第58話・外伝・そして魔王は消滅した

 崩壊した魔王城の地下深くにある宝物庫内の更に奥に最も厳重に作られた隠し部屋があった。


 そこにあるのは魔王の核。

 

 魔王の心臓ともいえるものであり。これがある限り魔王は不滅であり一部の例外を除きこの核自体を破壊することは決して出来ない。


 魔王の核はそれだけの強度と圧倒的な魔力を秘めている。


 そしてその例外として存在するのが勇者である。(一部天魔も可能)


 勇者とは魔王を殺すために神から力を与えられた存在であり、魔王に対して絶大な力を発揮する。


 その為勇者は魔王の核の位置を探知することが可能であり。更に少し時間がかかるものの空間を超えて核に直接攻撃をして破壊することが可能であった。


 これにより勇者は魔王を倒すことが出来る。


 そうして本来ならば勇者が魔王を倒し世界に平和が訪れる。

 勇者は人としての寿命が尽きるまで幸せに生きて死ぬ。


 そしてまた魔王が現れて勇者が現れて勇者が魔王を倒す。


 それがこの世界の理の様なものであり。絶対に覆せないといっても過言ではない事象の一つであった。


 だがしかし、それに天魔という存在が手を加え、並々ならぬ人の悪意と欲望が交差した。そしてそれを神々が是非とした結果。覆ってしまった。


 本物の勇者は洗脳され、聖力を奪われてしまった。


 本来ならば死んでいたはずの魔王は生き延びてしまった。


 そして核だけとなった魔王が今、復活を遂げた。

 神はそれに娯楽的な意味合いもかねてとある手を打ってから見守った。


 楽しく笑みを浮かべながら。



 ――――――――――――――――――



「あの忌々しき勇者め。あと少しで死ぬところだった。それこそあの邪な人間が勇者を無力化しなければ確実に死んでいた。でも、我は生きている。そう生きている。生き残ったのだ。勇者と対峙した魔王は確実に死を迎えるという。先代魔王・先々代魔王・先々々代魔王・・・・・・。我以外の魔王達が皆そうして死んでいった中。我だけは生き残ったのだ」


 地下室の一室核を保管してあった場所にて蘇った魔王は高笑いを上げる。

 そこにあったのは歓喜と達成感に愉悦感。

 そして完璧なる魔王の風格であった。


 勇者と対峙して生き残る。歴代の魔王の誰もが成し遂げられなかった偉業を成し遂げ、更に邪魔な勇者も力が奪われ、勇者ではなくなっている。


 魔王にとってこれほど愉快で素晴らしいことがあるのだろうか。


「フハハハハハハハハハハハ。愉快愉快愉快愉快愉快。なんて素晴らしいんだ。さて。ここからだ。ここからが我の始まりだ。何。目障りで不愉快極まりない最悪の勇者はもういない。ここからは我が一方的に人間を殺戮する番だ。待っておれ人間共。この魔王が行くぞ」


 そして魔王は動き出す。


 地下室から出て。かろうじで生き残っている部下を秘密裏に集め、使える部下や四天王は死体を探しだして蘇生をさせた。


 勇者パーティーによって破壊された魔王城を建て直し、ボロボロだった魔王軍を建て直していった。


 前回自分が勇者によって滅ぼされかけた反省を活かして、魔王城に様々な罠を設置し、四天王含め配下の魔物達に単独行動を控えるように命じ。自分の周りにも常に配下を置くようにした。


 また、城の地下深くにあったことが幸いしたのか勇者パーティーに見つからずに荒らされていなかった宝物庫を全て解放させて。配下の魔人達には上質な武器や防具を持たせた。


 配下の魔物達が飢えないように食料の購入も追加で行っていった。因みに購入国は聖教国以外の国である。


 もちろん、食料の方は奪っても良かったが。ここで派手に動いて警戒され、天魔と呼ばれる。勇者に匹敵する存在と敵対することになったらばせっかくのチャンスを棒に振ってしまうと。

 あえて購入で対応させた。


 また前回は情報が足りなかったと反省をし、配下の魔物に情報を集めさせることも行った。


 集めさせる情報は主に自分を殺せる強者・天魔や各国の情報についてだった。


 魔王は人間を憎いと考え。皆殺しにしたいと考えている。


 だけど。特に憎いのは聖教国の人間であり。それ以外の国の人間は別にそこまで憎いという訳ではない。


 何故なら聖教国は歴代の魔王含め、勇者を排出する国であり。自分を殺そうとする神を信仰する国なのだから。


 憎いと恨めしいと破壊したいと思うのは当然である。

 逆に他の国の人間は特に危害を加えられたことも無ければ接点を持ったことすらない。


 今の魔王としては正直殺したいとは多少は思うが。優先度的にも危険度的にもやめて置こうという立ち位置となった。


 そうして魔王は様々な改革を行い。魔王軍をより強固により強い物へと変化させていった。


 その姿はまさしく王という名前が相応しかった。


 素早い判断と行動でサクサクと物後を決めて行い、より良い方向へと進めていく。

 配下の誰もが思いつかないような画期的なアイデアを思いつき実行させる。


 今までは冷徹で冷酷だったが優しくなり。配下にしっかりと休息を取らせるようになった。


 そして魔王は気が付く。否気が付いてしまった。自分が自分でないということに。自分の中に自分ではない別の自分がいるということに。


 一旦その違和感に気が付いてしまったら最後。魔王はその違和感の正体を突き止めるべく。考え悩み、そして何も分からなかった。


 何も分からずに、ただただ恐怖した。

 恐怖して更に気が付いてしまう。少しずつ自分が自分で無くなっていると。


 本来の魔王は冷徹で冷酷で人間をどこまでも憎み怨み、配下にはどこまでも厳しく。自分にも厳しかった。


 人間を心の底から殺したいと思い。今現在。力を取り戻して配下も揃った状態である。

 今すぐにでも人間を殺すために聖教国に攻め入りたいと頭では考えていた。


 なのに。だというのに。何故我は。いや俺は。違う。我は我だ。俺ではない。


 我はのうのうと魔王城を建て直している。


 何故側にサキュバスやドライアドにアラクネといった人型の魔物や女魔人を置いている。


 何故なのだ?


 我は魔王だ。


 誇り高き魔王だ。


 人間を滅ぼす最悪にして最凶にして最強の存在だ。


 だから我は我は。


 我の自我が消える。


 ああ。我は誰。


 我は誰なんだ。


 我は?我は?我は?


 そう、我は人間を滅ぼすために生まれた存在。

 この自我も肉体も邪神様から与えられた物。

 だから我は完璧な存在だ。


 なのになのにおかしい。上手く頭が回らない。


 我の自我が、我の魂が。我の記憶が。


 我は・・・・・・・・我は・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・




 わ、・・・・・・







 誰か、教えてくれ。

 俺は誰だ?




 そして魔王の自我は消滅した。








 ――――――――――――――――――


 俺は何処にでもいるしがない大学生。

 それが飲酒運転してた車に引かれて死んで。


 目が覚めたら魔王になっていた。


 最初は驚いたが状況を整理してみて驚いた。


 何故ならこの世界が俺が最近プレイしていた大ヒットゲーム、【乙女ゲームと呼ばないで】と全く同じだったのだから。


 このゲームは最初は乙女ゲームっぽい感じで始まるのだが。というか完璧に何処にもありそうなテンプレートな乙女ゲームなのだが。途中から一転。一気にバトル展開や領地経営が始まり。


 戦争ルートや建国ルート。最強ルートや超ハーレムルートに超逆ハーレムルート、果ては世界滅亡ルートまでの様々なルートに分岐してプレイ出来てる。


 更に攻略を進めていくことにより操作できるキャラの種類も増えて何と12種類もいる。メチャクチャやり込める神ゲーだ。


 アニメ化映画化とヒットを飛ばした今大人気の超面白いゲームだ。


 かくいう俺もメチャクチャにドはまりして、悪役令嬢を使っての復讐ルートを楽しんでいた所だ。


 まあ、話を元に戻すのだが、俺はその世界にいる魔王に憑依?した。


 最近よくライトノベルで見るあるある展開だ。


 これを知った時は凄く嬉しかった。


 何故って?


 それはもちろん魔王が作中最強四天王の一人であるからだ。


 この【乙女ゲームと呼ばないで】にはメチャクチャに強い最強の存在が4人いる。


 一人目は全ての魔物と魔人を統べる最恐にして最悪にして心の底から人間を憎み怨んでる存在、そして【復讐の天魔】ナナとの掛け合いがほっこりするツンデレキャラ・魔王

 

 二人目は最強の師匠キャラであり、面倒面倒言いながら全てのスキルのレベルを大幅に上げてくれる師匠&お助けキャラ・このキャラにお世話になった人は数知れない・グレン


 三人目は愉快犯にして天魔連盟創設者・何百年という時を生きた異世界転移者であり。性別不明の可愛らしい双子。真希


 四人目は上三人と違って。操作できるキャラであり、プレイヤーが育成するキャラ・修羅。

 このキャラは悪魔界と呼ばれる。悪魔・魔物・魔人が跋扈する地獄のような場所にひょんな事から迷い込んでしまった青年がたった一人で敵と戦いながら強くなっていく完全別ゲー。育成ゲームだ。


 まあ。ただこの青年の過去が重い上に、辛すぎて辛すぎて。更に魔界では様々な理不尽な目にあい。何度も死にそうに、というか死にまくって、死にまくって苦しんでもがいて足掻いてようやく魔界から脱出するって話なのだが。


 余りにもキャラとして可哀想過ぎて道が辛すぎるから俺らプレイヤーの間では修羅と呼んでいる。

 でまあ、脱出してしまえば最強キャラであり。色んなルートを選択して遊べる、育成ゲーから無双ゲーになり、かなり面白く遊べるキャラでもある。


 ちょっと話が脱線して長くなったが、この4人が【乙女ゲームと呼ばないで】の最強キャラであり。メチャクチャに強い。ハッキリ言って狂ってるくらい強い。


 で、俺はその魔王に転生?したのだ。


 メチャクチャ楽しいやん。


 今からやりたいことが多過ぎる。

 【復讐の天魔】となったナナちゃんとのイチャイチャルートもありだし。

 普通に魔王の配下でいるエチエチな魔物に魔人・四天王のフィリアルを侍らしたりしても楽しそうだな。


 いや本当に夢溢れるわ。


 まあでも今の状態は魔王城が建て直してる最中で配下の魔物も蘇生の最中、集めてる最中だから、ナナちゃんが偽者勇者に力を奪われて。核だけになってから復活を遂げた1~2日後って感じかな?


 さて、じゃあこっから俺の力で魔王城を最凶のダンジョンにして魔王軍を最強の部隊にしますか。


 ああ、実に楽しみだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 補足説明


 魔王は元々邪神によって創られた存在であり、邪神が遊戯神に頼まれて魔王の魂を地球の日本に住むとある大学生の魂に上書きをしたってことです。


 ただ、腐っても魔王の魂。簡単には上書きされず1週間程保っていたが。最終的に完璧に上書きが完了して消滅したって感じです。


 因みにこの上書きされた青年の方は自分の中に魔王の魂の残滓があったのは気が付いてません。


 その他諸々の詳しい説明は次回します。


 一応内容としては、【乙女ゲームと呼ばないで】の詳しい説明に忘れてるかもしれませんが第二王子の不倫相手の正体。

 そして、連鎖的に起こった偶然により本来ならば死ぬはずだったイトが生き延び。第五王子が城を出て一人で生きてく話。


 その他、ナナが【復讐の天魔】となり魔王と手を組み聖教国を亡ぼす話とか。


 諸々の説明をしていきます。


 ―――――――――――――――――――――

 

 一応この設定はこの小説を書き始めた頃から作ってました。

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