第108話・外伝・国王は発狂する


「えっと。つまり、どういうことじゃ?」

 国王はいきなり入って来たイトから一通り、全くもって滑稽であり得ないされど、あり得そうな、知りたくもないし、絶対に訪れて欲しくないを凝縮した地獄のような話を聞かされて、そう呟いてしまう。


「ですから、お父様は未来で傭兵になった後【雷鳴の天魔】に殺されて、第一王子は闇落ちして結婚相手であるマリアちゃんに対して拷問をしてお腹の中にいた自分の子供を殺した上でマリアちゃんも殺しかけたり、この国をひたすらにボロボロにして、最低最悪の暴君となった挙句の果てに未来のグレン様と天魔に覚醒したマリアちゃんの手によってヤマダ王国が滅ぶって話です」


 ・・・・・・・・・・


「えっと。つまり、どういうことじゃ?いや違う。言っていることは分かるのじゃ。ただどういうことなのじゃ?え?待ってくれ。儂が死ぬ?傭兵になって。この国が滅ぶ?グレンと天魔に覚醒したマリアの手によって?ふむ、ふむふむ、は?どういうことじゃ?」

 流石の国王もこの異常事態をすんなりと飲み込める程、頭が柔らかくはなかった。


「まあ。確かにいきなり言われた困惑しますね。そうですね。最初から分かりやすく説明してあげますか」


「まず。お父様、第二王子の婚約相手であるマリアちゃんは分かりますか?」


「うむ。それは分かるのじゃ」


「その子が今日婚約破棄されたのは知っていますか」


「それは知らんが、なるほど。理解はできる。ようは第一王子派閥の策略といったところか」

 聡い国王は今の所の第一王子・第二王子派閥の関係性を頭に浮かべながら、第二王子が婚約破棄して、マリアが第一王子の婚約者となったらば起こるであろう、勢力変化と最終的な到達点を思い浮かべる。

 そして先ほどイト殿から聞いたあり得ない話を、仮に真実だと仮定しつつ、第一王子・第二王子そして周囲の環境が及ぼす影響について最も愚かで最悪な可能性で事件が起きると仮定をした。

 すると。なんということでしょう。

 嫌な点が繋がって、綺麗に線になってしまった。

 先ほど聞いた、信じられない最低最悪の未来があり得ると思えてしまう根拠が出来上がってしまった。

 

 パラパラ


 国王の髪の毛が過度のストレスで抜け落ちる。


「その通りです。流石グレン様のお父様ですね。というか、お父様。いきなり髪の毛が落ちましたけど大丈夫ですか?」


「ああ。すまん大丈夫だ。いつものことだからな。話を戻すが、つまり、マリアが婚約破棄されたことによって未来で私の息子が闇落ちして儂は殺されて、この国は滅ぶということじゃな」


「そういうことです」


「それで、先ほど、えっと回帰じゃったかのう?その回帰によってマリアは未来の記憶を保持したままこの過去にやってきたということなのじゃな?」


「まあ大雑把にはそういうことです」


「なるほど。ヒール」

 国王は激しい胃の痛みに襲われたのでヒールをかける。


「それでですね。マリアちゃんをグレン様のメイドにしたいです。というかします」

 言い切られた。

 そもそも一国王が天魔の言葉に逆らえる通りがそもそも論として存在していない。何故なら逆らう=死であるのだから。

 とどのつまり拒否権などないということである。


「うむ。そうじゃのう。この件に関して儂に拒否権はない。好きにするがよい。後の処理は儂がやっておく」

 この瞬間国王の胃と髪の毛の崩壊が確定した。


「ありがとうございます。お父様、あ、それと多分マリアちゃんもグレン様の眷属になるんで天魔に覚醒すると思います」


「そうか。またなのか」

 天魔それは世界最強の戦力でありこの世界に100といない超絶貴重な存在であり、そう滅多に覚醒しない存在である。

 だけど短期間でこうもポンポンと覚醒をされたら、またなのかという気持ちになるのはある意味自然であった。めちゃくちゃ胃にくる話ではあるが。


「そうですね。またですね。まあいいじゃないですか。天魔が増えるのはいいことですし、グレン様の勢力が強くなるっている意味も込めてね」


「ハハハ、まあ。そうじゃのう」

 乾いた笑いを漏らす国王。笑顔は完璧に死んでいた。


「それじゃあ。私は戻りますね。諸々の仕事は任せましたよ」


「ああ。分かったのじゃ」

 そうしてイト殿は大好きなグレンの元に帰ってった。


 ――――――――――――――――


 国王は部屋に一人となる。

 正確に言えばドアの前に護衛の兵士がいるが、部屋の中では一人である。


 そしてこの部屋にはある程度防音がしっかりとなされており、侵入者を警戒して窓等もない。


 ただ、流石に大声で叫ぶと護衛の兵士に聞かれてしまう。

 だから国民は魔法を行使して部屋に風の膜を張り、防音を行う。


 そして一旦冷静になってから叫んだ。


「おまえ、ふざけんな~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「儂に、いや俺に一体どれだけの胃痛をおわせるつもりだ、というか、マジで何がどうなってどうすればそうなるんだよ。なんだよ。マジでなんだよ。ふざけんなよ」


「何で俺がこんなに苦労してんだよ。国王とかクソだろ。いますぐ第一王子に譲って逃げて~~~」


「大体。こんな地獄のようなというか地獄と=の場所で国王するくらいだったら戦場に出て天魔と戦って死んだ方が100倍マシだわ。ボケクソが、クソがくそがクソが~~~~~~~~~~」


「辞めて~~~。国王辞めて~~~。こんな仕事やりたくねぇ、戦っていたいよ。何で俺は王をやってんだよ。大体俺は元々一人称俺だよ。何だよ国王は儂って一人称使えって法律がこの国にはあるんだよ。初代国王は何を思ってこんな法律作ったんだよ。意味が分かんねよ。馬鹿じゃないのか。クソが死ねよ。ふざけんじゃねって、もう死んでるし、クソ無責任な」


「マジで本当に馬鹿じゃないのか、馬鹿じゃねえのか、いや馬鹿だろ。阿保だろ。恨むぜ初代国王よぉ、大体何で俺は国王をやってんだよ。マジで何で国王なんてのを俺はやってんだよ」


「ハア、ハア、ハア。ハア。ハア~~~~~~~~~~~~~。ァ」


 国王は一人発狂した。


 それはもう盛大に発狂をした。


 今まで誰にも明かさなかった、否、【探知の天魔】だけに明かしたことのある本音をぶちまける。

 ぶちまけてぶちまけて、一人で叫んで叫んで叫びながら床に寝っ転がる。


 国王にあるまじき姿をさらしながら天井を見上げる。


 無駄に豪華なシャンデリアがあった。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 国王は笑った。


 笑えて来たから笑った。


 笑って笑って笑って。


 ふとこれからのことを考えてしまう。

 第一王子と第二王子のやらかすであろう恐ろしい失態。

 特に第一王子の闇落ちは致命的だ。致命的過ぎる。一応国王の頭の中ではまだ実力こそ足りていないが第一王子は充分に王として君臨するに値する器であると思っていた。

 【探知の天魔】や自分に忠誠を誓っている優秀な大臣もいる、自分がある程度先代国王として1年程傍で補佐をしてやれば、十分に優秀な国王になると思っていた。

 それからは一人傭兵として優雅に生きようかなと思っていた。

 だけど、今となってはそれは夢物語、少なくともここで第一王子を王とすればグレンがここから出ていく可能性が存在してしまった。

 ついでにいえば確定でマリアという天魔が敵に回るという地獄みたいな状況になっている。


 誰が好き好んで天魔と敵対したいというのか、しかも未来でこの国を滅ぼしているらしいし。


 そうなると第一王子を王には出来ない、第二王子はとなると、まあそもそもあり得ない。選択にすら値しない。

 となると一番いいのはグレンが王になることだがグレンは王位継承を破棄してる上にグレン本人が絶対に拒否をするであろう、無理やりなんてのは天魔であるグレンにできるわけがない。


 ならばどうするか?


 第三王子・第四王子が候補に挙がってしまう。もしくは第六王子、第七王子・・・・・・、最悪今から子作りを・・・・・・・


 胃に激痛が走る。


「ハア」


 深い深い重い重いため息がこぼれ落ちる。


「どうしようかのう・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・


 誰も答えてくれるわけがなかった。

 つまり一人で何とかするしかないということだ。


「ハア。やるかのう、俺がいや、儂がここでうじうじ悩んでも仕方ないしのう。ああ、傭兵になって戦闘に明け暮れたいのじゃ」

 深く重いため息を吐きながら、国王はこれからの展開について考える。

 最も犠牲が少なく、最もこの国の為になる展開を。

 一人書類仕事をしながら考えるのだった。


 ――――――――――――――――


 補足説明

 グレンが絡んでいるせいで誰にも相談できず一人で考えるしかない哀れな国王。

 本作ではめちゃくちゃ苦労人だが、原作ゲーム【乙女ゲームと呼ばないで】の中では戦闘狂の設定な為にそこそこの高確率で王位を適当に第一王子か改心した第二王子に押し付けて一人で傭兵になったりする。

 結構平民に対する差別意識を持ってる、正確に言えば実力のない者に対しては非常に厳しかったりもする。

 具体的には自分に無礼な発言をした下級貴族や使用人・兵士は自らの手でその場で殺したりしている。

 ただ、それはあくまで王という立場故での行いであり、傭兵になった際には些細なことは気にしない。(まあ、傭兵になるとストレスがかからないから気にしてないってのはあるけど、王の時はストレスかかりまくりだから。ようはストレス発散で自分の手で斬り殺してる)

 一応王として自分に無礼を働いたものはこの手で処罰しなければ示しがつかないからってちゃんとした理由もある。

 だけどゲームをプレイしながら見ると、結構優しくしてくれた下級貴族が王の出した少数を犠牲に多数を救う案に苦言を呈して殺されたりしてるので、まあ中々にクソ野郎に見える。

 ルートによっては国王を主人公が第二王子と共に殺して無理やり王位を奪うルートや、傭兵として大成して【傭兵の天魔】として覚醒をするルートもある。


 ――――――――――――――――


 国王頑張れと思った方は星とハートを入れていただけると嬉しいです。


 ぶっちゃけた話、ランキング乗ってるときはめちゃくちゃモチベあるけど、ランキングから落ちたらモチベ下がって更新やる気なくすっていう悪循環をしてる。

 ただしっかりと毎日更新をして、頑張ればランキングも上がってモチベも回復するかなと思ってるから、しばらくは頑張って毎日更新をしたいとは思う。


 というわけでこの作品を面白いと思っていただけてたら、友人とかに勧めていただけると嬉しいです。(願望マシマシ)

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