第34話・悪魔の書

 商人の天魔とのひと悶着がありつつも、ナナが来てから1週間ほどの時が経ち勇者パーティーがこの国に来ることとなった。


 因みに来る理由は魔王討伐時に置いて良質な武具を提供してくれたから。そのお礼と我が国にある聖教国の視察と魔王討伐成功を祝うって感じだ。


 まあ、確かに我が国は魔王討伐の為に良質な武具を提供したけど。

 実際は聖教を通じての半ば無理やりの奪われた感じで、寄付という形にされたからこちら側には一銭も入っていない。クソみたいなアレだし多分ナナのことがなかったら絶対にお礼なんてしに来ないと思うわ。クソだな聖教国。


 聖教の視察はまあいいとして、魔王に至っては討伐出来てないからね。

 一応今現在はまだ魔王城再建と配下集めに勤しんでるからまだ一般市民は気が付いていないけど。普通にアウトだからな。後2週間で攻め始めるからな。


 まあ、その為に我が国に来たんだけど。

 ハア。全く持って愚かだね。愚か過ぎて笑えるよ。


 取り敢えず勇者パーティーに会って洗脳の天魔に掛けられた洗脳を全部、消滅の力で消滅させるのは確定事項かな。


 あ、でも洗脳の天魔はどうしようか?

 ネズミからの報告によれば洗脳の天魔多分来るんだよね。


 どうやら洗脳の天魔は勇者パーティーの魔術師として参加しているらしいし、ワンチャン機会があれば殺せるかもだしね。

 いやぶっちゃけ洗脳の天魔なんておっかない、危険しかないような存在は殺すに限るわ。面倒事が起きる前にサクッとね。俺にはそれだけの力があるし。


 まあ、眷族化できそうだったら眷族化有りだけどな・・・無理やろうけど。あくまで出来そうだったらだ。


 さて。パーティーはどうなりますかね。

 いやはや思ってる以上に楽しみにしている自分がいますね。面倒くさがりだけど楽しいことは嫌いじゃない。


 といっても件のパーティーが開かれるまでは後1週間もある。変に考え込むのは面倒だし、程々に楽しみにしつつ、いつも通りのグウタラな日常を送りますか。


 俺は一人そう結論を付けると読みかけの本に手を掛けて読み始める。

 そうして一人で暫く本を読む。


 因みにイトは第一王子との特訓でナナは宮廷料理人から料理を習っている。

 イトとナナがいる日常も好きだが。やはり一人の時間はそれはそれでいいものだ。


 そんなわけで一人黙々と本を読んだり。惰眠をむさぶったり、お菓子を食べたりしていた時だった。

 俺の目の前に何処にでもいそうな平凡な青年がいた。ようは天魔連盟創設者真希がいたということだ。


 どうやら空間転移で俺の目の前に来たようだ。


「おお。真希久しぶりだな。にしても珍しい、お前が本来の姿でいるなんて、何かあったのか?」


「今日は二つの用事があってきたでござる。一つ目は新しく天魔になったナナちゃんに二つ名を授けること。二つ目は悪魔の書が見つかったのでその処理をお願いしにきたでござる」


 悪魔の書とは1000年前に存在した【悪魔の天魔】という狂った悪魔召喚者が地獄や悪魔界に住まう悪魔達を片っ端から封じ込めた本である。


 本に収まってる間は基本的に悪魔は何も出来ないのだが。何でかは知らんが悪魔の天魔が失踪して1000年。

 悪魔の書の封印はボロボロで何かの拍子に本の中から悪魔が出て来るという相当にヤバい本になっている。


 もちろん弱い悪魔(英雄クラス)とかなら別に大した被害はないし放置でいいのだが。というかその場で殺すのだが。

 普通にこの悪魔の書には天魔を超えるレベルの化け物悪魔が封印されてたりするからな。


 世界の均衡を保ち、人類滅亡を阻止している天魔連盟としては放置できない問題ってわけだ。俺としてもこの生活が崩れるのは勘弁願いたいしな。


 でも?何で俺の所に来た。


 前、俺はその処理面倒だからやらんって言ったよな?

 それに悪魔の書の処理って別に天魔連盟で出来るやろ。それこそ最強の悪魔であるサタンでさえも。


 まあ、いっか。しょうがない手伝ってやるか。

 真希にはお世話になってるしな。でも一応天魔連盟の方で出来ないかは聞くか。


「なるほどね。一つ目はともかく。悪魔の書が見つかったのか。レベルにもよるがそれは面倒だな。でもお前の所に【破壊の天魔】いなかった?そいつの力を使えば悪魔の書を破壊出来るんじゃね?つか今までそうしてただろ?」


 俺は前真希が教えてくれた悪魔の書の処理方法を思い出し聞いてみる。


「それがでござるね。無理と言われたのでござるよ。この悪魔の書に封印されている悪魔はかの有名なベリアルでござして。破壊の天魔の力で破壊は不可能とのことでした」


「は?マジかよ?え?ベリアル?」


「そうでござる。異端を操り虚無を操り、ソロモン72柱の68に該当する悪魔であり、強大な力を持った王。地獄の悪霊からなる80の軍勢を従えた悪魔の中でも突出した存在。そのベリアルでござる」


 普段ポーカーフェイスの真希が珍しく少しおびえた様子でそう言う。確かにベリアルはヤバいな。

 読者好きの俺も偶に悪魔について書かれた文献を読んだりするが、ベリアルの力は悪魔たちの中でも頭一つ抜けているからな。


「ああ。それはヤバいな。いや。あれなんだよな。俺一応【怠惰の天魔】とか名乗ってるけど、怠惰を操るベルフェゴールをこの身に宿してる訳じゃないんだよな。正確に言うならば悪魔界で居眠りしてるベルフェゴールの力を【怠惰の天魔】という契約の元に対価無しでほぼ勝手に拝借してる感じなんだよな」


「だから。強さ的なあれで言えばベルフェゴールの方が俺よりも圧倒的に強いんだよな。そんでベリアルの力を考えたら。多分そんなベルフェゴールと同等か、下手したらそれ以上の力を持ってるんだよ。まあもちろん俺が本気で戦ったら勝てると思うが多分この国を含む一帯が更地になるぞ。嫌だよそんな面倒なこと」


「まあ、そうでござるよね。どうするのがいいでござろうか。でもこのまま放置すると、後1週間で封印が解けてしまうでござるし」


 真希から恐ろしい爆弾発言が飛び出てかなり驚く。つかそれ俺が少し楽しみかなって思ってたパーティーと思いっ切り被ってるじゃん。


「おい。待て待て待て。一週間で封印とけるのかよ。なんていう爆弾持って来てんだよ。面倒事すぎるやろ」


「でも。頼れるのはグレン殿しかいないでござるし」


「いや。天魔連盟の皆はどうした?」


 破壊の天魔が駄目でも天魔連盟に所属する天魔が全員力を合わせればベリアル位瞬殺は無理でもなんとか倒せると思うのだが。


「ああ。それがでござるがね、皆各々やりたいことをやっていて手助けに入ってこれなさそう何でござるよ」


「そうか。まあ確かにアイツらの性格を考えると、大人しく従いそうにもなさそうな奴ばっかりだしな。じゃあ封印の天魔に再封印って、ああそういえばバジリスク連合国に鞍替えしてたな。・・・・・・なるほど、ヤバいね」


 因みに天魔連盟は別の組織に鞍替えしても特にお咎めなしのかなり緩い組織だ。


 まあ、お咎めとか言って制裁を加えようとしたら被害が化け物だからな。だって天魔VS天魔することになるんだから。地形が変わるわ。また地図書く人が泣くよ。


「そうでござる。だからグレン殿の所に来たのでござるよ。何か策はあるでござるかね」


「一つだけあるかな」


「おお。流石グレン殿でござる」


「まあなって。相変わらず本来の姿になるとする。そのオタク喋りだっけ?とかいうの止めてくれないか。分身状態の時は普通の喋り方やん」


「それは無理なそうだんでござるよ。これは某のキャラ付けでござるから」


「そうか。まあいいや面倒くさい。好きにしてくれ」


「好きにするでござる。それでグレン殿、その策とやらは何でござるか?」


「ああ。それはね俺はベリアルの力を吸収するんだ。全部は無理でも最低半分吸収出来れば、封印を解く力も弱くなりここから出れなくなるだろう」


「なるほどでござる。その手がございましたか。しかしグレン殿ベリアル程の悪魔の力を吸収して大丈夫でござるか?」


「まあ、大丈夫だろ。さて、グダグダ言っても仕方がないし始めるとするか。呪術発動・吸力の呪い」


 俺は悪魔の書に触れながら吸力の呪いを発動させる。

 その瞬間俺の身体の中に悪魔の力が流れ込んでくる。

 その力は到底、人の身には耐えられないような圧倒的で絶望的な憎悪と悪意と呪いを煮詰めたような黒く禍々しい力。


「グアアアアアア」


 恐ろしい悪魔の力を身体に無理やり吸収させた結果。俺の身体は拒絶反応を起こし激しい痛みを発生させる。


「グレン殿大丈夫でござるか。取り敢えずこの空間は隔離しておいたので声は漏れないようにしたでござるよ」


「ああ。すまない。真希。痛いがいけそうだ、何か適応出来そうだ。うおおおおおおおおおおおおおおおお」

 俺は身体が激しく痛み多少肉が力に耐え切れず弾けたりするが。その側から【万能の天魔】の中にある超一流の再生能力で再生させていく。


「分かったでござる。暫くはグレン殿を見守るでござる。しかし、本当にグレン殿が危なくなったらすぐに止めに入るでござるよ」


「ああ。分かった。でも結構身体が慣れてきた」


 俺のその言葉通り段々と俺の身体に悪魔の力が慣れて順応して来る。

 一応腐っても俺は三つの天魔の力を宿す程の器の持ち主であり。強靭な精神力を持つ存在だ。


 何より万能の天魔の力のおかげで適応力も超一流いや英雄クラスにある、だからいけそうだ。

 この調子ならば俺は悪魔の力を副反応なしで取り込めるようになりそうだ。後もう少しだ。もう少しでこの悪魔の力を完璧に俺の物として取り込めそうだ。


 パシュン


 何かが俺の中で弾けた感じがした。

 その瞬間一気に悪魔の力が俺の身体に馴染み、溢れ、取り込まれていく。


「ああ。良い感じだ。凄く良い感じだ。身体に力が満ち溢れているのが分かる。これが悪魔の力、いやベリアルの力か。凄いな」


 そうして俺は悪魔の書を伝って取れる限界ギリギリまで悪魔の力を吸い取っていく。


 ぐんぐん吸い取っていく。


 10分程吸い取ると。悪魔の書から力が吸い取れなくなった。


「さてと。おめでとうでござるグレン殿。新しく【虚無の天魔】に覚醒したでござるよ」


「そうか。虚無の天魔に覚醒したか。でも少し意外だな、俺がベリアルから吸い取った力は主に二つ、ありとあらゆる全てを虚無に帰すというある意味では消滅と似た【虚無】の力と自分よりも下位の存在を問答無用で支配する【支配】の力なんだが。てっきり【支配の天魔】にでもなると思ったぞ」


「ああ。それがですな。支配の天魔はもう既にいるのでござるよ」


「あそうなの。それは確かに無理だな。つか支配の天魔なんて初めて聞いたなっと。あ、そうだ。おい。真希お前俺に認知の力を使っただろ」


 俺は魔力を解放させて常人いや。英雄クラスの実力者でも発狂して死ぬような殺気を浴びせてそう酷く低く冷たい声で言った。



 ――――――――――――――――――

 補足説明

 天魔という概念を生み出したのは天魔連盟の創設者にして幾つもの特殊で特異な力を持った。主人公であるグレンを除けば最強の存在真希です。


 一応彼は異世界からの転移者で、ラノベに影響されてキャラ付けをし、天魔連盟を創り、天魔という概念を創り、様々な国に強いパイプを作り、ある意味での世界の影の支配者となっています。


 そんな彼は天魔という概念を作った理由や世界の影の支配者となった経緯は後々外伝でやる予定ですが。

 取り敢えずは今現在いた一定以上の力を持った化け物達に天魔という称号を授けて認知の力でそれを定着させたって感じです。


 因みに【悪魔の天魔】は1000年前に存在していて真希とは直接の面識はありませんが。その圧倒的な力と悪魔の書がまだ存在をしていることから、生きていると判断して勝手に【悪魔の天魔】って名前を付けた感じです。

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