいる皆よ。2時間程怠惰となりて惰眠をむさぶれ」


 俺は怠惰の権能を使い全員を眠らさる。

 敵も味方も関係なく全員眠らせる。


 これで今この場で活動できるのは俺だけとなった。

 さて、じゃあ後はイトをベットに運んで俺の疑問を解決させますか。まあ、あくまで多少気になる程度の疑問ではあるが、それでもそういうモヤモヤがあると気持ちよく寝れないのでな。

 少し面倒だが、まあしょうがない。

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