第6話・恋は盲目とは良く言ったものだ

 俺はイトと共に戦争に向かうために兵士達が待機している場所まで歩いて向かっていた時だった。


 兄上が現れた。 


 それも第一王子であり、性格がまともな方の兄上だ。ぶっちゃけ第二王子の方の兄上は性格クソ過ぎて。兄というかクズなんだよな。少なくと尊敬とかは絶対に出来ないゴミっすわ。


 逆に第一王子の方の兄上は性格も真面目だし努力家でそこそこ好感はもてるわ。まあ、だから王位継承権の争いでどちらに着くかってなったら絶対に第一王子の方だな。


「どうしたのですか。兄上」

 いきなり俺とイトの前を塞ぎように立ち止まる兄上。不思議に思いそう問いかける。


「すまなかった」

 兄上は俺に頭を下げた。


 あ~。なるほどね責任を感じてるなこれは。まあ、確かに俺は上の兄4人の代わりに戦争に行くようなもんだからな。


「いやいや。気にしなくてもいいですよ。頭を上げて下さい兄上」


「しかし。本来ならばこの戦争は私が行くべきものだった。それをグレンに背負わせてしまうのは、私の力不足に他ならない。本当に申し訳ない」 

 そう言って再度俺に頭を下げる兄上。うん普通に面倒だな。


「だから、気にしないでください。俺は別になんちゃって将軍、お飾り将軍として兵を届けた後に。神器を使って敵兵士を昏睡させるだけの簡単なお仕事をしに行くだけですから、それに俺にはイトもいるし。まあ無事に帰ってくるよ。だから兄上は何も気にしなくていいです」


「それなんだが。本当に言いにくいのだが。イト師匠を連れて行くのは止めて貰えないか」


 ・・・・・・・・・・・


「は?」

 兄上から想像の遥か斜め上を行く答えが返って来た。


 俺は一応兄上に気にしなくてもいい的な事を言ったつもりなのに。何でイトを置いていけってなった?は?意味が分からない。


「ちょっと。何を言ってるかの分からないのだが。兄上。イトを置いて行けと言ったな?聞き間違いじゃないよな?もしくは言い間違いとか?」

 一応そう聞く。もしかしたら俺の聞き間違い。もしくは兄上の言い間違いという一途の可能性にかけて。


「いや。聞き間違いでも言い間違いでもない。どうか。頼むグレンよ。私からの一生のお願いだイト師匠を戦争に連れて行くのは止めてくれないか」

 そう言って俺に深々と頭を下げる兄上。


 えっと。待てよ。もしかして、そう何千という恋愛小説を読んできた俺は分かる。そうこの展開が分かるぞ。これはもしかして、いやもしかしなくても。兄上はイトに惚れてないかい?


 惚れた相手が死ぬ危険性のある戦場に行こうとしているから止めに入る。


 ・・・・・・・・・・


 当たってそうだな。それやったら超絶面倒だな。本当にやめて欲しいのだが。


「第一王子様。私はグレン様の専属メイドであり、グレン様に命を救われています。私にとってグレン様は人生を捧げた主です。そんなグレン様が戦場に出るというのに私は同行しないなんて選択肢はありません」

 相変わらずイトの忠誠心高いな。嬉しいけどさぁ、兄上の顔が絶望に染まってるよ。完璧にクリティカルヒットしてるよ。


 まあでもイトを残すなんて選択肢はないからな。そんなことをしたら俺の怠惰でグウタラ生活に支障が出るし。


「何故ですか。何故そこまで怠惰でグウタラなグレンを大事にするのですか。イト師匠」

 おい。遠回しというか思いっきり罵られたんだが。

 いやまあ事実だけどさあ。さっきの申し訳なさそうな態度何処に行った?


「第一王子様。確かにグレン様は怠惰でグウタラです。でも処刑されそうになってくれた私を救い私に生きる意味を与えて下さった恩人です。それ以上何か言うようであれば殺しますよ」

 おい。殺意高いって、しかも本気の殺気漏れてるやん。殺る気しかないやん。流石に第一王子殺したら面倒やから止めてくれって。


「いやイト、兄上を今ここで殺したら超絶面倒だから止めてくれ」


「はい。分かりました。グレン様。ではどうしますか?」


「いや、どうするって。取り敢えず兄上俺は何も見なかったことにしてやるから失せな。俺は面倒事が嫌いなんだよ」 


「でも。やっぱりイト師匠を危険な目には合わせられません」

 まだ粘るか。恋は盲目というが阿保だろ。そもそもイトは準英雄クラスの実力者だぞ。

 そう簡単に殺されないよ。

 それにイトを連れて行けと言うのは父上からの命令でもあるのに。それを俺一個人の判断で覆せるわけがないだろ。


「ハア。兄上まずイトを連れて行けと言ったのは父上です。まずこの時点でどういう意味か分かりますよね。つまり王命。俺がどうこう出来る話ではありません。言うならば父上に言ってください。まあ、今から言った所で遅いでしょうが」


 ・・・・・・・嫌な沈黙が流れる。


「そ。そうだな。・・・・・・私が間違っていた。それにどうかしていた。忘れてくれ」

 ふと我に返ったのかそう言って再度頭を下げる兄上。


 どうやら軽く冷静になったみたいだな。そんで冷静になって自分がどれだけ非常識なことを言ってるのか理解した感じだな。


 全く持ってじゃあ最初から言うなよって話なのだが。それを今言っても野暮というものか。


「いいっすよ別に。という訳でどいてください兄上。戦争に向かうので。兄上の代わりにね」

 軽く嫌味を言ってから俺は兄上を手ではねのけて先へ歩いた。


「グレンよ。イト師匠を絶対に生きて連れ帰ってくれ」

 怠惰でグウタラな俺にわざわざそう言って頭を下げて頼む兄上。兄上は俺が天魔だって知らないはずなのに。何を期待しているのだか。本当に恋ってのは凄いね。


「言われなくてもそのつもりですよ」

 俺は頭を下げてる兄上を後ろに軽く手を振ってそう答えると、今度こそイトと共に兵士達のいる待機場所へと向かったのだった。

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