第141話・第一王女(一騎当千の英雄・二つ名は狂乱の悪魔)可愛らしい少女に脅されて屈する
「やあ、久しぶりだね。ヤマダ王国第一王女・キョウカ・テンペスト・ヤマダよ。突然だが。この国の王になるつもりはあるか?」
「お前は、カレーヌ騎士団長、丁度良かった。さっき殺した盗賊が弱すぎて戦いに飢えてたんだ。俺を満足させてくれ」
とある村から町へと戻る途中、いきなり現れたカレーヌに対して第一王女はさして驚く様子を見せず、むしろ、殺意を漲らせ。これ幸いと彼女に襲い掛かった。
その行動は戦闘狂そのものであった。
だけど、相手は【察知の天魔】であるカレーヌであった。カレーヌにとってみれば第一王女がいきなり襲い掛かってくるという事象含め、どの位置に攻撃をするかというのを察知するのは容易なことであった。
だからこそ最小限の動きで攻撃を躱す。
「う~ん。想像以上に戦闘狂だね。普通いきなり襲うか?旦那様のお姉さまだし多少の手加減はするけど。これは一旦ボコボコにされないと分からないようだね?」
その瞬間、カレーヌの姿が第一王女の目の前から消えた。
否、カレーヌが第一王女の死角を察知して、そこに移動したのだ。
ドン
ドン
鈍い音が2回鳴る。
第一王女が宙を舞う。剛剣は手から離れていた。
完璧な意識外からの攻撃、それもまずは剣を落とすための手への攻撃と、体を宙に舞わせた胴体への攻撃の2撃であった。
ただ、そこは英雄レベルの化け物、空中で一回転をして綺麗に着地をしようとするが、それを許す程カレーヌは優しくない、その行動もまた事前に察知して、着地位置にて剣が振るわれる。
ドン
また鈍い音が鳴り、今度は転がる第一王女。
そこにあったのは圧倒的な力の差。
覆しようのない天魔と英雄の差であった。
「さて、まず一つ良い事を教えてあげよう。天魔にすら至ってない、小娘が私に勝てると思っているのか」
一応言うが、第一王女は弱くはない、英雄レベルの力を持った化け物であり、少なくとも身体能力という面で見れば天魔であるカレーヌとそこまでの差はなかった。
だけど、相手は天魔である。
戦闘型の天魔ではないにしろ、天魔とその他では天と地ほどの差があるのは当たり前の話であった。
「いいねいいねいいねいいね。久しぶりに格上とあったぜ。俺を楽しませろ」
ただ、第一王女は戦闘狂であった。
それはもうどうしようもないくらいに戦闘狂であった。
今の自分では勝てないと分かっていても立ち上がる。
その目は闘志に激しく溢れていた。
「ハア、これは何を言っても無駄だな。気絶させて王城まで連れて行きますか」
また、カレーヌが第一王女の死角を察知して潜り込み攻撃をしかける。
完璧に一撃であった。
ただ、第一王女はそれを勘だけで予想して攻撃を避ける。
極論を言えばまぐれ、運のようなものであった。ただ、それでも攻撃を避けたという事実には変わりなかった。
その事実にカレーヌはうろたえる、とかは一切なかった。まるで避けられることを事前に察知してたかのように、否、察知していたから、再度死角に潜り込み攻撃を仕掛ける。
ドン
鈍い音が響く。
ただ、身体能力でいえばそこまで差のない二人、第一王女は気合で攻撃を耐えて、反撃をしかける。
それもまた事前に察知していたカレーヌにかわされて、蹴られる。
そこからは一方的であった。
第一王女は反撃すら出来ぬままカレーヌに殴られ蹴られる。
やがて体力を減らしていき気絶してしまった。
気絶した第一王女を見て、カレーヌはため息を一回吐く。
「ハア。思いの他疲れた。全く手を煩わせやがって。まあ旦那様のお姉様なんだし、それもそうか。さてと、じゃあ城に運びますか」
――――――――――――――――
「あれ?ここはどこだ?」
第一王女は目を覚ます。目に入るはやけに豪華なシャンデリアと装飾品が目立つ高そうな知らない天井であった。
「私は確か、ボコボコにされてって、あれ?痛くない」
今の自分の状況を把握しようとして気が付く。自分の体に一切痛みがなかったのだ。慌てて服をめくり、体を触るが、痛みもなけれも傷が一切ない、綺麗な肌がそこにはあった。
そう、傷が一切ない綺麗な肌があったのだ。
第一王女は戦闘狂である。
10歳の頃から戦場に出て、それから10年以上戦場で生き抜いて来た。
今でこそ英雄レベルの力を持ち、傷を負うことなんてないが、昔は何度も死にかけ、体にはその時に古傷がおびただしい量刻まれていた。
なのに、それが一切なかったのだ。
綺麗な肌になっていたのだ。
意味が分からなかった。
「あ、おはようなの」
ふいに声をかけられる。
隣を見ると、見た目おそらく10歳もいってないくらいだろうと思う、一人の少女が椅子に座っていた。服装は高そうながらも丈夫そうで可愛らしい学生服であり、少女の側にある机の上にはそこまで難しくない計算問題が記されているノートと筆記用具が置いてあった。
どう考えても何処かの学園に通っている貴族令嬢であった。
ただ、何故か、恐怖が止まらなかった。
何処からどうみてもただの子供だ。ただの少女だ。
自分にとってみれば取るに足らない存在の筈だ。
なのに、強者の勘が今まであった存在の中であの化け物の中の化け物といっていい、グレンに次ぐ化け物だと盛大な警告を鳴らしていた。
少なくともさっき無様にも負けてしまったカレーヌ騎士団長よりもこの少女の方が強い。
そう断言出来た。
断言出来てしまう何かがあった。
だけど、まだグレンと違って戦いが出来そうな存在ではあった。
グレンは強すぎて戦いにすらならないから敵としては駄目だ。
だけどこの少女とは戦いになる。勝てる可能性がある。自分が楽しめる。
この少女が何者で自分の状況がどういうことなのかなんてのはどうでもよかった。
ただただ、戦いがしたかった。
かくして剛剣を持ち、少女に襲い掛かる。
都合のいいことに剛剣はベットの側に立てかけてあった。
「私と戦え~~~~~~~~~~~」
そう叫んで気が付く、体が動かなかった。
否、動けなかった。何か見えない鎖が自分を拘束していた。
「う~ん。カレーヌお姉ちゃんから聞いてたけど、思った以上に野蛮なの。ご主人様のお姉ちゃんだから許すけど。普通だったら殺してるなの」
「お前は、お前は一体何者だ」
「何者って?ナナはナナなの。ご主人様のメイドのナナなの」
「ご主人様だと。・・・まさかグレンのことか?」
「当たり前なの。ナナのご主人様はご主人様だけなの」
「そうか。そうだったのか、全くもって私の弟は本当に気味の悪い化け物だな」
第一王女からしてみれば僅か12歳にて天魔の中でも最強と言える力を持ち、17歳にして新しく天魔に覚醒した&親と子ほど年が離れていると思うイトとカレーヌを妻にして、今、目の前にいる天魔である少女にご主人様と呼ばせている。
姉として、それはまあ気味の悪い化け物と思うのは当然のことであった。
「何を言ってるなの?ご主人様は気味の悪い化け物なんかじゃないなの。とっても優しいご主人様なの。だから余り舐めたことを言ってると地獄を見せるぞ天魔にすら至れてない雑魚が」
第一王女にとっては何気ない言葉であった、あったのだが、それはナナの逆鱗に触れた。
ナナは可愛らしい少女であるために忘れがちだが、その本質はたった一人で天魔以上の力を持つ魔王を討伐した勇者である。
くぐり抜けた死線の数も戦った強敵の質も、根本的な強さも、せいぜい英雄レベルの力しか持っていない第一王女とは2つ程次元が違った。
そしてナナはある意味で第一王女よりも倫理観に欠けていた。その本質にあるのは依存と狂気。グレンという自分の全てを救ってくれた存在への圧倒的な依存とグレンと一緒にいたいという狂気であった。
ナナにとってグレンとグレンの眷属以外は全て路傍の石であり、道端にある花草と変わらなかった。
だからこそ、素がでた。あり得たかもしれない未来の一つとしてある【復讐の天魔】になるナナの素が。
「ひぃ、ご、ごめんなさい。わ、私が悪かったです」
天魔であるナナの本気の殺気。
たかが英雄レベルの力しか持っていない第一王女からしてみればそれは死を錯覚させられる程の力を持っていた。
「分かればいいなの。さて、じゃあ、ご主人様からの伝言なの。父上が逃げたから姉上が今日から王様ね。以上なの」
余りにも余りにも簡素な内容であった。
「ちょっと待ってくれ、いや待ってください。俺が国王?父上が逃げた?何の冗談ですか、一体どういう」
「うるさいなの。いいからやれなの。返事は、はいだけなの」
ナナの可愛らしい声、特に殺気とかは感じられない凄みもない。
ただ、ナナの圧倒的な力を見た直後の第一王女にとってみればその言葉は下手な悪魔よりも悪魔な言葉であった。
とどのつまりどういうことかというと、第一王女の取れる返事は「はい」のみだったということである。
「は、はい。精一杯頑張らさせていただきます」
かくして第一王女は訳も分からないまま、自分の半分の年齢しかないような少女の脅されて国王をやることになるのでした。
めでたしめでたし
―――――――――――――――――
第一王女が普通に可哀想に思えてくる不思議。
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