第56話・夜更かしして皆で遊ぶのって楽しいよね
「よく寝た。よく寝た」
目が覚めた俺はベットから起き辺りを見渡す。
「真っ暗だな。てことはもう夜か」
そう呟きながらふと、隣を見たら右にはイトが左にはナナがいて。心地の良い寝息を立ててい眠っていた。
「あ、今夜か」
そう小声で呟いたら、二度寝しようかなと考える。考えて、ベットに横になるが眠れなかった。
それもそうだ。
だって十分過ぎる程の睡眠を取ったのだから。
もちろん俺は天魔であり、根本的に睡眠が必要かと言われたら要らないって感じの人間?なのだが、精神的なものは人間だし肉体構造的にも人間だ。
それはまあ寝まくったら精神的にも肉体的にも別に今寝なくていいかなってなるのは当たり前の話だ。
それによくよく考えればここ最近寝てばっかだったな。
まあ久しぶりに夜中から起きて本読んで朝を明かすのも悪くないな。
さて、そうと決まったら読書に勤しむか。
で?何を読もうかな?
そうだなナナが読んでた本でも読み直して。終わったらその作品の外伝小説でも読むか。
うん実に楽しそうだ。
俺はそう結論を出したら床に詰まれている本を一旦全部異空間に入れてから。一巻から取り出して読み始める。
一応今現在夜で明かりとかはないが【万能の天魔】である俺の暗視にかかれば一切の問題なく読める。
――――――――――――――――――
そんなこんなで暫く一人楽しく本を読んでいた時だった。
寝ているナナが俺のお腹のあたりにしがみついてきた。
「ママ。パパ。寂しいよ。行きたくないよ」
ナナのか細く弱い声が漏れる。
本当に小さい声で普通の人だったら絶対に聞こえない位小さい声。
でも、英雄クラスの聴力を持つ俺には聞こえてしまう。否。聞こえてしまった。
「そういえば。ナナは家族から無理やり離されて勇者として戦わされたんだな。それに、ナナの家族もいや村の人は・・・・・・・」
俺の呟きは誰にも聞かれることなく闇に消えていく。
でも俺の心に深く深く刺さる。
ナナはまだ子供だ。
本当ならば友達と一緒に学校に行ったり、両親に甘えたり、周りに迷惑をかけて怒られたり。良いことして成長して褒められて。無邪気で争いなんて知らない可愛い子供だ。
なのに。
何の因果か、神の悪戯。いや神に選ばれた故に勇者となり戦いを強いられた。
そしてボロボロになりながら魔王を倒して待ち受けていたのは裏切り。
・・・・・・・・・
「なあ。ナナ。今幸せか?」
俺は寝てるナナにそう問いかけながら頭を撫でる。
完璧に寝てるナナには俺の言葉が聞こえるわけはなく。
少し悲しげな顔を見せながら寝息を立ててる。
ただ、俺が頭を撫で始めると何処か安心したような顔を見せてくれる。そして、俺を抱きしめる力は弱くなっていき、さっきと同じ姿勢で寝始める。
多分今のナナは幸せだと思う。
そう信じたい。
ただ、それがナナの為なのか少し疑問なのだ。
ナナには他の女の子と同じように学校に行って、友達と遊んで無邪気でいて欲しい。
そう俺は思うんだ。
これは俺のエゴめいたものなのかもしれない。
自己満足と言っていいのかもしれない。
ただ、そうただ。もし、ナナが勇者に選ばれなかったらナナに起こったであろう経験をさせてあげたいんだ。
ナナを普通の女の子と同じような人生を送って欲しいんだ。
ギュ
俺が一人色々と考え事をしてた時だった。突然、ナナが俺の服の端を握って来る。
その手を見たら。潰れたマメがたくさんある。ずっと剣を握り続けた者の手だった。
でも柔らかくて温かい手。
「ナナはナナは今が一番幸せなの」
ナナが小声で俺にそう言ってくる。
顔を見たら満面の笑みを浮かべていた。
どうやら起こしてしまったみたいだ。
でも。そうか、一番幸せか。そう言って貰えると嬉しいな。
「ナナ学園には行きたいと思うか?」
「学園なの?」
「ああ。そうだ、ナナと同い年の子供がたくさんいて互いに切磋琢磨しあう場所だよ」
「切磋琢磨、なの?」
ナナが思いっ切り首をかしげる。
「あ、ごめん、ここの国の言葉使ってた。まあ、そうだな、互いにライバルみたいな感じで競争しあったり、互いに高め合ったりして成長するような感じかな?」
「それは。凄いなの」
「ああ。そうだな。確かに凄いな。他にも学園では学園祭とか運動会に闘技場大会とか修学旅行に魔術大会とか色々な行事があったりするんだよ」
「それは。凄く楽しそうなの」
「ああ、多分楽しい所さ」
「ご主人様は、その学園って所に行ってないのなの?」
「まあ、俺は面倒くさがって行ってないかな?」
「そうなの。じゃあ。ナナも行かないなの。ご主人様と一緒にいる方が楽しいなの」
「ナナ。そうかそうか。じゃあ一緒にいようか。まあ、もしナナが学園に行きたいと思ったらいつでも言えよ」
「分かったなの」
「うん。いい返事だ」
俺はナナの頭を撫でてやる。
ナナは嬉しそうに目を細めてくれる。
「さて、ナナ。もう遅いし寝るか?」
「ご主人様は起きてるなの?」
「まあ、ちょっと寝すぎちゃったからな」
「じゃあ、ナナも起きるなの。大丈夫ナナはこれでも天魔だから、寝なくても大丈夫なの」
「まあ、確かにそうだな。じゃあ一緒に起きるか」
「はいなの」
ナナの元気良い返事が部屋に響く。
うん。ナナは元気なのが一番だな。
「じゃあ。夜食でも用意しましょうか?」
隣で寝ていたイトが起きてそう言ってくる。
「おお。イト。起こしてしまったな。ごめんごめん」
「いえ。大丈夫ですよ。グレン様」
「そうか。因みにいつから起きてた?」
「グレン様とナナが会話し始めたくらいからです」
「いや。最初からやん。もっと早く声かけてくれればいいのに」
「いえ。少しタイミングが見つからなかったので、それに、ナナとグレン様がせっかく二人で仲良く話してましたから。お邪魔は控えようと思いまして」
「ああ、そうか。あい変わらずイトは気が利くな」
「いえいえ、どれだけグレン様と一緒にいると思ってるのですか。それくらいの気は回りますよ。それで今から夜食を用意してきますね。あ、ナナ、何か要望はある?」
「う~んっとね。じゃあナナはパイが食べたいなの」
「パイね。分かったわ。すぐ作って戻って来るね」
そう言ってイトが部屋を出ていった。
因みに俺に意見を聞いていなかったのは俺が面倒くさがって何でもいいよっていうのを知ってるからだ。
まあ、長い付き合いだからな。
「さて。じゃあイトがパイを作って来るまで一緒に本でも読んで待ってるか」
「あのう。ご主人様。将棋を教えて欲しいなの」
ナナの口から衝撃の言葉が出る。
将棋、それはこの国に伝わる遊びの一つ。様々な文字が書かれた駒を互いに並べて取り合いをして、最後は王と書かれた駒を取ったら勝ちのシンプルだが非常に奥深いゲーム。
因みに面倒くさがりの俺はやったことはない。
本で読んだことはあるからルールは知ってるけど。まあでも【万能の天魔】が俺にはあるから超一流レベルに上手いやろうな。
うん多分教えれるな。
後ナナの前ではカッコつけたいしね。
「将棋か?いいよ教えてあげるよ。でもどうしていきなり将棋教えてくれなんて言い出したんだ?」
「それはね、これを読んだからなの」
そう言ってナナが俺に見せてくれた本は将棋のタイトルを狙って老若男女様々な人が将棋の世界で争う超有名小説だった。
俺も読んだが。かなり面白くナナに勧めた本の中に入っていたのを思い出す。
余りの面白さに一瞬この面倒くさがりの俺が将棋を始めようかと思いすらした凄い本だ。まあ結局面倒くさがってやらなかった。
相変わらずグレン様状態なのだが。
まあ、でも納得は出来た。
「なるほどね。じゃあ俺が将棋を教えてあげるよ」
「ありがとうなの」
「でも、まずは、将棋の駒と台を用意しないとな」
俺はそう言いながら異空間から適当な大きさの丸太を用意する。
丸太と言っても異空間の中で事前にカットしたから30センチくらいだ。
「ご主人様どうして木を出したなの?」
不思議そうがるナナ。
まあ、その通りだな。
でも。ここからが俺の力の見せ所だ。
「この木から将棋の駒と台を作るんだよ。見ててねナナ。取り敢えず二つにカットからの加工魔法発動。滑らかになれっと」
俺は手刀で二つにカットしてから。加工魔法を使って片方を滑らかな太い木の板にする。
それから異空間から黒色のペンキを取り出して満遍なく塗る。
「ご主人様?ペンキを全部に塗っちゃってるけどいいのなの?」
「ああ。いんだよ。ナナ。まあ見ててくれ。【消滅の天魔】である我が命じる。我の望むようにペンキよ消滅しろ」
俺は消滅の力を使い。枠組みと線以外を消滅させる。
そして出来上がるのは完璧で綺麗な台。
多分この世界で俺しか出来ない技だ。
「凄いなの。流石ご主人様なの」
「まあな。じゃあ次の駒も同じように、【消滅の天魔】である我が命じる。我の望む形に木よ消滅しろ。からの加工魔法・滑らかになれっと」
消滅の力により。将棋に必要な駒40枚の形が出来上がる。
「後はこれを異空間から出しましてペンキの箱に全部入れます。それから。浮遊魔法・駒よ、浮遊しろ。からの【消滅の天魔】である我が命じる。我の望むようにペンキよ消滅しろ」
そうして一瞬で駒が出来上がった。
「わあ。凄いなの」
そう言ってナナが駒に触れようとするので止めさせる。
「ごめん、ナナ。まだ最後の仕上げが終わってない。乾燥魔法発動・駒よ台よ乾燥しろ」
これによりペンキが乾燥するとともに木の中にある余計な水分が抜けたので、より頑丈で綺麗な物となった。
「よし。これで完成だ。いつでも遊べるよ」
「わあ。凄いなの。じゃあ教えてなの」
「もちろんだとも」
そうして俺はナナに将棋を教え始めました。
ある程度教えてたらパイと紅茶を用意したイトが戻ってきて。皆が夜食を食べて。
またナナに将棋を教えて、意外な事にイトが実は将棋好きでイトも加わって。3人で仲良く過ごして夜を明かしました。
少し悔しかったことがあるとすれば思いのほかイトが将棋上手で俺が完敗したことかな?
いやはや。【万能の天魔】あるし大丈夫なんて思ってたらボコボコにされたわ。
ハハハ。
まあ、でも本当に楽しかったわ。
たまにはこういうのもいいなって思うよ。本当にね。
まあ面倒くさがりなんで。毎日とかは無理だけど。絶対無理だな。
―――――――――――――――――――――
補足説明
一応部屋にも台所はありますが。小さい台所って感じで器具は少ないです。
主人公であるグレンは最悪器具とか一切なくても魔法を使い料理が可能ですが、グレンのように魔法が使えないイトが基本的にパイ等のしっかりとした料理を作るってなったら城にある専用の台所にいかないと無理って感じです。
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