第158話・外伝・帝国・バジリスク連合国緊急会議~【道化師の天魔】を添えて~


 場所はとある会議室、中にいるのは帝国とバジリスク連合国の上層部達、魔道通信にて参加している者も何人かいた。


「さて、急遽集まって貰ったのは、昨日から今日にかけて起きている大量暗殺事件についてだ。進行役はこの我、帝国の皇帝にして【覇王の天魔】が行うが異論はないな?」

 その瞬間に【覇王の天魔】の覇気が吹き荒れる。

 それだけで、空気が重く垂れこみ、文字通り世界が揺れる。

 その場にいたほとんどの人がその覇気に当てられて気絶しそうになったり吐きそうになったりしてしまう。


「陛下、魔道通信にて参加しているならばともかく、今この場にいる人達のほとんどが気絶してしまいますよ」

 このままではほぼ全員が気絶してまともな会議にならないと判断した英雄クラスの実力を持った一人の将軍が苦言を呈する。

 

「その時はその時だろ。この程度の覇気で気絶する奴に国を運営する資格などないわ」

 更に【覇王の天魔】としての覇気が強まる。

 先ほどの苦言はガン無視であった。


 覇気に当てられて、バッタバッタと周りの人たちが気絶をしていく、それどころか【覇王の天魔】として魔道通信にてここからはるか遠くに離れているはずの人達にまで覇気を届かせて、彼ら彼女らも気絶させていく。

 そうしてあっという間に一部の力を持った者を除きほとんどの人が気絶をしてしまった。

 

「ハア、これじゃあ会議にならないでしょうが・・・」

 

「まあ、いいんじゃあないですかね?それもそれで楽しそうですしね」

 重いため息を吐いていた将軍の目の前に一人のピエロが現れる。

 よくあるピエロと聞いた時に想像するまんまの赤と白と黄色と黒とでカラフルに埋め尽くされた無駄に派手な服を着て、顔には全体的に白色のメイクがなされていて、鼻は赤い球を作り、目元は黒の刺青のようなものが入っていた、髪型も爆発したような赤色の髪型を持ち、見れば見る程ピエロそのものであった。


「おお、【道化師の天魔】よ。来ておったのか?珍しいな」

 皇帝が軽く笑い声をあげる。


「いや。まあ、何ですかね?ただの暇つぶしって奴ですよね。後はまあ一応私はこの帝国に属している天魔でありますしね。偶には仕事をしてもいいかなって思いましてね。はいね。はいね」


「そうか、相変わらず癖の強い喋り方をするな。まあよい、丁度良かった。せっかく会議を開いたのだが、見ての通りほとんどの人が気絶をしてしまってな。この事件に対するお主の見解を聞かせてくれないか?」


「そうですね。私は【道化師の天魔】ですしね。全部答えを言うのはつまらないですね。そうですね。そうですね。まあ、一つ、いや二つ言えることがあるとすればですね。魔王を信用するなってことと、勝てない戦争をするなよ愚者共ねってことぐらいですかね?」

 

「まるで全て知っているかのような言い方だな?」


「そうですね。全ては知らないですね。知ってることだけ知ってるだけですね。それでも少なくともね。貴方よりかは知ってますね。はいね。はいね」


「そうか。まあ、無理に聞き出すつもりはない。お前は自分の言いたいことだけを言える力を持っているからな。それもまたお前の権利というものだ」

 皇帝の価値観は力というのに大きく比重が偏っていた。

 だからこそ、【道化師の天魔】として絶大な力を持っている者に対してはかなり寛容であった。

 逆に言えば力なき者に対しては非常に苛烈であった。

 それこそ、力のある者であれば力のない者を一方的に殺しても怒らない程度には。


「いや、何を言っているのですか陛下、【道化師の天魔】殿が知っていることがあるのならば聞き出しましょう」

 バジリスク連合国から来た一人の外交官、準英雄レベルの力を持ち皇帝の覇気にもなんとか耐えた男が皇帝の発言に口を挟んでしまった。

 それは悪手というものであった。


「フフフ、ハハハハハ、知りたいのね。貴方は知りたいのね。じゃあ教えてあげようかね?私の知ってることを全てをね?ハハハハハ」

 

「へ?」

 【道化師の天魔】は無駄に甲高い笑い声を上げながら、彼に近づく、近づいて、そのまま間抜け面を晒す彼の頭に自分の指を指した。


 グチョリ


 やけに生々しい音と共に彼の頭に指が挿入された。


 そして彼は理解をしてしまった。

 【道化師の天魔】の知っている全てを。そう文字通り全てを。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。待て待て待て待て待て、この世界はこの世界はこの世界は、どういうことだ?どういうことなんだ。待て待て待て待て待て待て待て待て。じゃあ俺は俺は俺は・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。あ、駄目だこんなの意味なんてないじゃんか。俺に意味なんてないじゃんか」

 そう叫んで彼は息絶えた。


 余りの情報量とその中にあった余りにも救いのない真実に脳みそがやられてしまったのだ。


「フフフ、ハハハハハ、ああ。やっぱりね。この世界の真実には耐えきられなかったかね」

 【道化師の天魔】は笑う笑う。

 心の底から楽しそうに笑った。


「あ?彼が何を知ったのか気になる人がいたらね?教えてあげよね?今はそういう気分だからね?それで知りたい人はお手々を挙げてね~~~」

 無邪気に笑う【道化師の天魔】の発言に対して誰も手を挙げるなんてことはしなかった。

 それもそうだ、気になるか気にならないかで言えばもちろん気になるが、知ったら発狂して死ぬような情報なんて誰が知りたいというのだろうか。

 そもそも論として今現在、意識を保ってるのは皇帝の覇気に耐えられる程度にはしっかりとした実力を持った者達だ。ここで知りたいですなんて言う馬鹿は一人もいなかった。

 それがパンドラの箱、不可侵略のナニカであるというのを重々に理解していた。


「あらまぁね。ノリが悪いだわさね。まあいいや?それじゃあ私は飽きたから行くね。バイバイね」

 【道化師の天魔】は楽しそうに何処かに消えていった。


「ハア、かき乱すだけかき乱して何処かに行きおった。それもまた、【道化師の天魔】だからこそ許された特権というものだな。まあよい、会議を再開するぞ。よいか?」


「「「「はい。もちろんです」」」」

 会議に参加した者の8割以上が気絶している、普通ならば会議やめろよという状況の中、今度こそ会議が始まった。

 


――――――――――――――――


 補足説明

 実は【道化師の天魔】は【読書の天魔】と知り合いで友人だぞ。

 それで【読書の天魔】からこの世界がゲームの世界だと告げられいるぞ。

 その為、【道化師の天魔】の中でこの世界はゲームの為だけに作られた世界であり、本当は何もかもは嘘のまやかしで神の気分一つでリセットされてしまう脆い世界だと認識してしまっているぞ。

 本当は元々この世界が存在していて、この世界を元にゲームが作られているのだが、【道化師の天魔】含め【読書の天魔】もその事実には気が付いていないぞ。


 だから、いきなり、この世界がゲームというちっぽけなものの為に作られて世界だと、自分は神の娯楽から適当に作られて人間だと、この世界は別の世界に存在する人間を楽しませるためだけに作らせた世界だと、そういう普通の人なら知ったら発狂確定って情報をいきなり詰め込まれたバジリスク連合国の外交官はその真実に耐えきれなくなって発狂死したぞ。


 以上。

 補足説明終わり。

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