第45話・勇者パーティー最強の実力者

「取り敢えず。人避け結界発動。さてこれで邪魔者は入らないかな?まあ誰かに見られたら面倒だしね?」

 何をするにしても証拠隠滅手間とかを考えて人避けの結界を張る。まあ面倒事とかを考えたら当たり前だな。


「誰かに見られたら面倒だと?もしかして僕を殺すつもりか?」

 殺すってのは後処理が面倒だから嫌だな。無難に記憶消滅か契約で縛るとかが楽だな。


「さあ。どうしようかな?まあでも、殺したら面倒だから殺すつもりはないよ。でもこのまま放置っていうのは。何も見なかったことにした上で俺の魔法で契約に縛られるのならばこのまま逃がすよ。もちろん契約って言っても俺のことを他言無用って内容だけだから」


 これに乗ってくれたら一番楽なんだがな。多分乗らない気がするな。


「それは困るな。僕は誰かに縛られるのが好きじゃないんだよ」


 断られてしまった。まあしょうがない。予想通りって奴だ。無難に記憶消滅でケリをつけるか。


「そうか。じゃあ。しょうがない面倒だが。少し記憶に空白が出来ると思うが今起きた記憶を消滅させて貰う。部分記憶消滅」


 パキン


 何かに反応して俺の放った部分記憶消滅が消滅する。

 あれ?何故だ?

 一応天魔の力だし防げるのは同じ天魔もしくは神器ぐらいなのに。

 天魔の可能性はネズミ眷属の報告等を考えてゼロだと思うから。神器持ちということか?いや神器持ってるって報告なんてきてないが。でもそれしか考えられないしな。


 でも神器か。

 それがどんな形をした物なのか。そしてどんな効果の物なのか分からない限り対象は少々面倒だな。どうしようか。

 取り敢えず軽く攻撃をしてみますか。


「風魔法・風刃」


 俺は何百という風の刃を生み出してカゲウスに向かって攻撃させてみる。

 一応俺の莫大な魔力を使っているから普通の人に当たったら即死レベルの攻撃だ。

 さあ。どうでる?


「影魔法・影潜り」

 かなり珍しい影魔法を使い影に潜るカゲウス。


「影に潜って回避か。なるほどいい手だな。じゃあこれならどうだ。光魔法・光天」

 俺はあたり全てに光を出現させて、近くにある影を全て消滅させる。


「影を消したか。ならば。これならどうだ」


 バシュン


 カゲウスが何処からともなく白色の球を取り出して地面に投げつける。

 するとあたり一面が白色の煙で覆われる。


 普通の人ならば視界が不鮮明となりピンチだろうが。まあ探知能力を持った俺にとっては関係なしだ。


 そんなことを考えていたら音もなく毒の塗られた短剣が5本俺に襲い掛かってきたが。全てに自動消滅の効果で消滅される。


「おいおい。いきなり毒付きナイフとは物騒だな。取り敢えず煙は邪魔なんで消滅しろ」


 消滅の力は問題なく発動されて白色の煙はすべて消滅し元の景色に戻る。


「魔法付与・死、死の矢をくらえ」


 元の景色に戻ると同時に俺の目の前で弓を構えていたカゲウスが耐性がないものに当たれば即死の矢を放つ。

 当たり前だけど自動消滅する。


「なんて出鱈目な力だ」

 カゲウスからボソッと小さな声が出る。


 その声は明らかに恐怖に満ちていた。

 まあ。そうだろうな。桁外れた魔力に何をしても攻撃すべてが消滅して煙すらも消滅するような化け物だからな。それは怖いわな。


「でも俺からしてみれば世界最強の俺に対してここまで善戦出来ている。お前の方が凄いと思うぞ。いやはや天魔じゃないのによくやるね」


 俺にしても珍しく相手を褒めた。 


 実際にそれくらい凄いと思ったんだ。用意周到でネズミ眷属にも悟られぬように神器を隠し持ち。状況判断にも優れている。

 その証拠に俺に絶対に敵わないと悟ったのか。今現在逃げ出そうと隙を伺っている。まあ逃がさないけど。


「虚無結界発動。この瞬間にこの空間は俺の虚無の力で隔離されて無理に出ようとしたら何処かの異次元に飛ばされるか虚無の彼方に飛ばされるようになった」


 せっかくなので最近手に入れた虚無の力を発動させて俺とカゲウスを含むこのベランダ全域を覆ってみた。意外と力の消耗を感じるがまあ許容できる範囲だ。


「どうやらそうみたいだな。この結界内にいるからか。どれだけお前が強い力を持ってるのかよく分かる。そして今の僕だと逆立ちしても勝てないのもな。でも僕は用心深いのだよ。今ほど僕の用心深さに感謝したことはない。神器・グングニル、神器・アサルトス発動・我を別の空間に転移させよ」


 カゲウスは懐から大きな槍と小さな短剣を取り出してそう叫ぶ。

 その瞬間に体が光り輝きどこかに転移する前兆を見せた。多分このまま放っておいたら転移して逃げられるだろう。

 あの二つの神器の効果が本で読んだ通りならばな。でも相手が悪かった。


「効果消滅」

 俺がたった一言そう呟くだけで。

 カゲウスの体の輝きは消えた。


「取り敢えず何でお前に俺の能力が効かなかったか分かったわ。神器・グングニルの効果で全ての精神系統攻撃の無効化が付与されてるんだな。まあ。その代わりに物理系統や魔法系統の攻撃のダメージが2倍になるけど。それも攻撃が当たらなければノーリスクだしな。納得したよ」


 俺は大分前に真希から貸して貰って読んだ。神器大百科の内容を思い出しながらそう言う。


「ああ。その通りだ。僕の負けだ、煮るなり焼くなり殺すなり好きにしな。ただ。最後に一つ質問いいか?お前の目的はなんだ?」


 死を覚悟したって感じの言葉を吐いてくるカゲウスだが。目は死を受け入れていない抵抗をしようという生への執着に溢れている熱き目だった。


 その目、俺は嫌いじゃないな。


 多分。まだ何か手札を隠し持ってそうだ。絶対に時間稼ぎをしてるな。

 いいね。用心深くて用意周到だね。俺には足りてない部分だ。


 そうなるともしかしたらカゲウスはナナと偽物勇者について気が付いているんじゃないか?俺相手にここまで善戦出来たんだ。面倒をかけさせたんだ。

 そんな人間が簡単に洗脳されるとは思えない。


 少し聞いてみるか。


「なあ。もしかしてお前はナナって人物を知っているか?」


「な。何故それを知っている」


 今日一番の大きな声でカゲウスが驚いた。お、どうやらビンゴのようだ。


「じゃあ。お前今の勇者が偽物勇者で。パーティーメンバーの女魔術師が洗脳の天魔だってのも知ってるのか?」


「ああ。知っている」


「おお。そうかそうか。じゃあお前も俺の眷属にならないか」 


 俺はカゲウスを眷属にしようと考えた。


 用意周到で用心深い所は面倒くさがりの俺に足りていない要素の一つだ。

 それにいくつもの神器を保有し。俺と戦う際も圧倒的に格下にも関わらず生き延びた。そして生に対する執着心もいい。諦めない心も持っている。


 俺が圧倒的な力を見せつけても逃げようと生き残ろうとしたからな。そこも結構ポイント高い。


 それに丁度ネズミ眷属達のまとめ役が欲しいと思ってた所だ。

 カゲウスはその条件に当てはまっている。

 能力等も考えて俺が眷属にすれば天魔に至るだろう。


「眷属か。それは嬉しい相談だが。断らせて貰うぜ。僕は誰かに縛られるの嫌いなんでな。神器・時戻しの宝玉発動・俺の持つ魔力と生命エネルギーを対価に30分前に時を戻したまえ」

 なるほど、それが切り札か。しかも時戻しとはな、普通の天魔ならば簡単に逃げれただろうし、場合によっては時戻しによる実質的な未来予知を使い、先手を打って天魔すらも殺せるかもな、ただ、相手が余りにも余りにも悪すぎた。


「効果消滅」

 俺の消滅の力の前にはたかが神器程度、意味など一切なかった。


「は?今のが消滅するだと」

 カゲウスの額に汗が走る。万策尽きたかな?


「まあそういうことだ。にしても時戻しの宝玉とは良い神器を持っているな。なるほど切り札に相応しい手札だ。でも俺には通用しなかった。俺じゃなければ逃げれたのに」


「そうだな。・・・・・・さっきの眷属になるという話は有効か?」

 勝てないと悟ったか。判断が早いね。


「ああ。もちろん良いとも。でもそうだな二つ質問いいかい?」


「なんだ」


「俺に忠誠を誓えるか?そして縛られたくないと言っていたが。何故勇者パーティーに縛られていた」


「一つ目の質問だが。答えはノーだ。それは難しい。僕はお前を恐怖の対象として見ていないからな。二つ目の質問は妹の為だ」


「妹の為?」


「ああ。そうだ。俺の妹は今から12年前に謎の病に倒れてそこから死んだように眠り続けてしまった。俺はそんな妹の病を治すために家を出てダンジョンを巡り幻の霊薬エリクサーを探した。けれど見つかるのは神器ばかり。それでも諦めずに探していた時にある噂を聞いた」


「もしかして全てを治癒する聖女のことか?」


「ああ。そうだ。その通りだ。全てを治癒する聖女こと。勇者パーティーの回復魔法使い。聖女・エミラスの噂をな。僕は居ても立っても居られずに彼女の元に向かい。助けを頼んだ。そして帰ってきた答えはなんだったと思う」


「え?分かりました。向かいましょうじゃないのか?」


「いいや。違う。魔王退治が終わってから向かいますだ。笑ってしまうよな。確かに魔王退治は大切だ。でも俺には妹の方が何百倍も大切だった。だからお金はいくらでも出すからと言って頼み込んだが、魔王退治が先だの一点張り。しょうがないから俺自ら魔王退治に参加して、少しでも早く妹に回復魔法をかけて貰うとしたわけだ」


「なるほどね。納得した。それで勇者パーティーに入ってたのか」


「ああ。そういうことだ」


 ・・・・・・・・・・


 少し沈黙が流れる。

 俺は薄々とあることに気が付いてしまった。


「妹は治らなかったのか?聖女の回復魔法でも」


「ああ。そうだ。よく分かったな。治らなかったんだよ。全てを治癒する聖女様の力でもな。でもな。ああああああああああああああああ。クソがあああああああああああ。何で治らないんだよ。何で妹は助からないんだよ。妹が何をしたってんだ」

 そのまま泣き崩れるカゲウス。


 なんか凄く可哀そうに見えてきた。

 でもこれは逆にチャンスだ。俺がカゲウスの妹を治したら忠誠を誓ってくれるのではないか?


 何。俺には全ての光に忠誠を誓わせて操ることの出来る【忠光の天魔】ナナとどんな病気だろうが消滅出来る【消滅の天魔】である俺がいる。


 滅茶苦茶に面倒だがやろうと思えば死者蘇生だって出来る。


 うん治せそうだな。


「分かった。じゃあ。お前の妹の病気治してやるよ」


「本当か?もし本当に治ったのならば。僕は貴方に。いえ、貴方様に永遠の忠誠を誓います」

 カゲウスはそう言って俺に跪いた。


―――――――――――――――――――――

補足説明

 神器の能力等を考えると天魔ではないものの天魔に匹敵する力を持っています。

 ぶっちゃけ勇者パーティーの中で一番強いです。主人公の眷属にならなくてもじきに天魔に覚醒をしていた可能性があります。

 それくらいの才能に溢れてます。まあ、天魔に覚醒する為には幾つか条件がありますが。


 因みにかなり用心深い性格の為に自分の持つ神器は基本的に隠しています。

 その為グングニルの力を使って精神干渉を防いだりしているので。それを誤魔化すために常に精神守護の宝玉を持ち歩いています。

 他にも神器を持っていてそれを隠すためのアイテムを持ってたりしてるのですがそこら辺は後々紹介すると思います。多分。

 ・・・・・・・・・多分。

 

 ―――――――――――――――――――――

 ライトノベルの主人公になれるポテンシャルを持った存在。それがカゲウスです。


 面白いと思って頂けたら嬉しい限りです。

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