第10話・天魔覚醒

「グレン様起きてください。目的地までたどり着きましたよ」


 イトにそうゆすられて起こされた後、手に神器を握らされる。


 眠たい目を擦りつつ辺りを見渡すとそこは思いっ切り敵陣営のど真ん中であった。もちろん俺の怠惰の力のおかげで一切認識はされていない。


 うん我ながら凄い力だな。


「どうやらそうみたいだね。ありがとう起こしてくれて。ほんじゃあ、サクッと神器を使って仕事をこなしますか。神器発動・【強制昏睡】」


 俺がそう唱えた瞬間に神器から淡い青色の光が放たれると。波紋を描くように広がっていき。それに触れた者から順番に昏睡状態になっていく。


 そしてそれは俺の想像以上に広がり。半径数キロと言わず。半径数十キロ、いや100キロを超える範囲まで広がった。それこそ今回の戦争をしている場所のほぼ全ての範囲を包み込み昏睡状態に陥らせたということだ。


「なあ。イト思った以上に効果範囲広かったわ。これ俺普通に同盟国の砦の中でベットに潜ってぬくぬくしながら使っても敵兵のほとんど昏睡状態に出来たんじゃないか?」


「奇遇ですねグレン様。私もそう思ってた所です」


「それじゃあイト。戻るか」


「そうですね。戻りますか」 


 そうして俺は仕事を終えたという充足感に浸りながらイトにおんぶされた状態で同盟国の砦に戻るのだった。


 ――――――――――――――――――


 そうしてイトにおんぶされながら周りを見てて気が付く、あれ?俺らの軍来てなくね?と。


 という訳でいつまでたっても味方兵士たちが昏睡状態の帝国軍を殺しに来ないのでイトに走ってもらい少し急いで様子を見に戻ってみると。


 そこには兵士たちが皆、気が狂ったように笑ったり走り回ったり蹲ってたり、恐怖に怯えていたりで、何かしらの幻覚状態にかかってるという地獄絵図が広がっていた。


 もちろん砦の中の人が無事であると願いたいのだが、【万能の天魔】の力で軽く中の様子を確認してみるが皆、何かに怯えるように蹲り縮こまっていた。

 まあ十中八九砦の中の人も幻覚にかかってるだろうな。


 こんなことが出来るのは天魔しかいないわな。ワンチャン神器の可能性もあるけど。集団幻覚を見せる神器は確か聖教国が保有してたからな。流石に聖教国の関与はあり得ない。


 まあ、つまるところほぼ100%幻覚を見せる系統の力を持った天魔がいるということだ。


 ハア。もう最悪だ。何でこんなそこまで大きくない戦争に天魔が来るんだよ。まあ俺が言えた義理じゃないけど。

 しかも天魔砦の中にいる気がするな。あ、探知能力で一人だけ無事に歩いている人いたよ。確実にこいつが天魔じゃん。


 ハア。もう嫌だお家に帰りたい。面倒くさ過ぎる。


「グレン様。どうやら敵軍に天魔がいましたようですね」


「そうだね。うん。これはやってるね。もう最悪だ。本当に面倒くさい」 


「そうですね。まさか我が国の軍隊のほとんどが謎の幻覚状態に陥らされて再起不能にされ、同盟国の兵士達もほぼ全員幻覚状態にされて。砦からも明らかにまともな人の気配がしないという詰みに近い状態になっていますからね」


「そうだな。うん。まじで絶望的な状況だな。ハア。面倒だ。実に面倒だ」


「取り敢えずどうしましょうかグレン様。一応選択肢としては逃げるか。戦うかの二択ですけど」


「そうなんだよな。でも逃げるってなったら後々責任問題で大変そうだし。同盟国完璧に潰れるだろうし。戦うってなったら多分勝てるだろうけど。俺の力がバレるから面倒そうだし。嫌だし。あ、いや待てよ。良いこと思いついたよイト。お前が戦えばいい」


「ちょっと何を言ってるのですかグレン様。私は確かに普通の兵士よりは強いですけど天魔に勝てる程強くないですよ」


「いや。大丈夫だ。今からイトを強くする。というわけでイト俺の為に命はもとより全身の細胞に血の一滴、魂まで賭けて忠誠を誓えるか?」


「もちろん誓えますよ。あの日グレン様に命を助けて下さった日より私はグレン様に絶対的な忠誠を誓ってますから」


 イトは俺の問いに一切考えることな即答した。俺の万能の力を使っての嘘判定でも真実と出た。


「そうか。じゃあ遠慮なく」

 俺はそう言って、イトにおんぶされた状態から脱出してイトの前を向き少し背伸びをしてイトにキスをする。


「ちょっとグレン様いきなり何をするんですか」


 イトが顔を真っ赤にして俺にそう抗議してくる。うん。思った以上に可愛らしいな。まあ俺の倍以上年いってるんだが。

 面倒だし気にした事はないけど。恋に年の差は関係ない、ならぬ天魔に年の差は関係ないってな。天魔は基本的に年を取らない奴がほとんどだからな。


「いや。何?これでイトは俺の第一の眷族となったよ。効果は全能力の大幅な向上と肉体が最も美しく力を持った状態での固定化。ようは不老化。そして現在持っている最も優れた技能ようは剣術の大幅強化に全ての状態異常の無効化。後は不眠不休の力が付与されたはずだ」


「まあ、ぶっちゃけ初めて眷族化したから多分俺の知識的にそうだろうって感じで確信は持てない。もしかしたら他にも隠れた能力があるかもしれないが。まあそこら辺は自分で調べてくれ。というわけでイトこれでお前は天魔だ。おめでとう」


 天魔と聞き、イトがポカンとした顔をする。まあそりゃそうだよな。だって天魔だもんな。この世界に100といない最強の存在だもんな。


「私が天魔ですか?」


 まあ、聞き返すよな。でも安心しろイトは絶対に天魔となった。だって条件を満たしているのだから。


「そうだ。天魔だ。天魔と定義される為の4つの条件。一つ目は人の枠を超えた身体能力を持っていること。二つ目は人の枠を超えた技能もしくは特殊能力を持っていること。三つ目は人間の作り出した毒物等が効かない状態異常無効の力、もしくはそれに準ずる力を持っていること。四つ目は人の身を超えた寿命もしくは、不老者であること」


「以上この4つの力を保有している者を天という人の身には届かぬ場所に存在する魔の存在ようは天魔と定義する。これが天魔連盟の決めた天魔の条件だ。イトはそれに当てはまっているだろ」


「そうですね。その通りですね。え?ということは私は天魔に至ったのですか」


 俺にそう言われて。冷静に今の自分の力を考えて。自分が天魔だと再認識するイト。


「ああ。そうだよ。世界で100人もいない。天魔になったんだよ。今のイトならば一人でこの戦場の敵を全て殺戮出来る。それだけの存在さ。まあ今暴れている天魔に勝てるかどうかは分からないけど。でもその戦いの時は俺が手を貸すし大丈夫だ。というわけでイト行くか」


「はい。グレン様」


 そうして俺とイトはこの惨状を引き起こした天魔を倒しに砦の中に入って行くのだった。

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