第24話・本屋と呪われた少女

 俺は今、一人で本屋に向かっている。

 イトはもちろん一緒に行きたいと言ってきたが、俺が断らせた。


 何故なら本屋とは一人で行くものだからな。


 俺は非常に怠惰でグウタラな人間だ。でも人並み以上の知識欲があり。楽しい物語とかが凄く好きだ。そういった本は読んでて楽しい。本当に楽しい。


 特にベットに寝ころびながらグウタラと読む本は控えめに言って神の領域だ。それこそが俺の至福の時間の一つであり、怠惰なグウタラ生活には必須である。


 だって。そうだろ。流石にずっと一日中寝て起きて飯食っての生活は飽きるわ。いや、まあ1ヶ月くらいだったら大丈夫だけどそれが何年となると絶対に無理だ。

 グウタラしたいが楽しいこともしたいのだ。そんでそれに本は最適であり。最高の物だというわけだ。

 そしてその本を選ぶのも、また至極であり。とても楽しい一代行事だ。


 そんわなけで俺は一か月に一回お小遣いを片手に王都最大の本屋に行き本を大量に買い漁るのだ。


 もちろん本は貴重品であり少々値は張るのだが。一応王族であるので国王もとい父上から庶民から見ればかなりの大金を毎月貰っているので問題なく買えていた。


 ただ、それでも幾つか値が張って買えなかった本はあったのだが。今日はイトが天魔になったおかげで俺のお小遣いも100倍になったからそれはもう大量に買える。今まで買えなかったプレミアム本がそれはもう買いまくれる。


 ああ。凄く凄く楽しみだ。最高の気分だ。ここまで気分が高揚したのは久しぶりだな。


 一人で本のタイトルを見て中身を想像もとい妄想しながら買いあさるのを。新しい作者の作品に少し不安を感じながら買うドキドキ感を。好きな作家の好きな作品の新刊を買うあの高揚感を。

 ああ。実に楽しみだ。

 そんなことをウキウキのワクワクで考えながら歩いているとあっという間に本屋に辿り着いた。


「これはこれはいらっしゃいませ、第五王子様」


 俺が来店するや否や店主が手をそれはもう凄い勢いで擦りながら寄って来た。

 それはまあ、毎月大量の本を買ってくれるお得意様なんである意味当たり前かもしれないが正直ウザイというか面倒である。


「そういうのは止めてくれ。面倒だと言っているだろ」


「いえいえ。そんなわけにはいきません。この国の王子であらせられる。第五王子様を蔑ろにするなど。そんな恐れ多い」


 おい。最初の頃は何もしてこなかっただろ。ハア。でもここが一番品数多くて色んな面白い本が置いてあるんだよな。


「まあいいや。取り敢えず俺の予約していた本は届いてるか?」


「はい。もちろんでございます」


「オッケー。じゃあ今から適当に探すから邪魔するな。邪魔したら帰る」


「わ、分かりました。決して邪魔しません。思う存分探してください」


 俺の帰るという脅しが効いたのかサッと頭を下げて身を引く店長。うん。これで一人でゆっくりと探せる。

 さあ、見て行きますか。


 1時間後。


 控えめに言って最高でした。

 本当に読みたい本がいっぱい見つかった。

 それに普段なら買えないプレミアム本も長編小説も一気買い出来た。マジで素晴らしい。お小遣い100倍サマサマだ。まあ、そのお小遣いは全額使ったわけだが。多分普通の家庭の年収の100倍くらい使ったな。


 中々に金銭感覚狂ってると思うが、まあいいだろう。どうせ俺のお小遣いだ。


 ああ。今から城に戻って読むのが非常に楽しみだ。


 そんわなけで万能の天魔としての力を使い。空間魔術を発動させて買った本を全部異空間に仕舞った後、俺は店を出た。

 店を出る際は店長と店員総出で頭を下げていて。少し面倒に感じたが。まあ今は良い本があったから良いだろう。今なら何でも許せそうだ。


 そんなわけで欲しかった本が大量に買えた俺は一人ウキウキ気分で城への帰り道をスキップしながら駆けていた時だった。


 一人の少女が道端で倒れていた。


 通行人はそれを全て無視している。まあ、無理もない。

 その少女はかなり汚れたローブを身に纏い、明らかにスラム街の住民、もしくは何かしらの事情で他国から逃げてきた流浪人にしか見えなかったから。


 まあ、もちろん。これがスラム街で倒れてたら。速攻で身ぐるみはがされて奴隷として売られそうだし。そこが一般人の多い露店通りであれば。ワンチャン親切な人が助けてあげたりもしたかもしれない。


 ただ。今少女が倒れているのは王都の中心部である貴族街にかなり近く裕福層や貴族を対象に店を出している人の多い場所なのだから。


 まあ、貴族街ではないから一般の人、何ならスラムの人だろうと来れるが、まあ基本的にいい顔はされないし。貴族に無礼な事をすれば即処刑だ。


 普通の人は絶対に近寄らない。そんでもって貴族や金持ちは傲慢なんで。平民が倒れていようと基本無視だ。


 警備兵がそのうち処理するだろう。そう思ってるだろう。


 で、まあ、実際にそうだ。


 多分そろそろこの少女の存在に警備兵が気が付いて処理するだろう。処理。ようは火魔法で燃やして灰にした後、適当な場所に捨てるという処理を。


 それは何か胸くそ悪いな。


 クソ。絶対に面倒事の匂いしかない。怠惰な俺だ。ほっとけばいい。皆ほっといてるのだから。なのに見てしまった。気にかけてしまった。考えてしまった。


 ああ。クソ。何故だろうこの少女から目が離せない。まるで運命にでも導かれてるようだ。俺らしくもないって。


 ん?

 ん?

 ん?

 あれれれれれ?

 この少女呪われてないか?


 ・・・・・・・・・・・


 俺は万能の天魔として天魔レベルではないものの超一流レベルでありとあらゆる全ての事柄が出来る。もちろん呪術も例外ではない。というか呪術は消滅の呪いにかかった経験からかなりの練度で鍛えているから多分英雄クラスに使える。


 だからこそ分かってしまった。分かりたくもないのに分かってしまった。

 この少女が呪われているという事実を。


 そして重なってしまった。5歳の時に消滅の呪いに掛けられて苦しんだ自分と。


「ああああああ。クソ」


 道端で俺は叫ぶと少女に駆け寄る。


「名も知らぬ少女よ。生きたいか?」


 もし。少女が死にたいそう願ったら死なせてあげよう。そう思い俺は質問をした。


「い、生きたいです。私は、こんな、と、ころ、で死にたくは、あ、りま、せん」


 途切れ途切れで死にそうになりながらも少女はしっかりと俺に生きたいという意思を表した。

 こうなったら助けるしかないよな。


「分かった。じゃあ助けてやるよ。聖魔法・解呪」


 パリン


 俺の解呪は弾かれた。


 それは余りにも異常なことであった。


 万能の天魔であり、英雄レベルで聖魔法を使える俺の魔法が効かなかった。


 それ即ちこの呪いが天魔もしくはそれに準ずる存在の呪いだということに他ならないのだから。そのレベルの存在がこんな薄汚れた少女に呪いをかけるなんてのは到底想像が出来なかった。


 そして、その瞬間俺は数日前にネズミ眷属から教えて貰った情報が頭によぎる。

 そう。勇者の存在だ。

 だから俺は少し恐れながらも口を開いた。


「なあ。もしかしてお前は勇者じゃないか?」


「は、い」


 か弱い声で帰って来た答えはある意味想像通りであり。ある意味想像を絶する物だった。


「ハア~~~~~~~」


 俺は大きなため息をつく。ため息をつかなければやってられない状況だったからだ。


 それはそうだろう。全てを失った本当の勇者なんて爆弾みたいな存在助け出すとか厄介ごとの玉手箱を抱え込むのと一緒だぞ。


 でもなあ。手を出してしまったんだよな。救おうとしてしまったんだよな。ここで、この少女を見捨てたら絶対に一生後悔するだろうな。


 ・・・・・・・・・・


 そんな後悔背負いたくないな。それはそれで面倒だな。


「ハア。なあ。俺に忠誠を誓えるか?忠誠を誓えるならば俺はお前の今ある苦痛を全て解き放ち。お前の奪われた力も取り戻させてやる。もし復讐したいのであれば俺の迷惑にならないのであれば多少は手伝ってやる。さあ、どうする?俺に忠誠を誓えるか?それも一生の忠誠を?」


 俺は中々に意地悪な事を言った。


 一生の忠誠をついさっきあった男に誓えるかって言ってるんだ。普通は断るさ。でも今の俺の力で少女を呪いから救う方法は怠惰の天魔の眷族化を利用した対象の強制進化による呪いの対象変化を用いた強制解呪しか思い浮かばなかったのだから。


「ち、誓います。だから、私を助けて下さい」


 少女はさっきとか弱い声から一転、まるで最後の力を振り絞ったかのような、それでいてハッキリとして生きる気力を感じさせる声で俺にそう言った。

 これはもう助けるしかないな。


「薄皮消滅」


 流石に汚れている少女にキスをするのは嫌だったので、薄皮消滅で血を出し。血を出した指を少女の口の中に突っ込んだ。

 その瞬間だった。


 聖なる光がこの国を覆った。

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