第107話・外伝・国王は悩むが一人で自己解決する


「た、大変です。国王様、学園のパーティー会場にいた全ての人間が気を失うという事件が起こりました」

 一人の伝達係の兵士が慌てて国王にそう報告をした。


 国王は今行っている書類のチェックを並行しながら、その兵士の言葉に耳を貸す。


「原因はなんじゃ?」


「そ、それが一切分かっておりません」


「一切分かってないじゃと。ならば今すぐに【察知の天魔】であるカレーヌ殿に何を察知したか聞いてこい。カレーヌ殿の力ならば何が起きたのか理解出来ているじゃろうからのう」

 事実であった。

 学園パーティーの会場は今カレーヌがいる訓練場と距離はそこまで離れていない。【察知の天魔】となり常に王都全域とまではいかないもののかなりの広範囲で察知の力を行使しているカレーヌからしてみれば、学園パーティーで起こった出来事は簡単に把握できるものであった。

 何なら実際に把握している。

 把握した上で一応国王もとい義父に連絡をしようかと思ったが、お得意の察知でこれは報告しない方がグレンの為になると察したので連絡をしてないだけである。


「確かにその通りでございます。今すぐカレーヌ様に確認して参ります」

 兵士は国王に敬礼をするとカレーヌのいる場所目指して走り出した。


「ハア。しかし学園パーティーにいる者が全員気絶か。一体全体何がどうなっておるのじゃ」

 国王は深いため息をつきながら今回の件についての理由・原因を考える。 

 例えば魔王軍による策略である可能性

 例えば他国、具体的には【帝国】や【陸天共和国】といった国が我が国に何かしら工作を行っている可能性

 例えば天魔がお遊びだったり、グレン関係などで我が国にちょっかいをかけてきた可能性。

 例えば天魔の血が流れているということで潜在能力だけで見ればかなりの力を持つ王族・具体的には第一王子・第二王子が何かしらのきっかけで覚醒をし、その反動で自分含めで全員を気絶させてしまった可能性

 色々な可能性が国王の中で思い浮かぶ。

 しかしながらどれもそうだと言える確証がなければ、どの可能性においてもカレーヌ殿が報告しに来ないということはないと言い切れるから、余計に分からなくなってしまう。


「しょうがない。ここはカレーヌ殿を待つとするか」

 国王は自分が今ここでいくら悩んでも結論は出ないという結論を出したので、カレーヌ殿の報告を待つことにした。

 それからでも対処は遅くはない。そう思いながら。


「国王様、拒否されました」

 書類仕事をしていたら、先ほどの兵士が慌てたようにそう言ってドアを開けた。

 もちろんいきなり国王のいる部屋のドアを開けて、礼儀とか忘れて喋りだすのは無礼極まりないが、そんなことは今の国王にとってどうてもよかった。

 それ以上に報告が大切であった。


「どういうことじゃ?」


「そのまんまです。カレーヌ様にお伺いを立てましたところ、「直に分かる」とだけ言われて追い返されました」


「は?どういうこじゃ?直に分かる。確かにカレーヌ殿はそうおっしゃられたのか」


「はい。周りにいた騎士団員達もその言葉を聞いております」


「そうか。そうか・・・。分かった。もうよい下がっていいぞ」


「は。失礼いたしました」 

 兵士は敬礼をして持ち場に戻っていた。


 国王は一人の部屋にて膨大に積まれた書類を見ながら呟く。


「本当にどういうことじゃ?」


 と。


 国王は考える。何故カレーヌ殿が直に分かるという意味の分からないことを言ったのか。

 それを言葉通りに受け取ればカレーヌ殿はこの件について全て知っておることになる。じゃあ、何故カレーヌ殿が説明しないのか。

 それにカレーヌ殿が放置をしているということは今現時点で危険性がない事態ということなのか?

 うむ。分からん。


「しかし、カレーヌ殿が直に分かるという言葉を残したのじゃ。暫く時間を置いてみるかのう」

 

 ・・・・・・・・・・・


 カキカキカキカキカキカキ


 国王は部屋の中で書類仕事をする。


 書類に目を通してると、とある書類が目についた。


 その書類の名前は【聖教国の変化と報告】であった。

 内容は聖教国がどれだけ変化しているかというのが主として書かれており、聖教国内の上層部がまるで人格が変わったかのような行動を起こすところから始まり、貴族や司祭の一斉処罰に聖女の代替わり、果ては聖教国で起こった大改革とそれによってこれから予想されるであろう聖教国の急成長について書かれていた。


「これは厄介なことになったかもな」


 当たり前の話であるが、今現在この世界の国は絶秒なバランスで維持されている。

 ただ、今はそのバランスが非常に危ういものとなっている。その最も大きな理由として急激に力をつけた我が国もといヤマダ王国にあった。

 ヤマダ王国にて天魔という世界最強の戦力がはいきなり3名も出現した。

 それも一人は王子のメイド・一人は騎士団長・一人は将軍と。

 全員が一応ではあるがこの国に忠誠を誓っている存在であったのだ。つまり【探知の天魔】を合わせれば天魔が4人が全員王家に対して忠誠を誓っている状況となっているのだ。

 天魔という最強の存在は基本的には自由気ままで自分勝手、普通は国に仕えるなんてことはない。あり得ない。なのにヤマダ王国はそのあり得ないを実現させてしまっている。

 そうつまりヤマダ王国は数か月前までは天魔が一人しかいないギリギリ大国と呼べる程度の国だったのに、今は天魔を4人も保有する恐るべき大国になっているということだ。


 これを脅威と言わずして何と呼ぶ。

 

 ヤマダ王国は今まで他の大国とはかなり良い同盟関係を結べていた。

 しかしそれはあくまでこの国を攻めても旨味が少ないのと、同盟国として良質な武器・防具を輸出して貰った方が良いという判断だからであったからである。

 それがいきなり天魔4人も抱える大国になりました、これからも仲良くしてくださいねって出来るはずがない。

 

 そんな中での聖教国で起きた大改革だ。


 聖教国とヤマダ王国は非常に嫌な緊張状態にある。

 理由はいくつかあるが、やはり一番大きいのが聖教国の勇者が我が国に滞在している時に魔王軍に襲われて力を奪われてしまったという件だ。

 これが非常に不味い。少なくとも聖教国がヤマダ王国に対して良い感情を持っているわけがない。

 そんな中、聖教国が大改革を推し進めて国力を高めている。

 ヤマダ王国は急激に力を強めて他国から警戒をされている。


 これを踏まえると予想される最悪のケースは聖教国を筆頭に陸天共和国・バジリスク連合国・ソルティー国・帝国等の大国が同盟を結び、一気にヤマダ王国を滅ぼすという可能性だ。

 流石にないと信じたいがしかし、絶対にないとは言い切れない。


 人間、いきなり力を持った国に対して「おめでとう」なんて言って歓迎出来る程できてはいない、少なくとも牙を向かれたら困るから、今のうちに排除をしようと考える方が非常に納得がいくというものだ。


「ああ。胃が痛いのう」

 一人胃痛に悩まされながらお腹をさすって、ふと、とあることを思い出す。


「あれ?そういえば聖教国の【洗脳の天魔】が洗脳されてて、うんたらかんたらとグレンが言ってなかったけ?」

 

「あれ?そういえば聖女が新しく変わったけど。その聖女の名前は確か【セリカ】だったはずじゃよな?【洗脳の天魔】【セリカ】うむ。どことなく似ておる。それに聖教国上層部がまるで人が変わったかのようにって、うむ、それって洗脳じゃないかのう?」


・・・・・・・・・・・・


 国王の頭の中で点と点が一つの線になった。


「なるほど。これはおそらくグレンが【洗脳の天魔】を眷属として、聖教国を裏から支配させている可能性が高そうじゃな」


「ふむ。そうなると、我が国は無条件で聖教国を属国ないし、強固な同盟国として扱えそうじゃな。そして聖教国はほぼ全ての国に宗教という形で根付いておるから、聖教国相手に戦争を仕掛けれる国はおらんじゃろうし。うむこれは勝ったな。一応後でグレンに聞いておくかのう」

 国王はそう結論を出して、また書類に目を通し始める。


 そうして暫く仕事をしていた時だった。


「お父様。お話があります」


 【剣舞の天魔】であり、グレンの第一メイドにして正妻のイトがドアを乱暴に開けて入って来た。


 そして聡い国王はこれがカレーヌ殿が直に分かるといっていた意味だと理解するとともに。これから自分の胃痛がマックスになるという気がしてしょうがなかった。


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