第14話・天魔>国王

 というわけで今現在イトが父上もとい国王に剣を振りかざして殺そうとしています。


 うん。王子のメイドが国王を殺そうとするって凄いな。それも普通にこのままいけば成功する状況っていうね。


 まあ、でも、イトは天魔だからな。正味地位という点で言えば父上と同格かそれ以上なんだよな。所詮父上はギリギリ大国に手が届いる国の結構優秀な王に過ぎないのだから。


 因みに何でイトが父上を殺そうとするという状況になってるかというと。まあ、時は城に着いた1時間程前に遡る。


 まず。馬車に乗って城に戻った俺とイトに同盟国のお偉いさん方。まあビックリされたね。それはそうだって話だよな。戦争行くって朝から出てきてその12日後に帰って来たんだから。


 うん。普通に一か月以上とかかかってもおかしくないからな。

 それはまあ、何があったんだって話だろうな。


 で、父上もとい国王とその他大臣さんやら将軍さんやら交えてイトが事情を説明したわけだ。もちろん俺はその場にいたよ。一応当事者だからな。


 ただそのまんま告げたら100アウトなので、内容はイトが幻覚の天魔という復讐相手と対峙したことで天魔に覚醒し幻覚の天魔を倒したこと。突如現れた謎の天魔が砦の兵士と帝国軍の兵士を皆殺しにしたこと。何とか少数だけ守ることが出来たって感じで話をした。


 流石に口頭で天魔に覚醒したと言っても信じられないので我が国の王直属の精鋭に天魔としての圧倒的格上の覇気を浴びせて気絶させたりしたのだが。まあそれは割愛しよう。


 でまあ、そんなわけで天魔に覚醒したことを周りに周知させたイトに対して超絶失言をした大臣がいたわけだ。


 ようは天魔になったイトに対して堂々と。


「これで我が国が戦闘型天魔を自由に使えるようになりました。これならば他国に侵略や不平等な条約等様々な事が出来ますぞ。早速、戦闘型天魔を怠惰な無能王子の専属メイドから外して王直属の部隊に加えましょう」

 ってな。


 うん。馬鹿だよな。イトの名前も使わずにまるで物を扱うように戦闘型天魔と言った点。俺の専属メイドから外すと言った点。イトが我が国に絶対的な忠誠を捧げてるという前提で話してる点。

 マジでどれを取っても馬鹿だ。ゼロ点だ。


 だって。今現在イトはたった一人でこの場にいる人間を全員皆殺しに出来る力を持った天魔なんだから。そんで例え皆殺しにしても一人簡単に逃げることが出来るんだから。


 そしてその無能大臣の発言に何人かの正常な判断の出来る大臣と国王の顔が青ざめるわけだ。それはそうだってな。

 そんで国王は慌てて一言。


「イト殿。我が国の大臣が申し訳ないことをした。この無能は今すぐに大臣としての身分を剥奪する。どうか許して下さい」

 そう言って頭を下げた。


 まあ。かなり良い判断な。

 我が父上ながらすぐにこうして息子のメイドという部下に対して頭を下げれるのは中々に凄いと思う。

 そう考えると国王としては優秀なんだよな。人間としては微妙だけど。


「分かりました。許しましょう」


「ありがとうございます」


 そうしてもう一度深々と頭を下げる国王。


 で、それを見た空気を読める大臣が一斉に頭を下げて。失言をした大臣は王直属の精鋭騎士達に引っ張られて何処かに消えた。


「イト殿は我が国に留まってくれるのでしょうか?もちろん留まってくれるのでしたら我が国と致しましては最大限の待遇を取らせていただきます」


 国王がイトにそう言って下手に出る。まあ。それはそうだよな。だってイトは天魔なんだから。


「そうですね。私が望むものはただ一つです」


「ただ一つですか?」


「はい。そうです。なんだか分かりますか?当てたらこの国の為に天魔としての力を振るってあげますよ」

 何か面白がって質問をしだすイト。うん。まあ多分俺の専属メイドであることとか言うんだろうな。でもこれ絶対分からないだろ。 


「えっと。そうですね。何でしょうか?」

 流石に分からず汗をにじまる国王。まあ分からないよな。


「じゃあ。大臣が答えても良いですよ」

 そうイトが面白半分でいった時だった。

 これまた別の大臣が失言をした。


「もしかして怠惰王子の首とかでしょうか?」


 パシュン


 その瞬間愚かな発言をした大臣の首にイトの剣が高速で向かった。

 その速さは確実に音を超えていた。うん。俺でなきゃ見逃しちゃよ。


 流石にこれで大臣が死んだら面倒なので。主として眷族であるイトに対して強制命令を下して首の皮に当たる寸前で剣を止めた。


「イト。流石に殺すのは良くないよ」


「申し訳ございません。グレン様」


 そう言って俺に膝をついて謝るイト。うん。一応職業的に言えば今の状況は失態を犯したメイドが主である王子に謝罪をしているという至極真っ当な様子なのだが。それが一国の王と同等以上の力を持った天魔が怠惰王子に頭を下げてるってなると、それはまあ異常な光景だな。


「何故イト殿が怠惰王子に頭を下げてるのですか。イト殿は天魔であらせられるのだからそんなことはしなくても大丈夫ですよ」

 財務大臣が余りにも理解に苦しむ様子を見てそう苦言を呈す。


 ただ間違いなんだよな。それ。


「何を言うのですか。メイドである私が主であるグレン様に頭を下げるのは至極当然の行為ですよ。あ、それと。私が望むものを伝えますね。それは現状維持です。我が主であるグレン様の専属メイドで居続けるこれが私のただ一つの望みです」

 そう堂々と言いきるイト。


 周りは狐にでも騙されてんのか。夢でも見てるのかって感じでポカンとなる。それはそうだな。

 天魔が望んで怠惰王子の世話をしたがるのだから。


 ただ何となく父上だけが何処か納得したような表情を浮かべていた。

 流石父上多分薄々予想してたんだろうなイトが俺に忠誠を誓っていると。


「分かりました。では今までイト殿にお渡ししていた給与を100倍まで上げさせてください。また何か必要な物がございましたら何なりとお申し付けください。そして専属メイドをもし何かの拍子に辞めて別の仕事を希望するのであればいつでもおっしゃって下さい」


 流石有能な父上は王として今の一瞬で最善手を考えてイトの希望を叶えつつ待遇を良くしイトが不愉快にならない範囲で他の職業を勧めた。うん。流石やわ。よく今の一瞬でこの最善手を導き出したな。


「分かりました。ではそれでいいですよ。あ、それと、国王様。今この場にいる大臣に騎士たちを全員外に出してくれますか。私とグレン様と国王様の三人で話したいことがあります」


「分かりました。皆の者出るがいい。そして儂が部屋を出て良いというまで絶対にここに近づくな盗聴しようなどとも絶対に考えるなよ。分かったな」


 流石国王と言うべきか。国を背負う者としての王の覇気で周りを威圧する。その効果は抜群で皆何処か慌てるように部屋を退出する。


「さてと。国王様。国王様が行った今回の戦争について私は全て知っております」


「そうか。知られてしまったか。誠にすまなかった。イト殿。お主を幻覚の天魔の足止めに使おうなどという愚かな行為を行ってしまう。どうかこの通りじゃ。そして。せめて私の腕一本で許してくれはせぬか。まだ息子達が育ち切ってはおらぬ。後3年私が国王を務めなければならないのだ」

 そういって土下座をする父上。


 イトの今の年齢は分からないけど確実に父上よりも10以上は低いと思うぞ。プライドはないのかと言いたいが。まあ相手は天魔だし。しょうがない。むしろここはよく外見的に見れば自分の娘くらいの女性に国の為に土下座したことを褒めたたえるべきだ。


「いえ。別にその事に関しては怒ってませんよ。私が怒っているのはグレン様を捨て駒みたいな扱いをしたことです。さあ、その罪死んで償って下さい」

 で、まあそう言って剣を抜いてイトが父上を殺そうとするという状況になったわけだ。


 うん。イトそんな俺の為の怒らなくてもいいのに。それと。一応その殺そうとしてるけど俺の父親だぞ?せめて俺に何か言えよ。

 まあ、止めるけど。


「イト。やめろ。俺は別に一切気にしていない。父上は国王として正しい選択を取ったに過ぎない。だから今すぐその剣を収めろ」


「グレン様がそう言うのでしたら。分かりました」


「さてと。父上今から交渉を開始しましょうか。メチャクチャに不平等な交渉をね」

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