第48話・天魔に至れなかったという話
「あのう。そんな悩むなんて。まさかイーディアの呪い解けてないのですか?」
俺がずっとイーディアちゃんの手を握りながら考え事をしてたもんで。カゲウスが不安そうに俺に聞いてくる。
「あ。いや。大丈夫だよ。ちょっと気になることがあっただけ。イーディアちゃんにかかっていた呪いは完璧に解呪出来たよ」
俺のその言葉を聞いた瞬間に泣き出しながらイーディアちゃんに抱き着くカゲウス。
うん。感動の再会なのだが。ふと思う。これイーディアちゃんからしたらいきなり知らない人に抱き着かれるという地獄みたいな状況じゃない?
「ああ。良かったよ。良かったよ。本当に良かった」
そうむせび泣きながらイーディアちゃんに更に抱き着くカゲウス。うん。絵ずらがヤバいな。
「えっと。もしかしてお兄様ですか?」
イーディアちゃんから出てきた言葉はまさかのお兄様だった。
いやはやビックリ。まさかの分かるとはな。
「ああ。そうだよう。お兄様だよ。カゲウスだよ。本当に本当に良かった。またこうしてイーディアが喋るだなんて」
「どうしたんですかお兄様。そんなに泣いて。ホラ、あんまり泣いてるとお父様に怒られますよ」
そう言って泣いているカゲウスの背中をさするイーディアちゃん。
なんというか10歳の少女の背中に母を見たんだが。
「すまない。イーディア。驚かずに聞いてくれ。イーディアは12年間呪いをかけられて眠っていたんだ。今はイーディアの知っている世界の12年後だ。そして両親はもう既に亡くなっている」
カゲウスが覚悟を決めた感じで、申し訳なさそうに。辛そうにそう声を絞り出した。まあ気持ちは分かるは。言いにくいよな。
「やっぱりそうでしたか」
思った以上にあっさりとした答えを返すイーディアちゃん。
うん。メンタル強すぎんか?
流石異世界からの転生者というべきか。なんというか。多分両親に対する情が薄い気がするな。
「やっぱりそうでしたか?え?どういうことだイーディア、この事態もいつもの様に予想してたのか?」
カゲウスがなんか気になる発言をする。
いつもの様に予想をしていた?え?もしかしてイーディアちゃん未来予知能力とか持ってる感じ?だとしたらかなり凄くないか?
「はい。そうですわ。私の持つ能力【未来予知】でこの未来への可能性が見えていましたわ」
マジかよ。凄いな。でも見えているのなら兄の為に私は呪いにかかってますくらい書いてあげろよ。もしくは伝えてあげろよ。そしたらこんな面倒なことになってないぞ。多分。知らんけど。
「そ、そうだったの。じゃあ何故教えてくれなかったんな。教えてくれればもっと早くお前を救えたのに」
イーディアちゃんを責めるというよりも自分の弱さ。呪いだと気が付けなかった間抜けさを呪うように恨むように悲しい声を出すカゲウス。
「それは。伝えたら私とお兄様が絶対に死ぬという未来が見えたからだわ」
そう堂々と言い切るイーディアちゃん。
その言葉を聞いて俺は何となくだが理解した。
確かにその通りだと。だって落ち着いて考えれば天魔レベルの存在がかけた呪いを普通の人が解呪出来るわけがない。
それこそ同じ天魔か。治癒に特化した英雄か。解呪に特化した神器でもない限り。
そんで今はカゲウスの運が良くて俺に出会い結果的には解呪出来たが。カゲウスがそんなに強くないときにそんなレベルの高くない聖職者連れてきて解呪させようとしたら中途半端に解呪しようとしたときに起こる呪いの暴発が起きただろうからな。
そうなったらば同じ呪いを少しランクは下がるものの周囲にまき散らすからな。
うん。普通にデッドエンドだな。
「そうだったのか。納得したよ。でも本当にイーディアが無事で良かった」
凄く納得した表情を浮かべるカゲウス。あ、多分カゲウスも俺と全く同じ結論にたどり着いた感じかな。
「あ。あのう。私を助けて下さりありがとうございました」
イーディアちゃんがそう言っていきなり俺に頭を下げてくる。
お。どうやら俺が解呪したと理解してるんだな。
「どういたしまして。まあ何だ報酬としてカゲウスが俺の眷属になってくれるという約束の元解呪をしたわけだ。別にかしこまるとかはせんでいいよ。面倒だし」
「眷属ですか。なるほど。お兄様最高の結果を得られましたね。えっと」
そう言ってカゲウスの方を見るとにっこりと笑うと、何かに詰まるイーディアちゃん。そして気が付く。俺がまだ自分の名前を言ってないということに。
「俺はグレンだ。普通にグレンって呼んでくれて構わないぞ」
「ありがとうございます。ではグレン様。改めまして兄をよろしくお願いします」
俺に深々と頭を下げるイーディアちゃん。うん。10歳に到底見えないな。
あ。いや違う。この娘異世界からの転生者やったな。
そう考えるとこの対応もある意味では納得だな。まあでもイーディアちゃんの正体についての詮索がやめておくか。面倒だしな。
絶対に知らない方が楽に過ごせる気がする。明らかに地雷やん。異世界からの転生者とか特大の地雷なんよ。
「さて。じゃあカゲウス約束通り、お前の妹は治した。さあ。俺に忠誠を誓えるか?」
俺はカゲウスの方を向き目をマジマジと見つめながらそう問いた。
「はい。誓えます」
俺に跪ずき。首を垂れるカゲウス。
さっき俺に言われて諸々の
能力を解除したまんまだったので。魔法を使い真実かどうか確認してみる。
しっかりと真実であった。
これならば大丈夫だな。
「じゃあ手を出せ」
「は。はい」
俺に言われたまま手を出すカゲウス。
「薄皮消滅」
カゲウスの手に俺の血を数滴垂らす。
「じゃあこれを舐めろ。そしたら晴れてお前は俺の眷属だ」
・・・・・・・・・
一瞬カゲウスが戸惑ったが。すぐに覚悟を決めて俺の血を舐める。
そしてその瞬間にカゲウスは俺の眷属となり。天魔に至らなかった。
敢えてもう一度言うおう。
カゲウスは天魔に至らなかった。
準英雄クラスの実力と様々な神器と道具を使うことにより天魔に匹敵するほどの力を持った存在であるにも関わらず、天魔に至らなかったのだ。
それは俺に衝撃を与える物であり。今までの常識を覆すものだった。
「まあ。いっか。別に天魔じゃないけど。実力は天魔レベルだし。能力だけ見れば身体能力に魔力量は格段に増えて英雄クラスまで言ってるんだ。うん問題なし」
俺は一人そう呟き一人で納得をした。
ぶっちゃけ何故カゲウスが天魔にならなかったのかを考えるのは面倒だったからな。すぐに分かるのであれば調べてもいいか。普通に時間かかりそうだし。言い換えれば時間さえあれば分かるけど。面倒だな。
「あのう。第五王子様、もしかしたら私。何でカゲウスさんが天魔に覚醒をしなかったのか分かったかもしれません」
ずっと会話に参戦せずに俺の隣で待機していたカレーヌがそう言って手を挙げた。
いや。マジですか?
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