第25話・新たなる天魔とご主人様
聖なる光がこの国を覆った。
それは、圧倒的な光だった。ありとあらゆる悪しき存在を拒む清らかな光。
それは魔物という魔物を滅ぼす破邪の光。
それは人の心に巣食う悪しき心すらも癒すような癒しの光。
それは見る者を自然と跪かせるような神の光だった。
「わお。これはまた、やらかしたね」
俺は眷族にした薄汚れた少女の真なる力と眷族化によって強化された力を超至近距離で感じ。そう呟いた。
まあ。ようは、新しい天魔の誕生だ。
それも光という光を操り。その光を使って人を癒すことも。光を使って人を攻撃することも。光を使って人の精神に影響を及ぼすことも。かなり多種多様な事が出来る、天魔の中でも非常に強く数の少ない万能型の天魔が誕生したのだ。
一切の冗談抜きで、やりようにもよるが、この少女は聖教国を一人で乗っ取る、ないし滅ぼすことの出来る化け物になった。この少女にはそれだけの力がある。
ハア。何だろう。恐ろしい爆弾というか傾国の少女というか聖女というか。何というか。まあ。何はともあれ絶対にこれはヤバいだろ。
何がヤバいって覚醒する時にこの国全体を聖なる光が覆ったことだ。
まあ、ここにいる金持ちやら貴族共はこの少女が聖なる光を放ったことに気が付いてないだろうが。一部実力者や聖職者は確実に気が付いてるだろうな。
この少女の事は特定出来なくても。この辺りで聖なる光が出たってのは分かるだろうな。特に我が国にいる【探知の天魔】は絶対に気が付いてるだろうな。そんでもって確実にこのことを父上に連絡するだろうな。
まあ、厄介ごとの匂いしかせんわな。
「あのう。ご主人様ありがとうございます」
少女が非常に可愛らしい上目遣いで俺にそう言ってきた。
そうしてよく見て気が付く。この少女がメチャクチャに可愛らしいということに。
全体的に白くシミ一つない綺麗な肌。
髪は金色で長く伸びており非常にサラサラしている。
眼は黒色で非常に美しく、吸い込まれそうになる。口元も何処か男の保護欲をそそるような、もじもじっとした感じで、鼻も少し小さい感じで全体的に凄く整っている。
美しいではなく可愛らしいだ。
超絶可愛らしいだ。
多分これ服を着替えさせて顔に着いた汚れを落としたら姫様ですって言って通用するレベルだ。
「あのう。ご主人様?」
「ああ。ゴメンゴメン考え事をしてたよ。さてと、取り敢えず名前を教えてくれるかな?いつまでもお前って呼ぶのはおかしいしな。あ、一応言っておくけど俺の名前はグレンだ」
「グレン様って言うのですか。ご主人様。あ、私の名前はナナです。これからよろしくお願いします。ご主人様」
ご主人様って呼んでくるの可愛い過ぎんか。辛い。可愛すぎて辛い。マジ辛い。
「そうか。ナナって言うのか。これからよろしくな。取り敢えず喉は乾いてないか。乾いてるならこれを飲むといい」
土魔法を使って即席でコップを作ると。水魔法を使い水を生み出して注ぐ。
「あ、ありがとうございます」
ごくごく
小さく可愛らしい手でコップを掴み水を飲むナナ。
ただ、その指をよく見ると豆だらけで、その豆もまた潰れたような感じでごつごつとした感じになっていた。
多分剣を握ってずっと戦ってきたからだろう。誰からも感謝されることなくたった一人で数多の魔物と魔族と。そして魔王と戦い倒した手だ。
にも関わらず、聖教国に裏切られ、家族を殺され村の皆を殺され、力を奪われ、勇者としての地位も奪われた。
自分の行い全てを乗っ取られ。自分という存在が無かったことになった存在。そしてたった一人異国の地を彷徨い呪いによって倒れてしまった存在。
ああ。なんてなんて救いがないんだよう。そしてなんて可哀想で悲しくて辛いんだ。
俺は気が付いたらナナを抱きしめていた。
「ナナ。もう何も心配しなくていい。これからは俺がずっと守ってやる。ナナの今までの努力も行動も俺が認めてやる。だから泣きたかったら泣いていいぞ。ナナはよく頑張った。ナナが魔物を倒して魔族を倒して魔王を倒した。本当の英雄だと俺は知っている。この世界の誰もが信じなくても俺が信じてやる。だから楽しく怠惰に生きようぜ」
「ご主人様、ナナはナナは頑張りました」
俺の服を掴みながら泣き出すナナ。俺はそっと頭を撫でてあげる。
「ああ。そうだな。頑張った。ナナはよく頑張ったよ」
「ナナは何度も死にかけながらも一人で魔物と魔族と魔王と戦いました。皆を守るために頑張りました。勇者として頑張りました」
「ああ。そうだな。ナナは頑張った。そして魔王という脅威にさらされた聖教国を救った英雄だ。勇者だ。だからこれからは楽しく怠惰に生きてもいいんぞ」
「ナナはナナは楽しく生きてもいいのでしょうか?怠惰に仕事もせずにグウタラ生きてもいいのでしょうか?ナナは勇者であるはずなのに」
「ああ。いいさ。別に今のナナは勇者じゃない。勇者は第五皇子だ。だから勇者としての責任とか一切負わなくてもいいんだ」
「ナナはナナは楽しく怠惰にグウタラな生活をしてたいです。ご主人様と一緒にずっと楽して生きたいです」
「ああ。もちろんさ。ナナにはその権利がある」
「ご主人様、ご主人様、ご主人様、本当に本当にありがとうございます」
ナナは泣きながら俺に抱き着いてきた。その手はとても力がこもっていて、絶対に俺を放さないという強い意志が感じられた。まあ、天魔の力なんで普通の人なら即死してるレベルの抱きしめるだが。俺にとっては可愛いもんだ。
俺はそっと優しく抱き返して頭を撫でてあげる。
「そうか。そうか。取り敢えず思う存分泣け。泣いて泣いて、心の整理が出来たら俺がご飯を作ってやるから一緒に食べような。これでも俺は超一流レベルで料理上手いぞ」
「それは。凄く楽しみです」
ナナはその日一番の可愛いらしい笑みを俺に向けて嬉しそうに笑った。
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