第67話・この世界がゲームだと知らされた

「やあ。久しぶりでござるね、グレン殿」


 イトが第一王子の訓練に出てすぐ俺の目の前に真希が現れた。


「ああ。確かに久しぶりだな。そういえばここ一週間程何かしてたのか?カレーヌの二つ名を授けに来なかったしさ?」

 俺は少し疑問に思い本を読みながらそう質問を投げかける。


 実際問題、普段の真希ならば1週間以内に必ず天魔となった者には二つ名を授けている。

 それにカレーヌの場合は居場所もはっきりしてるから探す手間もないはずだ。何なら当日に二つ名を授けに来ても不思議ではない。

 というわけで少し不思議には思ってたわけだ。まあ、面倒だから気にしてなかったけど。


「いや~ね。実は少し面倒ごとがあったのでござるよ」


「いや。何だよ面倒ごとって、俺そういうの嫌だからパス」


 腐っても天魔であり俺を除けば世界最強と言っても過言ではない真希が1週間も拘束された面倒事だ。

 確実にヤバい。絶対に関わりたくない。


「そんなつれないことを言わないでござるよ。一応グレン殿にも関係してくる話でござるから」


「ハア。分かった。じゃあ一から簡潔に説明してくれ」

 俺は深い深いため息を吐きながらそう言った。


 というか言うしかなかった。ここで聞かないという選択はミスミス貴重な情報を逃し面倒事を背負うと同じ意味だからな。


「まあでも、今回起きた問題は3つあるでござるよ」


「3つもあるかのよ。嫌がらせかな?まあ、でも真希が1週間も拘束されたわけが分かったよ」


「そうでござるな。さて、では順に一つ目から説明するでござるね」


「ああ、早くしてくれ」


「まず一つ目の問題は魔王についてでござる」


 真希の言葉を聞き俺の中でネズミ眷属から貰った魔王の情報が頭に浮かぶ。


「確か今城に引きこもって城やら軍の強化してたんだよな?」


「そうでござる。だけど。正確にいったら違ってでござるね。まあ、ようは魔王は異世界からの憑依者だったのでござるよ」


 俺はあまりにも想像の斜め上を行く理解に苦しむ言葉が出たため、つい素で「は?」と大きな声が漏れてしまう。


 それを見て真希は嬉しそうに笑いながら言葉を紡ぐ。


「ハハハ。まあ、そういう反応するでござるよね。某も魔王と会って自分が憑依者だと魔王から言われた時は驚きのあまり腹抱えて笑ったでござるよ」


「いや。笑い事じゃないだろ。で?その魔王は何をするつもりだ」


 少なくとも魔王という元々下手な天魔よりも強い化け物に転生という形で魂が憑依したならば、カゲウスの件で発覚した魂の要領が大幅に増えて更なる化け物になるぞ。


 それこそこの俺すらも超える化け物に。


 ・・・・・・・


 それはヤバいな。

 凄く面倒だ。


「別に?可愛い魔人や魔物とイチャイチャしてる今が幸せらしいでござるよ?」


「それは何というか欲望に忠実だな?でも魔王だろ?憑依を考えればもしかしたら、いやもしかしなくても俺を超える最強になれる化け物じゃないか?それを放置は不味いだろ」


「あ、いや大丈夫でござるよ。だって憑依でござるよ。異世界転生や異世界転移の場合は魂が二つある状態になるでござるが。憑依は魂の中の自我や記憶を引き抜いて元々あった魔王の魂にぶち込んだって感じでござるよ」


「え?そんなことをしたら、元々の魔王の自我消えない?」


「うん。消えてたでござる」


「そっか。消えてたか。なるほどね、なるほど。じゃあ別にさして問題じゃないんじゃないか?」


「いや。違うのでござるよ。どうやらその魔王によるとこの世界はゲームの世界らしいでござる」


 真希の言葉から俺の頭の中に浮かんだゲームはチェスやら将棋やらオセロ、もしくはサッカーや野球と呼ばれるスポーツ系のゲームだった。


 意味が分からなかった。


 うん?どういうことだ?


「なあ、いきなりこの世界はゲームの世界って言われても。一体全体どういう意味だ?」


「あ。そうかグレン殿は現地人でござるね。ハハハ。それはそうでござるね」


「おい。そんな笑ってどうした?」


「いや。何でもないでござる。まあ、そうでござるね。グレン殿に分かりやすく説明をするなら。本の世界でござる。ようはこの世界は本の世界なのでござるよ。元々未来が決まっていて、様々なキャラが登場して、決まった選択肢を取ることで決まった様々な未来へとたどり着く。そんな世界なのでござるよ?」


「イマイチよく分からないのだが?本の世界は一つだろ。本ならばたった一つの未来しかないだろ」


「あ~。そうでござるね、ようは外伝小説がいっぱいある感じでござる。大元となる一つの本があって、それに分岐する形でもしも主人公がヒロインを助けなかったら、もしもあのキャラが死ななかったら。もしもあのキャラが改心をしてたら。そういうもしかしたらを書いた外伝小説が何百とあるそんな感じでござる」


「なるほどね。え?つまりこの世界の未来は決まってるってことか?まあ分岐はあるらしいが」


「いや。それが違うのでござるよ。どうやらその憑依者いわく。今のこの世界はゲームの世界とは全くストーリーが違うらしいでござる」


「全く違う?え?じゃあなんでこの世界がそのゲーム?とやらの世界だと分かったんだ?」


「それはキャラの名前に地形。持ってる能力やら国の名前が一緒だったからでござるよ」


「ああ。なるほどね」


「で、話を戻すのでござるが。ようは他にもこの世界がゲームだと知っている転移者・転生者がいるということでござる。そしてその人たちの力でこの世界に何かしらの影響が加わり本来とは違う未来を辿ってるということでござる」


「まあ。何となくは分かった。あれ?でもさあ、何でそのゲーム?の世界とやらと俺の住むこの世界がリンクしてるわけ?」


「それは多分神の仕業でござる」


 俺はそれを聞き何となく全てを理解した。


「ようは神の娯楽か」


「そうでござる。神の娯楽でござる。これは某の完全なる予想でござるが。元々この世界は一つの世界として存在していて。それを未来神や予知神あたりの神が様々な未来を予知してまとめ。それをゲーム神か娯楽神がゲームにして、日本に発売。その後、そのゲームをプレイした人間、ようは本を読んでこの世界のほぼ全てを知った状態の人間を面白半分でこの世界に転生やら転移やら憑依させてるって感じでござる?」


 俺自身は神と会った?いや邂逅をしたことは数えるほどしかないし。最上位神や絶対神に至っては見たことすらない。

 でも神という存在はほぼ全員が暇を持て余す絶大な力を持つ愉快犯であるということは知っている。

 そして多分だが真希の言ったことを神ならば軽々と出来ると思う。

 それを楽しそうだと言ってやる動機もある。


 まあ、うん。多分真希の言ってることは正解な感じがするな。

 俺の直感も当たってるって言ってるし。


「まあ。はい。多分そんな気がする。うわ。それは何とも凄く面倒そうだな」


「そうでござるな」


「それで?その魔王?は結局今どうしてるんだ?」


「魔王は今も配下の魔物・魔人と楽しくイチャイチャしてるでござるよ。特に危害はなさそうなので放っておいて問題はないでござるよ」


「ああ。それならいいかな?え?でも残り二つの問題はなんだ?」


「それは悪女の娘と修羅についてでござる」


「悪女の娘?と修羅?何だそれ、初めて聞いたのだが」


「そう言うと思ったでござる。まず二人ともそのゲームの世界のキャラであり。修羅の方は主人公キャラであり戦闘型天魔よりも強い存在、それこそ某やグレン殿と同じ神にすら対抗できる化け物の中の化け物でござる」


 主人公キャラようは本で主人公のような存在ということか。


 え?


 待て、それよりも今真希はなんと言った?


 戦闘型天魔よりも強い、俺や真希と同じ神に対抗できる存在?

 それはつまりヤバい化け物じゃないか。俺が知る限り神に対抗できる程の力を持った天魔は多分皇帝と獣娘大好きさんと俺と真希ぐらいだ。

 あ、いや一応魔王も入ってくるか。


 でも、それだけだ。


 待てよ、相性次第ではあるが【破壊の天魔】とか行方不明の【悪魔の天魔】も入ってきそうだが。ワンちゃんナナも行けそうだな。でもそれは数にはカウントしないでおくか。


 でも、ここで重要なのが真希が俺と自分に匹敵するといったことだ。

 自分で言うのもあれだが、俺は最強だ。真希も最強レベルで強い。多分俺と真希の二人で力を合わせれば1日で人類を滅ぼすことは可能だ。


 それに匹敵する存在?


 危険なんてレベルじゃない。


 魔王が可愛い子犬にさえ見えてくる大問題だ。


 さてヤバいな、どう対処する。やっぱりここは殺した方が。いや洗脳は可能か?眷属は?友好的存在か?どんな能力を持ってる?

 ああ面倒だ。だけど面倒事回避の為だ考えてこう。


「グレン殿、考え過ぎでござるよ」

 思考の渦に浸っていた俺を真希が呼び戻してくれる。


「ああ。すまない。考え込んでいた?それでその修羅ってのは何だ?」


「地獄から這い上がってきた存在でござる?もっと分かりやすく言うなら悪魔界に落とされた元人間、それもなんの力もない一般人でござる」


「悪魔界に落とされた人間だ?え?あの悪魔界からここまで自力で這い上がってきたってことか?」


 悪魔界・・・それは悪魔や魔人に魔物が跋扈し、人は絶対に住めない地獄と言って差し支えない場所。

 少なくとも環境そのものが人は到底生存出来ないような場所であり業火が燃え盛り、死の魔力や闇の魔力が常に蔓延している。

 人間が放り込まれた瞬間。多分業火で焼け死ぬか、死・闇の魔力に充てられて発狂死する。

 そんな狂った場所だ。


 そこから自力で這い上がるとか中々に凄いな。元が一般人って考えたら一体どれだけの苦労と苦しみに絶望があったことか。


「ああ。それもどうやらサタンに勝利して這い上がってきたらしいでござる」


 サタン

 それは憤怒を司る悪魔であり、悪魔の中でも最強最悪と恐れられる存在。

 そして悪魔界の支配者である。


 そんなサタンに勝った?

 なるほど、それは確かに化け物だな。


「なるほどね。で?その修羅は何を目的としてる?」


「どうやら楽しく過ごしてハーレムでも作ったら田舎にこもってスローライフをしたいらしいでござる」


 またもや俺は斜め上過ぎる答えが出来てたので「は?」と叫ぶ。


 うん。それだけの力があるならばもっと大きなことしろよ。いやまあ俺が言えた義理じゃないけど。それでもハーレム作って田舎にこもってスローライフって。


 は?としか言えないよ。


「それは何というか斜め上いったな」


「そうでござるね。まあ一応天魔連盟には加入して貰ったでござる」


「ああ、そうか。因みになんて二つ名を授けたんだ?」


「【戦闘の天魔】と【修羅の天魔】でござる」


「なるほどね。似合ってるねそれ」


「ハハハ。そうでござるね。某ながらいいセンスをしてるでござる」


「それで?最後の悪女の娘とやらの方はどうなってる?」


「ああ。それがでござるね。どうやら【嫉妬の天魔】に覚醒してたでござる」


「え?おい待て待て待て待て待て。【嫉妬の天魔】ってそれ、レビアラがいなかったけ?」


「それがでござるね。修羅に殺されてたでござる」


「は?」


【嫉妬の天魔】・レビアラ

 俺と同じ七つの大罪を司る天魔であり、非常に嫉妬深い性格なのだがそれ故に素晴らしドロドロの恋愛小説や女の嫉妬が生々しく描かれたバイオレンスな姿を描いた小説を書く。俺の好きな小説家の一人。


 何度かあったことはあり。サインも貰っている。

 容姿は青髪長髪でスラっとした美人で尽くすタイプなので男性には結構モテるが、持ち前の嫉妬深さでもし男性が浮気したり、最悪少しでも女性に優しくするとキレてその女に男を殺すという中々にアレな人だ。


 そのせいで多方面からかなりの恨みを買ってる。


 でも。俺にとってはそこら辺は面倒だし、どうでもいい。ただ需要なのは面白い小説を書く、俺の尊敬する小説家の一人であり。

 俺はそんな彼女の、レビアラ先生の小説の大ファンだということだ。


 それが死んだ?


 もう二度と新刊が出ないということか?


「なあ、本当に【嫉妬の天魔】レビアラは。いやレビアラ先生は殺されたのか?」


「殺されたでござるよ。頭は潰されて心臓も潰されてたでござる。この目で確実に死体を確認したでござる」


「そうか、そうか。それは。何というか凄く凄く残念だ」


「そうでござるね。某も彼女とは交流があったでござるからね」


 そうして部屋に何とも言えない悲しみの空気が蔓延した。


―――――――――――――――――――――


週刊総合のトップ100に入れてたのが嬉しかったのでもう1話更新。


ここまで読んでくださった皆様本当にありがとうございます。

これからもこの作品をよろしくお願いいたします

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