第68話・【嫉妬の天魔】

「ハア。何だが無駄に重い空気になったな。まあ、死んでしまったものはしょうがない。元々殺される原因は大量にある人だったしな。どうせ。今回のも付き合ってた男性が仲良くしてた女性を殺そうとして、それを修羅に見られて殺されたとかそんな感じだろ?」


「よく分かってるでござるね。その通りでござる」


「ハア。そうか。まあレビアラ先生の本が読めなくなるのは非常に残念ではあるが。まあ連載物は書かれてないし。割り切るしかないか」


 一応俺の中に復讐をしたいという思いはある。

 あるのだがしかし、その場合に起こる面倒事を考えれば。そんな馬鹿なことは出来ない。

 少なくとも修羅という化け物と戦うとなったらばどれだけ戦いが長引くかも分からないし、俺が大怪我を負う可能性だってあるのだからな。


「某もそれがいいと思うでござるよ」

 真希もどうやら俺と同じ意見の様だ。


「それで?その悪女の娘ってのはどんな感じだ?」


「悪女の娘の方は少し特殊なのでござるよ」


「特殊?どういう意味だ?」


「まず、魔王は憑依、修羅は異世界転生者で某は異世界転移者になるでござる」


「ああ、それは分かる。え?というか修羅って異世界転生者なのかよ?」


「言い忘れてたでござるね。修羅はとある村の次男として生まれ、そして15歳の時に悪魔界に迷い込んでしまい、そこで100年間地獄の日々を過ごして来た異世界転生者でござる」


「あ。そうなんだ。え?でも一般人って言ってなかったか?異世界転生者なら魂もあるし修行して強くなってそうだが?」


「それはでござるね。でも、どうやら15歳の誕生日に自分が異世界転生者だと気が付いたらしいでござってね。それで強くなると息巻いていたら悪魔界に落ちたって感じでござる」


「それは何というか災難だな。まあでもそうか、異世界転生者か。それは何というか厄介事の匂いがするな。ということはその修羅もこの世界について知ってるってことか?」


「いや、それがどうやら知らないようでござる。日本、まあ某に魔王含むほぼ全ての異世界転生・転移者が住む国からは来てるのでござるが。この世界が描かれたゲームについてはプレイしたことないと言ってたでござる」


「なるほどね。まあ確かに全員が全員有名な本だからって読んでるわけじゃないし。そちらの世界でもそういうのがあっても不思議はないな」


「そうでござるな」


「まあその修羅の話は納得した。それで悪女の娘は結局何なんだ?」


「悪女の娘はでござるね。魂憑依でござる」


「魂憑依?どういう意味だ?」


「魔王は記憶と自我を魂から抜き取って憑依した感じでござる。だけど悪女の娘は魂ごと無理やり憑依させた感じでござる」


「え?何それ?てことは一つの体に二つの魂と自我があるということか?」


「そうでござる」


「それってヤバくね?確実に体の主導権を巡って争いになるだろ」

 魂が二つで体は一つ。そして魂というのは基本的に独立した一つの存在であり、それが互いに混ざり合ってとかはほとんどない。だから体の主導権を巡って争うとは至極当然である。


「それがでござるね。争いにはならなかったのでござる。ようは悪女の娘の体にその異世界からの魂が憑依したのが6歳の時でござるのよ。6歳の子供の魂とその時の年齢で18歳の魂、どちらの魂の自我が強く、どちらが体の主導権を握れるかなど明白でござる。そして悪女の娘の魂は感覚だけ残されて体の主導権を無理やり奪われたのでござる」


「それは何というかエグイな。つかセリカみたいな状況になってるな」


「ああ、【洗脳の天魔】のことでござるか。確かにそれと似たような感じでござるな」


「でもその言い方だと、体の主導権を取り戻せたんだろ?」


「そうでござる。悪女の娘の魂は体の主導権を奪われて屈辱的で地獄のような日々を過ごしてたのでござる。だけど、そんな地獄に耐えるうちに悪女の娘の魂の方が自我が強くなり。少しずつ体の主導権を取り戻していき、今も体の主導権を巡って争ってるでござる」


「ほう。今も?なるほどね、え?じゃあその【嫉妬の天魔】はどういう感じなの?どちらかの魂に宿ってる感じなの?」


「流石グレン殿と言いたいところでござるが。違うのでござる。【嫉妬の天魔】は両方の魂に半分ずつ宿ったのでござる」


「は、半分ずつ?え?どういうこと?そもそも【嫉妬の天魔】の力を半分ずつとか出来るの?何それ?」


「何それでござるか。確かにそう思うでござるよな。某もそう思ったでござる」


「いや。そういうのいいから面倒くさい、説明してくれ」


「これはこれは失礼したでござる。ようは元々悪女の娘の魂と憑依者の魂の容量は嫉妬の力を受け入れれるほど大きくはないのでござる」


「でも、二つ合わせたら受け入れられるってことか?」


「正解でござる」


「あれ?そうなると嫉妬の権能はどうなる?」


 嫉妬の権能・それは怠惰の権能と同じように【嫉妬】に関する力を悪魔界にいる【七つの大罪・嫉妬・レビアタン】から力を借りて操れるもの。


 その権能は大きく3つ。

 一つ目は【嫉妬操作】・・・全ての嫉妬という感情を操ること。

 増大させることも減少させることも自由自在である。

 この力は使いようによっては簡単に嫉妬で人を狂わせて破滅させることも可能であり、防ぐ手段は同じ天魔か・神器保有者のみというかなり質の悪い力。


 二つ目は【汝に嫉妬せし、その力、我の前から消えよ】・・・自分よりも優れている力を相手が持っていた場合はその力を強制的に消すことが出来る力。


 この力がある為に【嫉妬の天魔】の前に立った英雄クラスの存在は強制的に一般人と変わらないレベルまで力を消されるという悪質極まりない能力。


 三つ目は【汝に嫉妬せし、その力、我に寄越せ】・・・二つ目の効果で消した力の中から自由に力を一つだけ奪うことが出来る。


 嫉妬するだけで使える二つ目の力が発動すれば無条件で、相手の持つ自分よりも優れた力を一つだけ自由に奪い去ることが出来るという、中々にぶっ壊れた力だ。


 どれも天魔に相応しき力であり。修羅に殺されてしまったが、先代【嫉妬の天魔】は三つ目の能力を存分に使い。単純なる身体能力・魔力は天魔クラスまで上昇しており、また数々の技能とハイエルフから奪った何千年という寿命を持った天魔の中でもトップクラスの万能力を持つ存在であった。


「それがでござるね。一つ目と二つ目を憑依者が三つ目を悪女の娘が手に入れたでござる」


「え?それってリンクしてる?」


「もちろんしてるでござるよ」


「じゃあ。その憑依者が二つ目の権能を使えば使うほど悪女の娘は強化されてくってことか?」


「そうでござる。そして今現在憑依者は存分に二つ目の力を行使してるでござる」


「あれ?なあ。ふとした疑問なのだが、三つ目の力はその性質上自分よりも弱い能力を奪うことは出来ない。というか条件に必要な二つ目の力の発動が出来なくなる。だから先代は途中で強くなり過ぎてほぼ全ての能力が頭打ちになった上に二つ目の力の発動条件が満たせなくなった。でも。憑依者の方は強くないから二つ目の力は使い放題だろう。そして三つ目の力とリンクしてるのだから、その分悪女の娘が永遠に強化されるんじゃね?」


「そうでござるね。まあ。流石に魂容量的問題があるでござるから。一定ラインで止まるでござるけど、天魔じゃない。身体能力・魔力・技能でござったら、そこまで魂容量は使わないでござるし。おそらくでござるが身体能力・魔力だけで見たら某やグレン殿と同レベルまで行くと思うでござるよ」


「ハハハ。それは化け物だな」


「そうでござるね。まあ、修羅には勝てないでござるが」


「それはそうだろ。だって悪女の娘は戦闘経験ゼロっぽいからな」


「そうでござるな」


「それで?話はもう終わりか?」


「まあ、一応終わりでござる。あ、おっと大切なことを忘れてたでござる?」


「そうか、早く済ませて来い」


 俺がそういった瞬間真希の体が白と黒に光り輝き。二人の可愛らしい双子が現れる。


「そういえばカレーヌに二つ名あげてなかったな?」


「そうだよ。じゃあ、言ってくるね」


「ああ。早く言ってこい。まあ、今日は良い情報ありがとうな。まあ面倒だし俺から何かをするっていうのはないだろうけど」


「ハハハ。それでこそグレン君だよ。じゃあね、転移」

 真希の姿は消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る