第64話・【星光の天魔】洗脳完了

 何故、何故俺がこのような屈辱を受けているのだ。


 何故俺は今、民衆に憎悪の目を向けられて石を投げられている。


 いもしない神に祈りを捧げて。俺がいなければ魔物に他国の兵士に蹂躙されているだけのごみ共に石を投げられている。


 何故俺は力が使えない。


 何故俺の最強の星の力が使えない。


 もし使えたら今すぐ隕石を落として全員を殺してやるのに。


 何故だ、何故だ。何故だ?


 何故なのだ。


 誰か教えてくれ。誰か答えてくれ。


 誰か。誰か。


「誰か俺を助けてくれ~~~~~~~~~」


「ふざけるなこの屑が」「何が助けてくれだ。死にやがれ」「お前なんて死んで当然だ」「よくも今まで非道な行いに手を染めてたな」「何様のつもりだ」


【星光の天魔】の声は民衆の怒りにかき消されて更に石が、いや腐った卵がトマトが更に糞尿が、果てはナイフに槍に剣すら飛んでくる。


 体中に傷が生まれてそれに糞尿が染みて激痛が走る。


「ぐああああああああああああ」


 叫び声が響き渡る。


 でも、それ以上に民衆の怒声が飛ぶ。


「クソがクソがクソが、ふざけるな。お前ら俺を誰と心得る、この世界に100といない最強の存在天魔・【星光の天魔】であるぞ。それをそれを。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな~~~~~。グハ」


 顔面に大きな石が当たる。


「もう。やめてくれ。俺が悪かった。誰か助けてくれ。なあおい、俺を助けろ。お前に忠誠を誓う。だから助けてくれ。俺を・・・・・グハ」


 みっともない命乞いは投げられた石という形で拒否される。


「ハハハハハハハハハハ。最高だよ。あの【星光の天魔】がこのような目に合ってるとは。愉快愉快実に愉快だ」


 セリカの高笑いが聞こえる。だけど【星光の天魔】に対する恨みで頭いっぱいの民衆はそんなものに一切気が付かない。


「ふむ。私ながら少し洗脳を強くかけすぎてしまったかね?」


「まあ。いんじゃないか。かけるのが弱いよりかは良いだろう。面倒だし」


「そうですね。神様」


「さて、じゃあ俺はこの光景を見るのにも飽きたし、本でも読んでるわ。こいつの心が折れたら言ってくれ」


「はい。分かりました。神様。私はその間この男の無様なさまを嘲笑ってますね」


「ああ。好きにしろ」


「クソが~~~~~~~~~~~~~。【洗脳の天魔】傀儡の人形のくせによくよくもよくもよくも~~~~~~」


【星光の天魔】のその言葉はセリカの逆鱗であった。


 傀儡の人形。それはセリカの辛く苦しい地獄のような過去を表す言葉。


「【洗脳の天魔】である私が命じる、もっと憎悪を燃やせ、もっと痛めつけろ。もっともっと苦しませろ」


 民衆は洗脳され、更に憎悪を募らせて。直接的な攻撃に出る。


「やめろ、ふざけるな。俺は・・・・・俺は・・・・・・」


 そして屈辱と痛みのあまり【星光の天魔】は気絶した。


「気絶なんて。許される訳がないでしょ。回復魔法・気絶回復」


 セリカの魔法で無理やり【星光の天魔】の気絶状態は回復される。


 元々勇者パーティーの魔法使いとして戦えるだけの英雄クラスの魔法の実力を持っていたセリカにとってはこの程度は児戯にも等しかった。


「クソが。気絶するのも許しくれないというのか、グハ」


 腹を貫かれて血を吐く【星光の天魔】。

 そこにあったのは天魔ではなく哀れな罪人の姿であった。


 そして10分【星光の天魔】は民衆による地獄のような拷問を受け、完璧に心が折れた。


 ―――――――――――――――――――――


「神様、【星光の天魔】の心が完璧に折れたので洗脳出来ると思います」


「おお。そうかそうか。じゃあこの場所から撤退しますか」


「はい。そうですね。では洗脳解除・民衆達よ今見たことやったこと全て忘れて元の生活に戻れ」

 その瞬間あれだけ怒り狂っていた民衆達が何事もなかったかのように元の場所に戻り自分たちの生活を始めた。


「流石セリカ、【洗脳の天魔】だけあるな。俺だったらこんな洗脳は出来ないね。それに楽でいいね。いやはやセリカを眷属にして本当に良かった」


「そう言ってもらえると嬉しいです。神様」


「第五王子様、周囲の探知完了しました。周りに私たちに気が付いてるものは誰もいません。今すぐ転移は可能です」


「オッケー、ありがとうカレーヌ。じゃあこのボロ雑巾だけ先に転移させてから皆で応接室に転移しますか。取り敢えず。遠隔転移からの集団転移」


 ―――――――――――――――――――――


「では。神様。今から洗脳を始めます。10分程で洗脳は終わると思います」


「オッケー、じゃあそれまで暇だな。取り敢えず。イト紅茶入れてくれない?俺の空間魔法を共有させたから道具は自由に使ってくれていいから」


「はい。グレン様」


「じゃあ。私も紅茶入れる~~~」


「いや。カレーヌは料理スキル全滅してるからだ駄目だ」


「そうですよ。カレーヌは料理ダメダメなんですから」


「もう。イトまでそういうこと言う。ぷんすかぷんだよ」


「おいおい。今時ぷんすかぷんって。ハハハなんか日に日にカレーヌのキャラ壊れてくな。もっとクール系かと思ってたよ」


「あ。第五王子様まで。私はずっとクールな大人な女性ですよ。だから今ここでやりましょう」


「馬鹿かよ。今ここでってムードって言葉知らないだろ」


「フフフ、相変わらず仲が良いですね」

 俺とカレーヌのくだらない会話に紅茶を入れてる途中のイトが微笑みながらそういう。


 でもまあ確かに仲良いかもな。


「そうかもね」


「あ。今第五王子様笑った。珍しい」


「お前。カレーヌ、珍しっいってなんだよ。俺だって笑うよ。ハア。さてじゃあ本でも読んでるわ」

 俺はソファーに座って本を読み始めた。


 ―――――――――――――――――――――


「グレン様、どうぞ紅茶です。後小腹が空いただろうと思いまして、サンドイッチも作りました」


「流石イトだ。気が利くね」


「あ。カレーヌの分もあるよ」


「イト。ありがとうね、いや~イトは料理は上手だね」

 カレーヌはお礼もそこそこでサンドイッチにがっつきそうイトを褒める。


「フフフ。ありがとね」


 褒められて嬉しそうなイトを横目に俺はサンドイッチにかぶりついた。


「うん。美味しいね。流石イトだ。しかもレタスとハムにスライスチーズって俺の一番好きなサンドイッチだな。分かってるね」


「ずっとグレン様と一緒にいますからね」


「それもそうだな」


「そうですね」


「ねえねえ。イト。私に第五王子様の幼少期教えて欲しいな」


「おいおい。カレーヌ何を聞いてるんだ。恥ずかしいだろ」


「いいじゃないですか。第五王子様」


「そうですよ。せっかくカレーヌと楽しく話せそうな内容が見つかったのに、グレン様がどうしてもっていうなら止めますけど」


「いや。別にどうしてもってわけじゃ。そこまでいったら面倒に感じるしって、あ、イト俺の性格読んだな」


「フフフ。そうですよ。本当に相変わらずグレン様はグレン様ですね」


「ハハハ。そうだな。どうぞ思う存分俺の幼少期について話してくれ。俺はその間本でも読んでるから」


「というわけでグレン様からお墨付きが出ましたし。話しましょうか」


「おお。凄く楽しみだ」


「あのう。楽しそうにしてる所申し訳ないのですが。終わりました。洗脳」

 かなり申し訳なさそうにセリカが間に割って入ってそういった。


「おお。そうか、お疲れ様」


「いえいえ。でもこれで【星光の天魔】は私の玩具となりました。フフフ」


「うん。どうぞ好きなように復讐してくれ。俺はその全てを容認する。まあ、今は面倒だけど次来る二人の天魔を対処しなければだけどな」


「はい。分かりました。神様。それとありがとうございます」


「どういたしまして」

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