第8話・外伝・王の悩み

 儂の名前はダラン・アスモート・ヤマダ

 ヤマダ王国の国王じゃ。


 儂は自分で言うのもあれじゃが非常に優秀な人間じゃ。それはもうめちゃくちゃに優秀な人間じゃ。【稀代の名君】と言っても過言ではない程優秀な人間じゃ。


 国王としてその時その時、最も適した判断を下し。この国をより良い国へと導いてきたという確かなる自信が儂にはある。

 戦闘力という面でも英雄クラスの実力があると思うし。儂が国王となってから幾度と災害や外交問題、果ては戦争が起こったりしたが、それら全てを解決させている。

 それこそ歴代の王を遡れば我が国を建国した初代国王であり【創造の天魔】ソウゴ様を除き最も優れていると思う。


 そんな儂じゃが誰にも言ったことのない秘密がある。

 それは戦いが好きということじゃ。


 儂は戦いが好きじゃ。

 もちろん戦争が好きという訳ではない。儂自身が強者と戦うのが好きということじゃ。

 といっても儂は王としてのプライド、いや。王として仕事をせねばならぬので。その思いを無理やり押し込めて我慢しておるのじゃが。


 しかしそれもかなり限界に近い。

 儂は本当は国王なんてしたくはなかった。


 それが偶々第一王子に生まれ、偶々王としての才能があり。偶々その他の王位継承者が儂より劣っていた。 


 そんな偶然が重なり儂は望んでもいないのに王となってしまった。


 本当は一人の人間として、この身一つで剣と鎧を身に纏い戦場で暴れたかった。強者との血沸き肉躍る戦いを求めていた。


 しかし王という立場がそれを許してくはくれない。


 すぐにでも王という職務を投げだしたい欲求に駆られて仕方がないが、それは無理なこと。

 今現在王位継承権を持つ儂の息子である第一王子・アレンと第二王子・グリアは両方とも王として相応しくない。


 いや。アレンは王としての能力はあると思うが。如何せん味方が少なすぎる。国王というのは大変じゃ。信頼できる味方はもちろんのこと。ある程度は仕事の出来る家臣に貴族達を束ねる力もといコネが必要じゃ。

 アレンにはその貴族達へのコネが足りておらん。このまま国王になれば内乱で国が真っ二つじゃ。


 グリアは傀儡過ぎてクズ過ぎて。駄目じゃ。ハア、全く持って何処で間違えたか。教育を出来ることならやり直したいのじゃ。もちろん国王としての仕事で構ってやることの出来なかった儂も悪いかもしれないのじゃが。

 しかし。ハア。全く持って憂鬱じゃ。

 今すぐ国王なんて辞めたい。本当に辞めたいのじゃ。


「国王様。同盟国との鉱山資源の件どうしましょうか?」

 財務大臣からそう声を掛けられて。今起きている非常に大きな問題を思い出す。


 鉱山資源問題。

 我が国での鉱山資源枯渇という大問題。そして神が救いの手を差し伸べるように代わりとなる鉱山資源が見つかったが、同盟国と鉱山資源の権利で対立し。我が国が譲歩するという形で今現在同盟国に不平等な条約を結ばされているという状況。 


 本当に酷い話じゃ。

 本来ならば圧倒的な武力で同盟国を滅ぼしてやりたのじゃが。腐っても同盟国、そんなことをすれば我が国の国際的評判が落ちてしまい。諸外国からの非難は免れない。

 どうするのがいいじゃろうか?


「それと。国王様。帝国から武器が必要とのことで大規模な取引が来ました。どうしましょうか?」

 帝国?儂は少し考える。 


 そしてもしかしたら今の現状を全て解決出来る素晴らしい案を思いついた。


 しかし。そうなると。良い感じの生贄が必要じゃな。

 生贄となったらば。第五王子であるグレン辺りが妥当かな。


 適当に理由を付けつつ、お小遣いなしというのを吊れば、乗って来るじゃろう。

 グレンが死んでも特に問題はなさそうじゃしな。まあ多少良心が痛みはするが。この程度で良心を痛めておったら王なぞやれぬわ。

 それに所詮平民のメイドが母親じゃしな。まあ、そのメイドも死んでおるがのう。

 後は特にグレンが何か優れた能力を持ってるわけじゃないしのう。


 ・・・・・・・・・・


 何かが引っかかる。

 儂の中で何かが引っかかっておる。そして何かを見落としている。いや。忘れているような。なんじゃこの不思議な感覚は儂はどうしたのじゃ?


「あのう。どうしたのですか?国王様?」

「いや、何。少しグレンについて考えておったのじゃ?」


「グレン?ああ、第五王子様のことですか。昔は凄かったらしいですけど、今は何もしない怠惰を極めてますからね。まあ。問題を起こしていない分、第二王子様よりましかもしれませんが」

 財務大臣のその言葉に少し疑問を覚える。


 昔は凄かった?


 何を言っておるのじゃ。グレンが凄かったことなの一度も、でも、確か一部の者がグレンの事を落ちた神童と言っておったのう。

 どういう意味じゃ?おかしい。何かがおかしい。


「なあ。グレンが昔凄かったとわ。どういう意味じゃ?」


「え。何をおっしゃるのですか国王様。第五王子様は5歳の時までは、ほぼありとあらゆる全ての事柄を一流と言っていいレベルで出来、剣と魔法に至っては前騎士団長と前魔法師団長を超える英雄クラスの実力を持っていたそうじゃないですか。といってもあくまで人伝てですし。多少いえかなり盛ってあるかもしれませんが。それでもそのような噂が立つくらいには優れた人だったのでしょう」


 ・・・・・・・・・・・


 そう言われて少し記憶を掘り起こすと、確かにグレンがそのような実力者であり。前騎士団長を剣で打ち負かし、前魔法師団長を魔法で打ち負かした時の様子を思い出す。


 それもたったの4歳という年齢で。


 それは余りにも異常な光景であり。4歳という若過ぎる若さで英雄クラスの実力者と考えると将来的には天魔にすら至るポテンシャルを感じるものじゃった。当時それを見た儂が心から驚き期待したはずじゃ。


 凄いという言葉が生温く感じるレベルの凄いことであり。天才を超えて超天才、いや、神に愛された超天才と言っても過言ではない存在じゃと感じた。


 それなのに。何故か。今は凄いと思えない。そして使えない役立たずの存在と感じてしまう。

 そんなわけがないのに。


 おかしい。凄くおかしい。まるで儂の認知能力が操作されているような。


「あのう。国王様。大丈夫ですか?」


「ああ。すまん。考え事をしていた。そしてもう少し考えさせて貰うのうじゃ」


「分かりました」


 ふと。儂は思う。もしも。もし本当にグレンが儂の記憶の通りの実力を5歳にして持っている存在であれば。もし。グレンがあの事件をきっかけにして力を隠していたのならば。


 そして順調に成長を重ねていたら。

 もしかしなくてもグレンは天魔という領域まで至っているかもしれない。


 これは一つ試してみないと分からないが。しかし非常に可能性は高い。それにもし違っていたとしても怠惰でグウタラなお荷物が一つ消えるだけで我が国の損失はゼロに近い。


 そしてもし儂の仮説があっておれば、天魔という超特大戦力が我が国の味方として増えるということじゃ。

 それはかなり素晴らしい。我が国には天魔は一人しかおらぬからな。天魔が二人になっただけで行える戦略がグッと広がる。何ならグレンにこの国王の座を明け渡してもいい。


 そうすれば儂は晴れて自由の身。何と素晴らしいことじゃ。

 いや、待て本当にそうか。今の話はグレンが味方だったらばの話。

 もしかしたらグレンは敵じゃないか?

 あの事件のこともある。儂はグレンの母親をミスミス貴族共に殺させてしまった。

 あれ?そういえば処罰はどうなった?その貴族の処罰は・・・・・・


「頭が痛い」


 急な頭痛に襲われて頭を抱える。

 何か触れてはいけないものに触れてしまったようなそんな感じだ。これ以上は考えるのを止めよう。儂の勘が止めろと言っておる。取り敢えず一度グレンが天魔かどうか試すとするかのう。


「大丈夫ですか。国王様」


「ああ。すまん。大丈夫じゃ。・・・・・・それと帝国軍の渡す武器にこの手紙を入れろ」

 儂はサラサラっととある文章を紙に書き、財務大臣に手渡す。


「なるほど。そういうことですか。分かりました。しっかりと入れておきます」

 財務大臣は儂の手紙に目を通し、儂のしようとしていることを理解する。


 さてこれで種は撒いた。後は帝国軍からの返事を待った後。適当に第二王子派閥の貴族共に功績というエサをぶら下げて兵を出させるとするかのう。


 まあ、この戦争の内容を表面的に見れば帝国によって侵略された同盟国を救うという英雄的行為だからな。乗って来るだろう。

 多分全員死ぬじゃろうけど。


 さてと。儂の息子グレンが本当に天魔かどうか楽しみじゃわい。

 そして願わくば戦ってみたいのう。まあもし天魔じゃったら瞬殺じゃろうが。


 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。


 笑い事じゃないな。さてと、仕事をしますか。そういえばもう2日も寝てないな。確実に寝不足だ。頭が上手く回ってないのじゃ。でも仕事をしなければ。


「ハア。忙しい。忙しい」


――――――――――――――――――


 国王の説明


 結構この国王は苦労人で幼少期には多々暗殺されかけたりしており、毒を盛られた回数と暗殺者と対峙した回数は100を超えている。

 余りにも周りの兄弟たちが無能だった為に。これに国を任せたら終わると考えやりたくもない国王となる。

 その後異常な数の問題に追われて胃潰瘍になった回数はこれまた100を超えて、その度に自分の治癒魔法で治しだしたから、治癒魔法の熟練度が超一流クラスまでいった苦労人。

 何かもう全てを投げだしたいという思いで胸いっぱいの苦労人。因みに禿げるのが怖いから毎日治癒魔法を自分の頭皮にかけている。これをしないとストレスで髪が抜ける。

 自分の息子達は基本的に国王の仕事で忙しくほとんど会っていない為に儂の苦労から解放してくれる可能性を持った駒としか思っていない。基本男には厳しい性格。

 ただ娘たちはかなり溺愛している。女性には甘いというか強く出れない。(身分が貴族や天魔・英雄~~~一流に限る)

 幼い頃から平民は物のように考えろと教育されている為に人を人的資源と考えている。

 実は戦闘大好き人間。

 大分先の話にはなるが。国王としての仕事も地位も、ヤマダ王国にいる家族も本当に全てを投げだして、満面の笑みで戦場に走り出させる予定。

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