第138話・父上が天魔に覚醒した上で失踪した件について


 父上が失踪した。


 何を言ってるか分からないかも知れないが、俺も何を言ってるか分からない。

 だからこそ敢えてもう一度言おう。

 父上が失踪した。


 ことの発端は俺が寝て起きた時に起こった。


 いきなりカレーヌが「大変です、義父様が義父様が失踪をしてしまいました」って言ってきたんだ。


 俺は素で「何言ってんだお前ぇぇぇぇぇ」って言いそうになって、そのまま寝ぼけた頭で突っ込んだ後に冷静になってもう一回いう訳だ。


「え?マジで?」


 と。


 もちろん返って来た答えは非常に無慈悲。


「はい。本当の本当に失踪してしまいました」


 マジかよって思いながら、この時今後の展開について考える訳だ。

 この国の王であり支配者であり、割と冗談抜きでこの国で最も仕事をしていてストレスに悩まされている父上がいなくなった。

 真面目にこの国が崩壊するレベルの大事件だ。


 父上は優秀であった。


 世界最強の天魔である俺から見ても、父上はマジで滅茶苦茶に優秀だと断言できた。

 たった一人でこの国の王として膨大な量の仕事をこなし、常に書類に追われながら、貴族連中をまとめ上げていた。内乱が起きないように必死に調整を行いながら、俺含む息子たちや娘たちがやらかす問題解決に翻弄していた。

 マジで一人の仕事の量じゃないだろってくらい仕事してた。


 そんな優秀な父上がいたからこそこのヤマダ王国というのは回っていた。

 というか父上がいなかったらこの国はとっくの昔に内部分裂を起こして滅んでいると思う。

 で、敢えて何度も言うが父上が失踪した。


 まあつまりこの国は滅ぶってことです。


 さて、どうしましょうか。


 いやマジでどうしようか?


「取り敢えず、臨時でもいいから新しい王を立てる必要があるな」


「そうですね。旦那様」


「私もそうする必要があると思います。グレン様。でも、新しい王って誰を立てるのですか?」


 イトの疑問はごもっともであった。

 普通この場合は王位継承権順に基づいて王の地位が継承されるのだが、まあ、うん第一王子・第二王子は論外、第三王子も論外。第四王子とか話にならない。

 第六王子以降は純粋に幼い。

 どう足掻いても無理だよねって話だ。


「そこなんだよな。そうなんだよ。誰が王をやるかが問題なんだよな。因みにだが今は誰が王になろうとしている?カレーヌ教えてくれ」


「今の所はまだ義父様が失踪をしたことに気が付いている者は少数ですので、特にそこまで大きな問題にはなっておらず、次の王とかいう話も出てないです。それよりも義父様を探す方向に話はシフトしています」


「なるほどね。それは納得したわ。でも正直父上が失踪したってのは、おそらくだがわざと自分の意思で失踪したって感じがするんだよな。俺の直感もそう言っているし。だから、あくまで仮説だが、父上は戦闘系の天魔ではなく逃げる力を持った特殊系統の天魔に覚醒しており、その力を使って国王から逃げたって線が濃厚なんだよな。となると探すってのはまあ無理に近いな」


「確かにそうですね。ディスラー将軍の直感も旦那様と同じ結論に至ってました」


「あ、やっぱりそうか。となると・・・う~ん。マジでどうしましょうか?」


 俺がカレーヌとイトとの3人で頭を抱えてる時だった。

 ベットで寝ていたナナが俺にすり寄ってくる。


「ねえねえ、ご主人様、何のお話してるなの?」


「ああ、ちょっと俺の父上が失踪したから、この国の王誰がやるのかって話をしてたんだよ。ただこの国の王子はどいつもこいつも王としての適性がゼロ通り越してマイナスだからどうしようかなって?」


「ご主人様、素朴な疑問をいいなの?」


「おお。もちろんいいぞ」


「その王って女性がやっちゃいけないなの?」


「女性・・・、いや、確か良かったと思うぞ」


「じゃあ、王女が王をやればいいなの」


「王女が王・・・、あ。なるほどそういうことか、ナナは相変わらず天使かよ。ありがとう」


「よくわからないけど、どういたしましてなの」


「という訳でカレーヌ、今すぐに第一王女は戦場から戻して王にさせるぞ、何、カレーヌにイトにディスラーという3人の天魔の支持があれば誰も逆らえまい。さあ、早速行動だ」


「かしこまりました。旦那様」


 俺は第一王女を王に付かせてその場しのぎをすることを決意した。

 だけど、俺は忘れていた。第一王女の性格がいかに破綻しているかということを。

 俺は思い違いをしていた。

 父上は想像以上に優秀で社畜であったということを。

 俺はより良い選択肢を取るのを忘れていた。

 マリアという一応王としての血を引いているれっきとした王位継承の証の持ち主が天魔に覚醒しているということを明かして、王にするという選択肢を。


 かくして、事態はより大きな面倒事へと向かうこととなる。


 

 

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