第149話・外伝・【透明の天魔】は無双する


 儂の名前はダラン・アスモート・ヤマダ、いや今はその名前は捨てた。

 ただの、ダラン。

 そうただのダランである。


 元々はヤマダ王国にて国王をして、文字通り死ぬほど仕事に明け暮れていた儂、いやもう国王ではないのだから、儂なんて言う必要はないな。


 俺はひょんなことから【透明の天魔】に覚醒を果たして、国王という仕事から逃げた。

 ついでとばかりに【透明の天魔】の力を使って体全部を透明にさせての物質透過能力を使って宝物庫に侵入して武器に防具一式を盗む、ゲフンゲフン、国王という仕事の退職金代わりに貰ってきた。まあ、宝物庫は滅多に開けることないし、多分暫くはバレないから問題はなし。

 まあ、+で正直な話をすれば、俺が国王から逃げたことで諸々支障が出てそうな気はする。というか支障が出ていると思う。

 少なくとも他国と比べて圧倒的に国王に依存をして成り立っている国であるヤマダ王国の国王がいきなり失踪したんだ。

 それがどれだけの混乱を巻き起こすか、まあ想像に容易くはない。なのに、退職金代わりって言って宝物庫まで漁るとか、我ながら良い性格してるわ。


 この2つのやらかしについては多少は心が痛みはする。

 だけど、もう、限界だったんだ。国王の仕事はきつすぎたんだ。ようやく、そう、ようやく俺は解放をされたんだ。

 こんなものは全部国王の仕事が悪い。そんであれだけ辛い思いしたんだ、宝物庫ぐらい少し漁っても良いやろ。つまり俺は悪くない。以上終わり。

 責任転換最高。マジ最高。


 かくかくしかじかで【透明の天魔】となり見事ずっと辞めたかった国王という仕事から逃げれた俺は今、念願の傭兵ギルドの目の前にいる。

 普通に透明になって城から逃げて、透明のまま歩いて来ただけなんだけど。(人がいないところで透明を解除してる設定)


 今の所、城から逃げ出して、1日も、いや数時間程度しか立っていないからそこまで支障は・・・うん、出てるわ。

 数時間でも国王がいなかったら、問題になるわ。今頃大臣やら貴族やらが少ない髪の毛を散らしながら必死に俺を探してるんだろうな。

 まあ、いいや。俺知らね。俺の苦しみを知るが良い。大丈夫、ちゃんと俺の机の中に胃薬と毛生え薬入ってるから。

 

 かくして俺は全部忘れて傭兵ギルドに足を踏み入れるのだった。







―――――――――――――








 傭兵ギルド・・・それは冒険者ギルドと双璧をなす、二代ギルドの一つであり、冒険者ギルドと違い、主に対人戦闘、具体的には戦争への参戦、盗賊団の掃討、盗賊から商人や貴族を守る護衛任務等を行っているギルドである。

 傭兵ギルドは世界各地にあり、冒険者ギルドと同じように完全中立という立場で存在している。


 そんな傭兵ギルドのヤマダ王国・王都支店にて、一人の男がドアを開けた。


 その男の身長は1メートル90センチほど荒くれごとの多い傭兵たちの中でも頭一つ分以上の背を持っていた。

 その上で全身を鈍く光る銀色の鎧に身を包み、上には地面に付くかつかないかのギリギリまで伸びている大きなマントを羽織っており、腰の当たりには金色にデザインされたベルトが巻いてあり、そのベルトには1本の片手剣と、投擲ナイフが4本刺さっていた。

 顔は大きな兜で覆われていて確認出来ないが、唯一確認できる目からは恐ろしいまでの闘士のようなものを感じされるナニカがあった。

 入って来た瞬間にて誰もが「こいつは只者ではない」そう確信させる程の威圧感がその男にはあった。


 男は少し傭兵ギルド内を見渡すと、ゆっくり受付まで歩いて来た。

 何故かその男の足音は一切聞こえなかった。

 明らかにガシャンガシャンと音を鳴らしそうな鎧を着ているにも関わらずに、音を出さない。

 何かしらの魔法か、そうほとんどの人が思う中、一定以上の実力を持った者が、それが魔法でも何でもなく高い技量によって出来ていることだと見抜き、その男の評価を一段階上げる。


「傭兵になりに来た」

 男の声は不思議とよく通った。

 それでいて、威厳と神々しさを感じさせる声であった。

 

「は、はい」

 受付嬢は一瞬その男の声に魅了されつつも、落ち着きを取り戻し、慣れた手つきで傭兵証明書を発行して男に傭兵ギルドについての説明を始める。


 男はその説明を一切文句も言わずに聞ききった後、一言「では、依頼をこなそう」と言って、近くの依頼掲示板にあったここから30キロ程離れた場所にある砦にて拠点を構えているとある盗賊団討伐の依頼を手に取る。

 その依頼の盗賊の推定人数は100人、とてもではないが一人では無理な数であった、もちろん受付嬢は男を止めに入る。

 だけど、男は静止を振り切り「失敗しても馬鹿な男が一人死ぬだけ。何の損もないだろ」と言い、少し軽やかな足取りで傭兵ギルドを出ていった。




 男が傭兵ギルドを出てから1時間が経過した頃、さっきの男が手ぶらで何事もなかったかのように傭兵ギルドへと戻って来た。

 手ぶらであったのと、1時間という短い時間で戻ってきた点を考慮して、皆、冷静になってやっぱり怖くなって逃げ帰ったなと思う中、「証拠だ」と言ってアイテム袋から今回の盗賊団の首を出す男。

 アイテム袋という傭兵が持つには非常に高価なものに無駄に幅を取って重たい筈の人間の首を入れて出してくる男に対して、受付嬢が軽い恐怖のようなものを覚えつつも、受け取った生首を確認すると確かに依頼した傭兵団の盗賊の首、それもその盗賊団の首領の首であった。


 たったの1時間で盗賊団の首領の首を落とす。

 並みの実力者ではないことは確かであった。

 

 念のために傭兵ギルドの方で本当に砦にいた件の盗賊団が壊滅してるかどうかを確認する為に人を走らせる。

 結果は全員が一撃で殺されているであった。

 盗賊団の首領と思われしき人物だけ綺麗に首だけ斬り落とされていたが、それ以外は斜めにぶつ切りにされていたり、頭から抉られていたり、ナイフで心臓を貫かれていたり、原型を留めない程の肉塊になっていたりと、そこから感じるのは戦いというよりも圧倒的な強者による一方的な殺戮であった。


 しかしながら男がたったの1時間足らずでこれだけの偉業を成し遂げたというのは事実であった。

 傭兵ギルドは力=正義である為、すぐさま男のギルドランク昇級が行われた。

 男はギルドランク昇給を満足そうに受けると、そのまま他国のとある戦争に傭兵として参加する手続きを出した後、王都を離れていっただった。









―――――――――――――――


何となくで別視点で書きたくなって書いた。

割と楽しかった。

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