第70話・会議は突然に

 今。ヤマダ王国では緊急で会議が開かれていた。


 同席するのは国王に始まり大臣に貴族達。


 議題はただ一つ。


 現在騎士団長・カレーヌが天魔に覚醒したということについてである。


 ―――――――――――――――――――――


「さて、皆の者今回緊急会議が開かれたのは我が国の騎士団長・カレーヌが天魔に覚醒をしたことについてじゃ。さて、ではお主らの意見を聞かせてくれ。儂は暫しお主らの意見を聞いておる」

 会議室内にて国王はそう静かに説いた。


 そうして今集められた、手の空いていた大臣7人と侯爵家当主8人と公爵家当主1人の会議が始まった。


「やはり。ここはそれ相応の待遇を与えてこの国に留まってもらう必要があるのではないでしょうか?」


「それ相応の地位か。ではどのような地位を与えるというのだ?天魔となると、それこそこの国の軍部の全権くらい与えなければならないのではないか?」


「じゃあ。与えればいいのではないか?」


「何を言っておるのじゃ。軍部の全権など渡したら、もしも反乱となったら時にこの国は簡単に乗っ取られるぞ」


「でも?天魔だぞ?そうなったらばそうなったらだ。正直に言ってここでカレーヌ殿に反乱を起こされたら簡単に滅ぶとまでは言わないが。少なくともこの国が滅茶苦茶にはなるぞ」


「イト殿がいるではないか?もしそうなったとしても【剣舞の天魔】であるイト殿がいれば何とかなる」


「それはない。むしろ敵に回る可能性の方が高い」


「それはどういうことだ?」


「そうだ。イト殿はこの国の第五王子であるグレンに付き従ってるのではないか?ならばこの国の一大事にはきっと力を貸してくれるだろう」


「お前ら何を勘違いしている。第五王子はこの国を好いていないと思うぞ。それにイト殿とカレーヌ殿は仲が良い。特に最近はよく一緒に話をしていたり模擬戦闘をしているのを訓練場で見かけるぞ」


「確かにそうだな」


「ああ。儂も見たぞ」


「となると。最悪のシナリオとしてカレーヌ殿と敵対したらイト殿も敵に回るということか?」


「天魔が二人となると。一応我が国には【探知の天魔】がいるが。まあ、負けるじゃろうな」


「いや。もしかしたら敵に回る可能性もあるぞ。だってカレーヌ殿は元々【探知の天魔】の部下だったのだから」


「そういえばそうだったのう。これは凄く不味くないか?」


「まあ。確かにそうだな。凄く不味い」


「でも逆に言えばここでカレーヌ殿がこの国に今までと変わらぬように仕えてくれたら最高ではないか?」


「おお。確かにそうだな。そうすれば我が国は天魔を3人も抱える大国となるな」


「それならば諸外国との関係もかなり強く出れるぞ」


「輸出入においてこちらに有利に契約が出来るかもしれぬ」


「おお。素晴らしいな」


「そうなると。やはり軍部の全権を与えるか?」


「ふむ。でも本当にカレーヌ殿は軍部の全権などを貰っても嬉しいのだろうか?」


「嬉しいじゃろ。だって軍部の全権であるぞ。実質的には国王と公爵家に次ぐ権力じゃぞ」


「うむ。確かにそうだな」


「それに。カレーヌ殿は今まで我が国に様々な貢献をしてきているからのう」


「うむ。忠誠心という点で見ればかなり高いな」


「確かに何度か死ぬ可能性の非常に高い危険な任務に出向いた際も文句ひとつ言わずにその任務を完璧にこなしきり。その上でさして報酬も求めずいつもの様に騎士団員の訓練を行っていたからのう」


「それを考えるとやはり忠誠心は高いな」


「元々カレーヌ殿の実家は代々騎士を輩出している名家だしな。忠誠心が高いというのは納得じゃ」


「うむ。確かにそうだな」


「ではここは一つ我が息子をカレーヌ殿と婚姻させるのはどうじゃろうか?」

 今の今まで一切発言をしなかった公爵家当主がそう静かに言った。

 しかしその案は凄く合理的であり。カレーヌという天魔をこの国に縛る鎖としては非常に強い物であった。


 だがしかし。そこで懸念される問題が二つあった。


 一つ目はカレーヌが拒否をするということ。

 二つ目はもしも今提案をした公爵家が天魔を抱えるとなったらば。王家の権威が弱まり逆にその公爵家の権力が大幅に強くなることだ。


 そして会議はより混乱を極めていく。


「そ、そんなこと許されるわけがない」

 侯爵家の当主の一人が公爵家が力を持ち、自分を含む他の貴族たちを取り込む、ないし排除して力を強めることを恐れてそう慌てて叫ぶ。


「何故じゃ?」

 公爵家当主はその懸念を理解しつついけしゃあしゃあと言い放つ。


「そんなもの。天魔という強大な力をお前が持てば必ずこの国の膿となり王家の敵になるからに決まっておるじゃろ」

 横から財務大臣が答える。


「ふむ。確かにそれはごもっともじゃ。でも儂はそんなことをするつもりはないぞ」


「いけしゃあしゃあとよく嘘をつくな」


「そうだそうだ。誰がお前を信じられるか」


「そうだ。それにカレーヌ殿がお前の息子と結婚すると誰が決めた」


「そうだそうだ。その通りだ」


「ふむ。確かにそうじゃのう。でも儂は一応公爵家当主であり。カレーヌ殿の実家は男爵家・格というのを考えれば喜んで婚姻を結ぶのではないか?」


「ハハハハハハハハハハハハハハハ」

 急に今まで沈黙を貫いていた国王が笑い出した。


「ど、どうしたのですか陛下」

 いきなり笑いだした陛下を財務大臣が心配する。


「いや。何じゃ、あまりにもおかしくてのう。まず一つ質問じゃ。お主の息子は天魔なのか?」

 国王は公爵家当主を指さして愉快そうに言った。


「な、何を言ってるのですか陛下?冗談はよしてください、ついにボケましたか?私の息子が天魔な訳あるわけがないじゃないですか」


「そうじゃろうな。じゃあ無理じゃ。一応儂はカレーヌ殿と一対一で話したことがあってな、その時に儂の息子との婚姻を勧めたことがある。じゃがしかし全部断られた。理由は何だと思う?」


「と言われましても」


「強さじゃ」


「強さですか?」


「うむ。強さじゃ。カレーヌ殿はどうやら好みのタイプが自分よりも強い者らしい。つまりそういうことじゃ。少なくとも今天魔に至ったカレーヌ殿の好みのタイプに当てはまる男は、まあ100、いや50もいないじゃろうな」


「そう、ですね・・・」


「うむ。そうじゃ。さて、いやしかし、本当にお主らは無能じゃな」

 国王から出た言葉に一堂に衝撃が走る。

 

 更に追い打ちをかけるように国王は魔力を解き放ち皆を威圧する。

 天魔と比較すれば弱いが王という格を持ち、戦闘力自体も非常に高い。それこそ戦場に出れば一騎当千の王の威圧だ。

 皆は当然の様に委縮する。


「ハア。まず、カレーヌ殿をここに呼び、いや儂の方からカレーヌ殿の方に向かい低姿勢で望む物を問おうではないか。カレーヌ殿は天魔じゃ。少なくともここで儂らがどうこう言ってもさして意味はない。特に息子と婚姻させるなどとは持っての他じゃ。儂としてはお主らが今すぐここにいる皆でカレーヌ殿の元へと向かい頼み込むって意見が出ることを期待していたのじゃがな。いやはやいやはや本当に残念じゃ」


 ・・・・・・・・・・


 少し沈黙が流れる。

 皆が今の国王の発言に衝撃を受けるとともにそれが確かにそれが最も正しく最も合理的な判断だと理解したからだ。


 何故なら天魔なのだから、この世界に100といない絶対強者なのだから。

 そんな存在相手にこちら側から呼び出して勝手に軍部の全権を与えるや。勝手に公爵家の長男と結婚させようと考えるなど。愚か極まりない最悪な行動なのだから。


「確かにその通りございます。陛下。私共の考えが至らぬばかりに陛下にご迷惑をお掛けしました。誠に申し訳ございません」

 すぐさま財務大臣が立ち上がり深々と頭を下げる。


 それを見て他の貴族に大臣も頭を下げるが、ただ一人公爵家当主だけは頭を下げずに椅子に深々と座っていた。


「では。今からカレーヌ殿に会いに行くぞ」


 そうして国王は立ち上がっていた者達と護衛の者を連れて会議室を出た。




―――――――――――――――――――――


 補足説明


 因みにこの世界には嘘を見破る魔法があるので、基本的に嘘というのはないです。

 カレーヌが天魔になったという情報は割と皆すんなりと信じました。

 その情報の元が優秀で人望厚い侯爵家当主だというのもありますが。

 それにまあ、もちろん元々カレーヌがこの国随一の強者であり。今まで数々の実績をあげて来たというのはあります。


 まあ、ただ嘘を本当だと思い込んでいたら嘘魔法は通じないという抜け道があるので、多少疑った人はいましたが。

 というわけでイトが前に天魔だといってもそれが真実と出ても実績がないから皆疑った、そう思い込んでるだけって思ったって感じでです。

 まあそこら辺を諸々出したら面倒なので割愛しました。


 それと会議に出席してた公爵家当主は第二王子派閥についており、国王の正妻の腹違いの兄にあたります。

 結構あくどいことをしており。本来ならば公爵家当主にはならなかったのだが、暗殺ギルドを使い邪魔者を全員暗殺したっていう中々にエグイ過去があります。

 ようは第二王子を傀儡にしようとしてる人です。


 ワンちゃん何処かで紹介するかも。多分。・・・・・・・多分。

 因みに国王とは敵対関係にある。


 何なら国王は正妻嫌いっていうね。政治の都合上しょうがなくっていう感じです。

 まあ、何で第二王子以外は正妻の子供はいません。

 そこら辺も諸々やると思う。多分。・・・・・・多分。


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