第176話・外伝・【刀工の天魔】マツカゼ


 乙女ゲームと呼ばないでにおいて、天魔というのは重要な役割を持つ。

 天魔、それは世界に100も存在しない人智を超えた化け物であり最強であり不可侵略の領域であり、全ての盤面をひっくり返せるような兵器である。

 国の強さは天魔の数によって比例し、天魔の数は国の強さに直径する。


 例え小国であっても天魔がいるだけで一目置かれ、天魔が二人いる小国と天魔が一人しかいない大国では前者の方が強い国家として認められる。

 それが天魔である。


 そんな天魔には色んな型が存在しいる。

 それは戦闘型であったり、万能型であったり、補助型であったり、生産型であったり、七大罪型であったり、七美徳型であったり様々だ。

 そして基本的に天魔というのは精神性が他の人間とはかけ離れた魂容量の大きい一部の得意存在だけがなれる者である為に戦闘型に偏りがちである。

 仮に戦闘型でなくても、世界に必ず14存在している七大罪と七美徳が天魔の約15%を占めており、他の型の天魔は珍しい存在である。

 

 そんな天魔の中でも更に珍しい型が存在している。


 それは、生産型の天魔である。

 生産型とはその名の通り、何かを生産する職人が天魔に覚醒した例。

 最も有名なのはヤマダ王国の建設者である【創造の天魔】が挙げられる。

 しかしながら彼は周回プレイ前提の隠しキャラであり、彼に会える頃にはほぼ全てのアイテムが揃い、天魔に覚醒しているのがほとんどなので特に作って欲しいものもない。


 という訳で基本的に様々なプレイヤーがお世話になる二人の生産型天魔が存在している。


 一人はかなりゴツい、職人気質なオッサンであり、何百年も天魔として活動し、日夜良質な素材を求めて世界を渡り歩いている【鍛冶の天魔】ヘカルトパイスト。

 もう一人は、オタク気質な美少女であり、自分の推しに自分の作成した刀を貢ぐことを至上の喜びにしているメンヘラ気質な【刀工の天魔】マツカゼ

 

 以上の二人が乙女ゲームと呼ばないにおいては、最高の装備を作成してくれる職人である。

 ただ【鍛冶の天魔】ヘカルトパイストは各地を放浪している設定のせいでエンカウント方法が完全ランダムのみであり、会うのが非常に難しく、会えたとしても頑固な職人気質な為に相当に良い素材を渡して好感度を稼がないと話をすることすら出来ない。

 その分一度気に入って貰えれば活発的に取引が出来るようになるという利点もある。

 それでもランダムエンカウントという安定して出会えないというのが足を引っ張てしまっているキャラである。


 逆に【刀工の天魔】マツカゼは簡単に仲間に出来る上に良質な武器を作ってくれる。

 情報が知れ渡ってからはほとんどのプレイヤーがお世話になった超絶便利キャラである。

 正直刀以外の武器や防具の性能面では【鍛冶の天魔】には多少劣ってしまうが、性能は破格の物であり極論誤差でしかない。

 普通に神器並みの武器をポンポン生産する能力はチートと言われても過言じゃないレベルである。というか実際チートの様な存在であり、序盤に【刀工の天魔】を仲間にすると無双ゲームが始まってつまらなくなるから辞めましょうと攻略サイトに書かれているレベルだ。


 そんな彼女を仲間にする方法は超簡単、ヤマダ学園に下級生として通っている彼女との好感度を一定以上まで上昇させた上で鍛冶をやらせればいいだけ。

 たったそれだけで数か月もしないうちに【刀工の天魔】として覚醒を果たして好感度の度合いによってプレイヤーを推しと定めて様々な装備品を貢いでくれるし、好感度次第では仲間になって戦闘にも参加してくれる。

 

 生産型の天魔な為、戦闘型の天魔には劣るがその強さは一線を画しており、普通に一生連れてけるレベルの最強キャラである。

 

 そんな便利を極めている最高にコストパフォーマンスの良い【刀工の天魔】ではあるが、実は乙女ゲームと呼ばないでのサービス開始から10年以上の月日が経ってから見つけ出されたキャラである。


 その理由は簡単。

 普通に見つける難易度が高すぎたのだ。

 それもそのはず、何のフラグもヒントもない状況で誰がわざわざクラスメイトですらないし、クエストも存在しない下級生の女子生徒の好感度を一定以上まで上げて鍛冶スキルを覚えさせるというのだという話である。


 一番最初に【刀工の天魔】マツカゼを見つけたとある配信者の人は「ルーレットで出たモブキャラの好感度を最大まで上げて鍛えてみよう」というネタ切れの果てに生まれた企画の最中に偶々選ばれて偶々鍛えてる途中にリスナーからの提案でルーレットでスキルを覚えさせようぜとなり、結果として鍛冶スキルを覚えさせるという偶然に偶然が重なり過ぎた末の覚醒である。


 当時の配信は伝説となり、アーカイブにて一千万回再生を超えるという伝説を残すこととなった。


 そんな【刀工の天魔】に至る素質を持った少女カミカゼは、ゲームではない現実世界においては何の因果か神の悪戯か、先生であるイトに対して激しい良感情を抱くようになった。

 乙女ゲームと呼ばないでを知る転生者や転移者達もそもそも論として【刀工の天魔】という存在すら知っていなかった。

 

 かくして新たな天魔が生まれることとなる。

 その影響たるはまだ誰も予想出来ない。

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