第57話・報告と力の本質に気が付いたって話

 夜が明けて朝日が昇り始めた頃、俺はイトに将棋で負けた悔しさからリベンジマッチをやっていた。


 普段なら面倒くさがってリベンジマッチなんて絶対にしないが。しないのだが。今は理由が違う。


 だって、ナナにカッコ悪いとこを見せられないからだ。


 結構俺強いし的なこと言っときながらイトに惨敗したのだ。

 まあ俺にだって多少のプライドはある。流石にこのままはい負けましたのは出来ん。


「さあ、イト。全力でかかってこい」


「分かってますよ。グレン様」


 でまあ、また負けました。


 いや一応そこそこのいい試合ではあるよ。

 接戦なのだが。まあイト強いね。

 なんかこう俺の思考を読まれてる気がするんだよな。


 どこ置いてもイトに見透かされてる気がする。


 まあ、でも確かに落ち着いて考えてればイトとの付き合いは長いし。当たり前かもな。


 となると俺もイトの思考を読むようにしたら勝てるんじゃね?

 少し面倒だが。まあ勝つためだ。やってみるか。


「イト、最後にもう一試合頼む。これで負けたら俺の完敗だ」


「いいですよグレン様。でも意外ですね。グレン様が勝負を私に仕掛けてくるとは普段面倒がって絶対にしないと思いましたのに」


「まあ、ナナに俺が完敗した姿だけを見せられないからな」


「フフフ。そうですか。納得しました。では最後に一試合やりましょう」


「ああ。そうだな」


「二人とも頑張るなの」


 ナナの声援と共に戦いが始まった。


 で、まあ俺が圧勝しました。


 いやまあ、イトの次の手を読むようにして打ったら勝てた。

 俺の予想なのだが。今まで俺は超一流レベルの将棋の技術だけで戦っていた。ようは定石とかは理解できるし。詰将棋みたいなのも楽々出来るって将棋の技術しか使ってなかったのだ。


 そこにあるのは将棋の駒を動かすのがただ上手いというだけ。


 一人でやる分なら高度な戦いを出来るってだけ。


 対人戦ならば話は別だ。

 小説にもあったが将棋は読み合いだって書いてあった。いくら将棋が上手くても相手が自分のことを知り尽くしてて、次出す場所を予想出来たりしたら、それは勝てないって話だ。


 でも逆に俺が相手の出す場所を予想して。性格を考えて。そして俺の【万能の天魔】の中に含まれてる超一流レベルの未来予測や英雄クラスの直感に超一流レベルの心理理解。


 これらを組み合わせた上に超一流レベルの将棋の技術を使えば強くなるんじゃないと思った。


 でまあ、そうしたらメチャクチャに強くなった。

 多分将棋の大会とか出ても普通に優勝出来そうな気がする。


 いやまあ面倒だからしないけど。


 で、まあ今回の件で一つ学べたことがあるな。

 俺の【万能の天魔】は組み合わせることで力を発揮すると。

 今まで俺は【万能の天魔】の力を個とでしか扱っていなかった。


 魔法を使う時も超一流レベル水魔法しか使ってなかったり。剣術とかでも超一流レベルの剣術しか使ってなかった。


 そもそも昔から少し不思議だったんだよな。【万能の天魔】って他の天魔の力と比べると少し劣ってないかなと。


 でも今こうしてみるとそれは納得だ。


 だってこの力の真価は組み合わせにあるのだから。

 様々な力を状況に合わせて組み合わせて相乗効果を発揮させる。

 それがこの力の本来の使い道だ。


 例えば魔法一つ取っても、水魔法を使う場合、ただ単に水魔法を行使するのではなく。

 超一流レベルの魔力操作・魔力強化・魔法強化・必要魔力減少・魔法威力上昇・魔法効果上昇・魔法範囲上昇。等々のへりくつじみた気は多少はするが。

 ありとあらゆる様々な効果を起こせそうなものを超一流レベルで重複させて使えば、多分ではあるが天魔と同レベルの威力を出せるんじゃないか?


 普通に起こせるだろうな。


 まあ、面倒だからしないけど。それに戦闘とかならば【怠惰】と【消滅】の力を使った方が早いし楽だし。


 うん。正味今更感がヤバい気付きだな。笑えるわ。


「あのう?グレン様?どうしてそんなに強くなったのですか?」

 俺に負けて暫く呆けていたイトからそう質問される。


「まあ、何だ。本気を出しただけかな?いや。違うな。ちょっと俺の力の本質に気がついたって感じだ」


「よく分かりませんが、グレン様が嬉しそうで良かったです」


「ああ、そこそこ嬉しいよ。さて、じゃあ将棋も面倒になったし。次は何する?」


「ご主人様、ナナに将棋教えてなの」

 そう言われて。そう言えば教えるの途中だったなということに気が付く。

 教えてる最中にイトとの将棋に火がついて戦ってたんだった。


「ああ。ごめんナナ」


「いいなの」


「よし。じゃあ一緒に将棋するか」


「はいなの」


「では。私はそろそろ良いお時間なので朝食の準備をしてきますね」


「オッケー、よろしくねイト」「ありがとうなの」


 二人でイトを見送ってから。暫くナナに将棋を教えていた時だった。


 セリカから念話が来た。


【神様。出発の準備が整いましたのでご連絡を入れさせていただきました】


【ああ。そう?まあ気を付けてね】


【はい。ありがとうございます】


【あ、一応聞くけど今現在の状況はどうなってる?】


【はい。今現在の状況とつきましては、カゲウスを除く全員を洗脳して勇者の聖力が魔王軍四天王に奪われたと。そしてカゲウスの妹であるイーディアちゃんを私が洗脳した本当の勇者として連れて行こうとしている状態です】


【なるほどね。そうしたか。そうなると次の手は聖教国に侵入した後。カゲウスとイーディアちゃんが脱走して慌てふためく所をセリカが片っ端から洗脳って感じかな?】


【はい。その通りです。ですがやはりどうしても聖教国にいる天魔が障害となってしまうので神様のお力をお貸しください】


【それはもちろんいいさ、つか前も言った気がするな。まあ面倒だしいいけど。あ、後こちら側に引き込めそうな天魔おったら引き込んでくれよ】


【裏切られる可能性がありますがいいのですか?】


【裏切られたら裏切られたらでその時考える。まあ、でも裏切ったら始末すればいいだけの話や】


【確かにそうですね。ではそのように】


【ほいほい。じゃあ後は任せたよ】

 そう言って俺は念話を終わらせた。


「誰と念話してたなの?」


「えっと、セリカだよって。ナナは知らないな。えっとナナが勇者パーティーにいた時にいた女魔術師って覚えてる?」


「もしかしてその人がセリカなの?」


「ああ。そうだよ。でもごめん、ナナからしたらいいイメージないかも」


「そんなことはないなの。だってあの人はとても辛そうだったなの。誰かに無理やり身体を乗っ取られて操られて、あんなことをしたなの。本当は優しい人なの」


 まさかのナナ知ってたの?

 まあでも勇者だしな。気が付いても納得だ。

 でもちょっと驚きだわ。


「ナナはセリカが操られてるって知ってたのか?」


「う~ん。知ってたといより。そんな気がしてたってだけなの」


「ああ。そうなんだ」


「でも正直に言ったらご主人様と過ごす日々が幸せですっかり忘れてたなの」

 そう言って満面の笑みを浮かべるナナ。

 可愛いが。しかし、まあ、俺に対する忠誠心というか依存度高いな~~~。


 まあ、面倒だし気にせんとくか。


「ハハハ。そうかそうか。まあナナが幸せなら俺も嬉しいよ」

 そう言ってナナの頭をナデナデしてあげる。


「頭ナデナデ気持ちいなの」


「そうか。それは良かった。まあ、でもセリカとは一応眷族仲間になった訳だし、仲良くしてくれよナナ」


「当たり前なの。仲良くするなの」


「そうかそうか」


 俺はナナの頭を撫でながら、あの時本屋からの帰り道ナナを助けて本当に良かったなと改めて思うのだった。


 暫くそんなことを考えならナナの頭を撫でてたらイトが朝食を作ってくれて来たので、仲良く三人でいつもより早めの朝食を食べるのだった。


 何となく今まで一人で食べたりしてた時よりも美味しいなって感じたのは。きっと気のせいじゃないだろう。

 そう思いながらイトの手料理を堪能するのだった。

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