第71話・カレーヌの決断
「おら、もっと力を入れろ。そんなんじゃあ、お前らは雑魚のままだぞ。50人でかかってきても女一人にかすり傷すらつけられないのか」
王城の訓練場にてカレーヌの怒鳴り声が響き渡る。
状況としては天魔となったカレーヌが実践訓練と言い、今訓練中であった騎士団員100人を二つの班に分けて交互に10分ずつの実践的な戦闘を行っているという形であった。
騎士団員達はカレーヌ相手に傷一つ。どころから触れることさえ出きていない。
もちろん騎士団員達が弱いという訳ではない、全員一流クラスと名乗れる力を持っており、中には準英雄クラスの化け物レベルに強い副騎士団長もいる。他国の騎士団と戦えば一切の被害を出さずに圧倒出来る程度の強さは持っている。
ただ、それでもカレーヌが圧倒的に圧倒的なまでに強すぎるのだ。
【察知の天魔】という名前に相応しく、全ての攻撃を察知して華麗に避ける。
何かしようとしても簡単に無効化されてあっという間に制圧されてしまう。
複数人で襲い掛かってもまるで未来を知ってるかのように避けるかいなす、背後から襲い掛かろうが後ろに目がついてるかのように避けるかいなす。
その上で圧倒的な身体能力と魔力を持ち、更には超一流以上の剣術の技量も持っている。
同じ天魔か英雄クラスでなければ太刀打ちすら出来ない存在。準英雄クラスであれば相打ち覚悟で頑張ってかすり傷一つつけれるかどうかという圧倒的格上の存在。
正に天魔という最強の力をありありと見せつけていた。
そこに現れるのは国王率いる大臣と貴族達。
今行われている激しすぎる実践訓練とそれを当たり前のよう軽くこなすカレーヌに対しての激しい衝撃を覚え。
そしてカレーヌが本当に天魔として覚醒して、一騎当千ならぬ一騎当万の最強の存在だと理解した。
「国王陛下にご挨拶を申し上げます」
カレーヌは察知の力で国王がこちらに近づいて来たのを察知し、一旦手を止めて、国王の元まで向かい跪く。
それを見て訓練中だった兵士達も慌てて跪く。
「カレーヌ殿、天魔に覚醒をしたというのは本当ですか?」
普段は王としての態度を取る国王ではあるが、相手は天魔、多少言葉に気を付けながら言葉を出す。
「はい。本当にございます」
「そうか。因みにどんな二つ名を授かったのじゃ?」
「はい。【察知の天魔】でございます」
そう言ってカレーヌは一応切っていた天魔の認知を発動させてその場にいる全員に自分が天魔であると認識させる。
「ふむ【察知の天魔】か。なるほどなるほど、カレーヌ殿らしい良い二つ名じゃな」
「お褒めに預かり光栄にございます。それで国王陛下、今日はどういったご用件でしょうか?」
「何、せっかくカレーヌ殿が天魔に覚醒したのじゃ、だからそれに相応しい報酬を与えようと思ってな。カレーヌ殿が望む物を何でも言ってくれ。この国が用意できる物であれば何でも用意するぞ」
「私に相応しいですか。特にはないですね。別に今のままでいいですよ」
カレーヌのその言葉に周りに衝撃が走る。
今。国王の言った報酬は何でも与えるというものだった。
それこそ望めばこの国の軍部の全権や新しく第五の公爵家としての地位も手に入れれる。
その他一生使い切れない程の財宝。この国に眠ってある様々な神器。
もしくは望む男性に女性を自由に夫ないし妻にする権利さえも。
そんな報酬に対して特にないですと言い切ったのだ。
それは皆驚くという物だ。
ただ、それをとある一人の人物、国王だけは驚かずにいた。むしろなるほどと納得して、自分の中にあった疑問を確信に変えた。
そう、それはカレーヌが自分の息子グレンの手によって覚醒したという可能性だ。
少なくとも国王から見てグレンは圧倒的な強者であり、最強の存在だ。
そして自分よりも強い人が好きと言っていたカレーヌの好みに当てはまる存在だ。
何かしらの拍子にカレーヌがグレンの力を知り、グレンに迫った。そしてグレンが何かしらの影響を与えてカレーヌを覚醒させた。
これが国王の中で一番しっくりと来る考えであった。
だが、それと同時にグレンが本当の化け物を超えた化け物、天魔を量産できる天魔だと理解してしまった。
イト・ナナ・カレーヌと天魔になってない存在がこうも簡単にグレンと関わっただけで天魔となる。それも驚くほど短い期間の間で。
【偶然は3度続けば偶然ではなく必然である】
初代国王の残した言葉の一つである。
この言葉を噛みしめながら、国王は結論を出した。
グレンはある程度の強さを持った存在を天魔に覚醒させれることが出来る上に最恐で最強の力を持った天魔であるという結論を。
国王はこの知りたくもない真実に到達してしまった時、激しく胃を痛ませながら必死に考えてとある結論に辿り着いた。
そうだ。カレーヌとグレンを結婚させてしまおうと。
そうすれば少なくともカレーヌが自分に対して感謝を示すだろうし、こちら側から面倒事とならないように手を回していけばグレンも怒らないだろう。
更に更にここでカレーヌに名誉だけの地位を与えて国に縛り付ければ、グレンがこの国を出ていく可能性も減る。
良いこと尽くめではないかと。
国王の思いついたアイデアは正に悪魔的というものであり、国の利益という点で見れば国王と大臣に今から地獄のような後処理が待ってるという点を除けば最良の選択であった。
「では。カレーヌ殿。私が前回提示した報酬を今も要らないということですか?もちろんそれでも構いませんよ」
国王は遠回しな言い方をした。
他の貴族から王家の力を高めようとしたと思われて反感を抱かせるのを防ぐためにあくまで自分からはグレンとカレーヌが結婚するという提案をするのではなく、カレーヌという今この場においてもっとも強い発言権と力を持ってる天魔からそれを提示させようとしたのだ。
「前回・・・、あ、もしかして結婚の権利ですか?」
カレーヌは前回、城に侵入した暗殺者を捕らえ、更に町に襲い掛かろうしてたドラゴンを仕留めた功績によって表彰された時に国王から提示された第三王子以降含むこの国全ての人と結婚する権利と莫大な報奨金というのを思い出す。
その時は後者のみ貰い前者は辞退したが、今のカレーヌにとってみれば前者の報酬は即ち自分の愛するグレンとの結婚出来る全財産を捨てても欲しい最高の権利であった。
「はい。もちろんです」
国王は満面の笑みを浮かべるカレーヌを見て、「やはりか」と思いつつ、二人が結婚出来るように話を進めていく。
「では。やはりお相手はグレンですか?」
「もちろんです。第五王子様一択です。いや本当に何というか最高ですね。でも私なんかが・・・」
「いえいえ。大丈夫です。もし何かあっても私が説得してみせます。これでも一応グレンの父ですから。それにカレーヌ殿は魅力的な女性です。きっとグレンも好いてる筈です。もちろんグレンの嫌いな面倒事は私が責任を持って起こさないようにします。ですからどうぞ安心して結婚してください」
ここぞとばかりに結婚を勧める国王。
一国の、それも大国の王が普段の威厳も言葉遣いも何処かに殴り捨てて、敬語で自国の騎士団長と息子の結婚を促す。
異常な光景この上なかった。
それを聞き周りの貴族に大臣果ては跪いてる騎士団員達も啞然となる。
そんな中カレーヌだけが嬉しそうに体をくねくね曲がらせる。
それを見てあのグウタラの怠惰王子との結婚を現在騎士団長かつ天魔である、あのカレーヌが嬉しそうにしているというのを見て、更に皆が唖然とする。
「じゃあ。その報酬貰っちゃおうかな。いや~~~。凄く嬉しいな」
満面の笑みのカレーヌ。だけど、今この場にはもう一人天魔がいた。
【剣舞の天魔】イト、グレンに好意を抱いてる人の一人であり、そして第一王子との訓練中になにやら騒がしいなと聞き耳を立ててたら、カレーヌとグレンが結婚という驚きの事態に一旦訓練を中断させて剣を携え、それを妨害しようと走って来たのであった。
「ちょっと。待ってくれるかな?結婚ってどういうこと?」
その瞬間イトによって放たれた強すぎる殺気が訓練場を覆い、国王と副騎士団長に一部精神力の強い強者数人を除き全員が泡を吹いて気絶した。
「何を言ってるのか?イトは第五王子様の専属メイドでしょ。そうメイドでしょ。主が結婚しようが祝福こそすれど妨害なんてあり得ないんじゃない?」
カレーヌからも殺気が放たれて、ギリギリで耐えていた精神力の強い数人の強者も同じように泡を吹いて気絶し、何とか気絶せずに意識を保ってるのは国王と副騎士団長のみとなった。
「フフフ。カレーヌあまりふざけたことを言わないの、いい。正妻は私よ」
「でも私はお父様から許可を貰いましたよ」
「ハハハハハハハ。お父様って、別にグレン様はお父様のことをさして気にしてはないわよ」
「あらあら、じゃあなんでイトも国王陛下をお父様なんて言ってるのかしら」
「フフフ。それはもちろん。私とグレン様が結婚すればお父様になるからよ」
「そう?でも私の方が先よ」
「あらあら。何を言ってるのかしら。そもそも私が何年グレン様の傍にいると思ってるのかしら?」
「別に愛に年月は関係ないわよ」
「いいや。関係あるわ。私はグレン様の好きな食べ物から嫌いな食べ物。趣味・性格・幼少期の可愛さ、読んだ本に体のほくろの数まで全部知ってるわ」
「・・・・・・・それは羨ましいわね。ではこれからは正妻となった私の方が第五王子様のことを知るわ」
「フフフ。どうやら話も埒が明かないわね?」
「となるとこれで片を付けますか」
互いに剣を構える。
天魔同士の戦い少なくとも今この場で起こったら冗談抜きで城が崩壊しかねないものであった。
ギリギリ意識を保っていた王は二人が戦いを起こそうと気が付き、慌てて止めに入る。
「ちょっと、待ってくれ。今ここで戦わないでおくれ。まずは一旦互いに冷静になって話し合おうではないか」
ドン
「「うるさい」」
二人の天魔から邪魔扱いされて、蹴られて壁に突き飛ばされる国王。
激しく土埃が舞い、壁は衝撃で割れ、国王は内臓を痛めて血を吐いてしまう。
幸いなことに命に別状はないが、その一撃で完璧に気を失い倒れてしまった。
そうして止める者がいなくなった今、二人の戦いが始まった。
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哀れ、不憫。国王よ安らかに。(生きてます)
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