第157話・外伝・帝国・バジリスク連合の騒乱



「将軍、魔王なんぞの手を組んで大丈夫なのでしょうか」

 とある無駄に豪華な部屋にて、二人の貴族がいた。

 

 一人は豪華なソファーに寝そべり、酒を嗜んでいた。帝国においては伯爵家当主であり、将軍であった。

 ただ、将軍という地位の割にはその貴族本人にはそこまでの高い実力はなく、将軍の地位になれているのは、元々あった家柄とコネ、そして卑劣な手によるところが大きかった。

 いわゆる典型的な物語に出てくる愚者、ないしやられ役である。

 

 もう一人はその将軍の最も信頼する部下であり、将軍補佐をしているとある男爵家当主であった。

 こちらは先程の将軍とは違い、戦略を練るということには高い能力があり、その能力を買われてこの地位まで成り上がっていた。

 ただし、成り上がる際にそれ相応の悪事に手を染めて、賄賂も脅迫も息を吸うのと同じレベルで行っていた。


「まあ、大丈夫じゃろ。我が国には天魔もおるし、利用するだけ利用して、危なそうであれば適当に裏切って殺せばよかろう」


「しかし、将軍、相手はあの魔王ですぞ。文献に記された情報が本当であれば、帝国とバジリスク連合国全ての天魔を動員しても勝てるかどうか・・・」


「ハハハハハ。そんなことはなかろう、所詮文献は文献、どうせ恐怖に怯えた愚者が大袈裟に書いただけじゃろう」


「そうだといいのですが・・・」


「それよりも、お前、バジリスク連合国と同盟、そしてパイの切り分けの方は上手く進んでいるか?」


「はい。それはもちろんでございます。バジリスク連合国からは非常に良い返事を頂いております。これでヤマダ王国の壊滅も間違いなしです。そしてその後の領土においては鉱山地域がある部分を主として3割程が将軍の領土となるように裏工作は済ませております」


「そうかそうか、やはりお主は優秀じゃのう。この領土を足掛かりとして、ヤマダ王国にいる優秀な鍛冶師を奴隷にでもして、今までヤマダ王国から無駄に高い金額でかわされていた武器防具を儂の領土が生み出して販売出来るようにするぞ。グハハハハハ」


「そうなれば公爵の地位は将軍に約束されたようなものですね」


「何をいっておる。当たり前じゃよ。儂が公爵にならなくて誰が公爵になるというのだ。グハハハハハ」

 上機嫌に笑って手に持ったグラスを一気に煽る将軍。


 その瞬間だった。


「グハ」


 将軍の口から血反吐が出る。


 「将軍、だ、大丈夫で、いやまさかこれは」

 慌てて将軍の元に駆け寄ろうとして、彼は気が付いた。

 暗殺の可能性に。


 その瞬間にまずはこの場から逃げなくてはと考えて、将軍そっちのけで、部屋から出ようとする。


 しかし、彼は気が付いていなかった。自分のすぐ後ろ、首の付け根の部分に一匹のネズミがいることに。


 グサッ


 彼の首からナイフが生えて、そのまま重力に従って首が落ちた。


「任務完了だチュウ」

 全てを終わらせた一匹のネズミは満足そうにそうに呟くと、次のターゲットを探して走り出した。

 

 

 









――――――――――――――――








 その日は帝国とバジリスク連合国において最も呪われた日となった。


 何があったかといえば、凄くシンプル。


 過激派の貴族や大臣がほぼ全員暗殺されたのだ。


 ある者は毒殺、ある者は刺殺、ある者は圧殺、ある者は撲殺、ある者は呪殺、ある者は出血死、ある者は溺死、ある者は焼死、非常に多岐に渡る方法で暗殺されたのだ。


 この異常事態に帝国とバジリスク連合国はすぐさま緊急で会議を開き、犯人を特定する為の調査本部を設立した。

 調査本部は様々な方法を使い、犯人を捜した。


 例えば死霊魔術師を利用した、一時的に死者の怨霊を呼び出して犯人を特定する方法や。

 例えば時空魔法を利用して、死んだ時間を割り出して、そこからアリバイのない者を探す方法や。

 例えば探知魔法を使い犯行に使われたであろう凶器や毒物を探し出す方法や。

 例えば自白魔法や呪魔法を使い、少しでも疑わしい物を片っ端から調べて真実を吐かせる方法や。

 例えば今回犯行に使用された毒物や凶器から犯人に関する何かしらの証拠がないか調べ上げて犯人を特定する方法や。

 例えばもしかしたらヤマダ王国からの刺客という可能性を考えて、人海戦術で国内全域を調査する方法や。

 例えば暗殺の天魔による犯行と考えて、暗殺の天魔を探し出して、天魔を動員して犯人であるかどうか、無理やり自白魔法をかけて確かめる方法や。

 例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば・・・・・・・


 しかし、結局何も分からなかった。


 そう何も分からなかったのだ。


 調査本部はひたすらにどこまでも果たしなく様々な可能性を考慮して魔法を使い人を使い、犯人を捜した。


 だけど、犯人を特定することは出来なかった。


 それもそのはずであった。


 何故なら犯人はネズミであるのだから。


 それもただのネズミではない、グレンの眷属であるネズミ眷属であった。

 ネズミでありながら人間並みの知能と一流クラスの魔法を行使し、グレンに対して常識的に考えて有り得ないと断言できるレベルの絶対的な忠誠心を持ち、命令を忠実にこなすネズミである。

 そんなネズミが暗殺者となっていたのだ。


 一体誰が気付けるだろうか。


 更に言えばネズミ眷属の暗殺方法は多岐に渡っていた。


 グレンからの命令通りバレないように暗殺をする為、敢えて様々な殺し方をすることで、犯行を分かりにくくさせていたのだ。


 例えば空間魔法を使用して対象者の肺に直接水を転移させて溺死させた。

 例えば空間魔法を使い油をまいたうえで火魔法を使い、屋敷諸共全部を燃やし尽くして焼き殺した。

 例えば食事にこっそりと致死性の毒を混ぜて毒殺した。

 例えば天井にぶら下がっていたシャンデリアを切り落としてし、圧殺させた。

 例えば隠密魔法を使ったり、変身魔法を使い極限まで、影を薄くしたり、体を1センチ以下まで小さくしたうえで体に上りナイフで心臓を突き刺して刺殺した。

 例えば呪魔法を使い、呪い殺した。

 例えば風呂に入っている途中に睡眠魔法で眠らせた上で手首を切り、出血死させた。


 かつて、こんな無駄にバリエーション豊富な暗殺があったのだろうかという言葉すら浮かんできそうな状況。


 かくして、帝国とバジリスク連合国はどれだけ探しても暗殺者を見つけられることはなく、次は自分が殺されるのではないかと言う恐怖に怯えることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る